波乱の辺境伯領1
王都の別邸に泊まった翌朝には、辺境伯領へ向けて旅立ったので、別邸で問題等も起こる事は無かった。
どうしてそんなに帰郷を急いだのかといえば、王城からの使いが再び来たり、誰かがお父様を訪ねて別邸に来る前に逃げちゃおうぜ! って事で。
王都は魔境だから、長居するものじゃないと思う。
留守にしていた2ヶ月の間に、水車と風車の計画は進んでいた。
モルトとぺトラスを中心に、お兄様が指揮を取ったそうだ。
辺境伯領内で全てが稼働するまでにはまだまだ時間は掛かりそうだけど、確実に前に進んでいた。
我が辺境伯領は、これから先豊かになっていく。
領民が飢えることなく、皆が笑顔になれる、そんな領地を目指したい。
隣国の問題は、収束へと向かっている。
隣国に帰った彼は、すぐさま反乱軍と合流し、賛同する貴族の支持を受け、立ち上がった市民達と協力し、兄王子が篭城する城へと攻め入った。
クリスホードが隣国に辿り着くまでに、兄王子をを討つ道筋は出来ていたと聞く。
流石、女神の神託だ。
味方が居なくなったにも関わらず、兄王子は最後まで激しく抵抗し、クリスホードに討ち取られた。
あの優しいクリスホードが、兄王子を討ち取るのは苦渋の決断だっただろう。
同じ馬車に乗り王都へ向かう道の途中で、彼が言ったことを思い出す。
『兄王子を捕まえ、断罪の塔へと幽閉したい。そして、平和になっていく国を見つめながら罪を悔いて欲しい』と。
死ぬ事は罪の償いにはならない。
生きて、自分が手に入れられなかったものを見つめながら、何がいけなかったのかを自分に問いながら一生を過ごす方が余程いい。
でも、結果はクリスホードの思い通りにはならなかった。
「クリス様は、後悔していらっしゃるのでしょうね。あの方はとてもお優しい人だから」
自室のベランダから、隣国へ続く山並みを見つめる。
自分の命を狙った馬鹿な兄王子だとしても、彼にとっては血を分けた兄弟。
心の底で恨みきれない気持ちを抱えている違いない。
「弟王子様の言うように生かしておいても、後の火種となるのは目に見えていたのかも知れません」
キャサリンも同じようにクリスホードの言葉を聞いた者として、何か思う所があるのだと思う。
「そうね。生きていれば、再び担ぎあげようとする者達も出たかもしれないわね」
権力に目のくらんだおバカさんは、湧き出てくる。
私は振り返り背後にいたキャサリンを真っ直ぐに見つめる。
「はい。ですから、討ち取れた事は結果として良かった様に私は思います」
「これもまた因果応報なのよね」
もう一度山々を振り返り、その先へと視線を向ける。
まぁ、王位についても大変だろうけど、クリス様には頑張っていただくしかないわね。
うちの領地に迷惑が掛からないように、是非とも尽力して欲しい。
「アリーシャ様、風が出てきました。そろそろ室内に戻りましょう」
「ええ。そうね」
頷いて歩き出す。
今度の隣国の行く末は、私の預かり知らぬところ。
ぜひとも、大人達には頑張って欲しいものだ。




