王都と書いてまきょうと読む12
王城って息が詰まる。
始めてきた感想はそれに尽きる。
王城自慢のバラ園に到着して、やっと息の詰まりが取れた。
季節毎に咲き誇るというバラは、とても見事に咲いていた。
バラ特有の馨しい香りが周囲に漂う。
「ここが、代々の王妃が管理しているバラ園だよ。見事な物だろう?」
「はい、お父様。先程までの不愉快を吹き飛ばしてくれました」
「ククク……確かにその通りだ」
肩を揺らして笑うお父様の首元にきゅっと抱きついた。
「まぁ、シルバード様ではございませんか?」
今度は誰だよ。
甘い声のした方に視線を向ければ、そこには派手な化粧の金ピカな装いのご婦人。
扇子で口元を隠しながらも、お父様を見る目がギラついてある。
ヨヒアムとマッケンが私達を庇うように前に出る。
しかも、家名じゃなくて名前呼びとか、こいつ誰だ。
お父様も名を呼び返さないって事は、知り合いでは無いのだろう。
「どなたか存じませんが、我が主に不用意に近づくのはおやめ下さい」
警戒を宿した声でヨヒアムが牽制する。
「わ、わたしくは外務大臣の娘ですよ。父からシルバード様がいらっしゃってると聞き、ご挨拶に伺ったのですよ」
お父様に色目使いに来たってことじゃないか。
「申し訳ないが、私は貴女を知らないし、名を呼ぶ事を許した事はない」
毅然とした態度でそう答えるお父様。
「わたしくは、ア……」
「名乗りも不要、貴方と知り合いになるつもりは無い。今すぐ立ち去れ」
名前を名乗ろうとしたご婦人に、言葉を被せるように牽制した。
「……そ、そんな、わたしくは」
なおも食いさがろうとするご婦人。
しつこいってば。
「マッケン、外務大臣に今すぐ苦情を入れてくれ」
「はっ」
マッケンが持ち場を離れると、キャサリンがその位置についた。
お父様と私には絶対近づけさせないと言う強い意志が、ヨヒアムとキャサリンから放たれる。
「も、もう、いいですわ」
顔を真っ赤にして逃げ去っていくご婦人。
こっちが、もういいって言いたいから!
「お父様、王都は魔境ですか? 話の通じる人が少なすぎる気がします」
「魔境には違いないだろうな。相荒れない連中が五万といる」
「早く辺境伯領に帰りたいです」
はぁ、と溜め息をついた。
「謁見が終わったら、すぐさま帰ろう」
「はい。あ、でもお兄様とお母様にお土産を買いたいのでそれが終わってからです」
「アハハ、そうだな。土産は買わないとだな」
お父様と顔を付き合わせて笑い合う。
魔境に長居はしないけど、少しだけ王都の散策をしなくちゃね。




