王都と書いてまきょうと読む14
カチャンと音がして視線を向けるとソフィアローゼ様が、フォークを投げ捨てていた。
「お母様、私もう要らない」
彼女の周りだけ食べ物が散らかってる様子に、あちこちから溜め息が漏れ出た。
「ソフィア、お行儀が悪いわよ」
アンネマリーが叱っても、
「だって、これ食べずらいんですもの」
と不貞腐れる。
あ、さっきの違和感はこれか。
随分と行儀がなってない。
6歳児って、こんなものなのかな?
「ごめんね、アリーシャ。ソフィアはいつもあんな感じなんだ」
ジャックお兄様の眉は八の字に下がってしまう。
「あ、いえ」
大丈夫だと言おうとした時、
「ソフィアローゼは、まだ人前に出せないな。部屋に連れて行け」
陛下の低い声が響いた。
「陛下、大変申し訳ございませんでした」
アンネマリーは席を立つとソフィアローゼを抱き上げた。
「ソフィア、まだここにいたいわ」
「ただをこねないで、ソフィア」
「あの子はここに居てもいいのに不公平だわ」
私を指差し睨みつけるソフィアローゼ。
甘やかされて我儘姫になってるのかな。
食事のマナーも人を指さす仕草も、ソフィアローゼの品格を落とすだけだと言うのに。
「アリーシャ様、大変申し訳ございません」
慌てて謝るアンネマリーが不憫に思えた。
「どうしてお母様が謝るのよ。ソフィアは何も悪くないわ」
この娘、どうしてくれようか。
自分の母親に謝らせておいて、その態度はなんだ。
冷めた視線を送ってしまったのは仕方ないと思う。
「アリーシャ」
名前を呼ばれお父様を見ると、静かに首を横に振った。
ここは我慢しなさいって事ね。
……ま、王族に向かって、何か言うのは不敬罪になるものね。
「お前達、ソフィアローゼをさっさと連れて行け」
陛下の言葉に壁際に控えていた兵士が、ソフィアローゼを抱き上げてるアンネマリーを取り囲むと、部屋の外へと連れ出していく。
「いやよ! 私は姫よ。貴方達向こうに行って」
ソフィアローゼの叫び声が遠ざかっていく。
パタンとドアの閉まる音が聞こえ、肩の力が抜けた。
「アリーシャ、せっかくの誕生日の祝いの席に不愉快な思いをさせてすまなかった」
「いえ、陛下に謝って頂くことはなにもありません」
反省して謝るのはソフィアローゼだけだ。
彼女がこのまま大きくなって大人になったら……。
とんでもない悪役令嬢の出来上がりじゃないか。
「あの子は側室が甘やかしすぎて我儘放題なの。私達もそれとなくは伝えてはいるのだけれど」
「このままでは、ソフィアローゼ様の将来が危ぶまれるのではないですか?」
「ええ。貴女の言う通り、王族は何を言っても何をしても許されるだなんて思ってるのは危険すぎるわね」
ほとほと困ったとばかりに溜め息を漏らしたスカーレット。
「あ、アリーシャ」
しーっと口元に指を立てたお父様に、あ! 本音喋ってた、と気付く。
人差し指で口元にばってんを作る。
もう、余計な事は話しません。




