王都と書いてまきょうと読む16
「恥ずかしい所を見せてしまったね」
陛下は申し訳なさそうにお父様と私を見る。
「陛下、家族会議を開かれる事をお勧めします。娘を思うならば早く対処する方が良いです」
「あ、ああ、そうだな」
うむと考え込んだ陛下に、考えるより行動だ! と伝えそうになる。
あのまま育ったら、本当に悪役令嬢になっちゃいそうだ。
「それでは、我々はこれで失礼致しますよ。陛下は王女様の事を優先して差し上げてください」
「えっ。もう帰るのか?」
「娘が少しホームシックになっておりますので、辺境伯領へと帰還を急ぎたいと思っております」
お父様は私にだけ分かるように目配せしてくる。
「お父様、早くお母様にお会いしたいです」
お父様の袖を掴んで寂しげに目を潤ませる。
ホームシックにはなっていないけど、そうゆう設定だ。
面倒事に巻き込まれる前に、戦略的撤退だね。
「そうだな。皆への土産を買って、早く帰ろうな」
お父様は私を抱き上げ背中を撫でる。
「いや、しかし、ほら、王子達との交流をしてみてはどうだろうか」
「うちの娘はまだ6歳、年上の王子様のお相手など務まりませんよ」
「そんなことはないだろう。それに、ほら誕生日のプレゼントもまだ渡していないだろう」
何としても引き留めようとする陛下に、早く帰りたいと切に思う。
「王族の皆様とこの様な機会を与えていただけた事がプレゼントです。ね、お父様」
「そうだね。王都から遠い我が辺境伯ですから、こう言った機会は中々ないですからね。機会を頂きましたこと、王族の皆様に感謝申し上げます」
お父様の言葉の中に、遠いからあんまり呼ぶなよ! が含まれていた気がする。
「貴方、諦めなさいませ。6歳の子が母親と長く離れると言うのは辛いことなのですよ」
「しかし、だな……」
スカーレットにそう諌められた陛下は、肩をガクりと落とした。
母親としてのスカーレットの言葉は彼の耳に届いたのだろう。
この人がソフィアローゼの母親ならば、彼女はあんな風に育たなかったのかも知れないな。
「そ、それではプレゼントだけは受け取って帰ってくれ。白馬の牝馬を用意した。まだ仔馬だが、よく躾れば良い馬になるはずだ」
「馬……」
陛下の言葉にお父様は険しい顔をする。
「馬はダメだったか?」
「……」
無言で陛下を見るお父様の目は冷たい。
その視線に陛下が焦りの色を見せている。
お父様は、半年前に私が暴走した馬から落馬した事を思い出してるに違いない。
「あ、あの陛下、実は私、半年前に暴れた馬から落馬してしまって、それ以来お父様は少し神経質になっているのです」
慌てて言い訳を伝えた。
お父様、陛下を睨んじゃダメだって。




