王都と書いてまきょうと読む20
「それでは帰ろうか。アリーシャ」
「はい、お父様。キャサリン、お母様達のプレゼントを預かってきてね」
「かしこまりました」
キャサリンが丁寧にお辞儀する。
お父様はおばさん達を無視したまま歩き出す。
お母様が傍に居ないからチャンスだとでも思ったんだろうけど。
考えが浅はかすぎるんだよ。
「あ、あのし、シルバード様」
娘の方が声をかけてくる。
「名を呼ぶ事を許可してはいない!」
お父様は低い声で怒鳴ると2人を睨みつけた。
「お父様、格上の人のお名前を呼ぶには許可がいることを、あのお姉さんは知らないのね。6歳の私でも知っているのにね」
笑顔を作りながら、笑っていない視線を彼らに向ける。
私の言葉に顔を赤くした娘と母親は、こちらを睨んでいるけどちっとも怖くない。
「アリーシャほど頭が良くないのだろう」
「そうなのね。なのに、美しくて頭のいいお母様に対抗しようだなんて勇気がおありなのね」
ゆるりと口角を上げる。
「勇気と無鉄砲を、アリーシャは履き違えてはいけないよ」
お父様の一言で2人は恥ずかしさに耐えきれず俯いた。
「はい、お父様」
「良い子だ。さぁ、帰ろう」
再び歩き出したお父様に、2人はもう声を掛けることは無かった。
王都って、ほんと魔境だよ。
変わった人種が多すぎる。
王都の別邸に着く頃には私とお父様の機嫌も良くなってた。
あんな人達をいつまでも覚えてるのは時間の無駄だもんね。
「おかえりなさいませ」
別邸の執事が屋敷に迎え入れてくれると、両側に屋敷のメイドや侍従者達が整列していた。
「「「おかえりなさいませ」」」
一斉にお辞儀する。
「ああ、戻った。娘のアリーシャだ、皆よろしく頼む」
「お嬢様、ようこそいらっしゃいました。ごゆるりとお過ごしくださいませ」
メイド頭らしき人が代表して挨拶してくれた。
「アリーシャよ。よろしくね」
お父様の横でにっこり手を振ると、みんな笑顔になった。
「「「お可愛らしい」」」
そんな所まで声を揃えなくていいから。
恥ずかしくなっちゃうよ。
屋敷と同じ様な空気の別邸に嬉しくなった。
「先ずは部屋にご案内して差しあげなさい。旦那様達は疲れておられるだろうから」
執事の声に皆が一斉に動き出した。