贈り物なんて呪いでしかない1
再び目覚めると、ベッドの周りに心配そうにこちらを見つめる両親と兄がいた。
「あぁ、アリーシャが目を覚ました。神様ありがとうございます」
そう言って涙を流しながら私の手を掴んだ金髪のイケメンは、私のお兄様、ジオルド・ブランシェット。
氷魔法を得意とする14歳のブランシェット家の長男である。
「お兄様、ご心配をおかけしました」
神様にお礼なんて言う必要ないんだけどな、と思いつつも笑みを浮かべる。
「アリーシャ、頭を打ったみたいだけれど吐き気などはないかしら?」
そう言いながら私の顔を覗き込んだ美魔女は、腰まである艶やかなブラウンの髪を揺らす。
マギアナ・ブランシェット、炎魔法の使い手である私のお母様だ。
「はい、お母様。眠ったらすっかり良くなりました」
「それは良かったわ。お父様とジオルドが大騒ぎしていたのよ。もちろん、私も心配していましたよ」
お母様は、お父様とお兄様に困ったように視線を向けた。
2人はかなり大騒ぎしたんだろうと予測。
娘バカと妹バカは、うちの界隈では有名なのである。
「マギアナ、そうは言うが、心配で心配で胸が張り裂けそうだったんだよ。アリーシャ、本当に無事でよかった」
情けないほど眉を八の字に曲げたショートヘアの金髪のイケおじは、父親のシルバード・ブランシェットである。
この国の王弟であり、西の辺境伯で、炎魔法と風魔法を操る魔法剣士だ。
「お父様、ご心配おかけしました。アリーシャはもう元気になりました」
ここは飛びっきりの笑顔を振りまく。
家族に余計な心配を掛けちゃった事に胸が傷んだ。
馬が暴走したのは私のせいではないけれど、この優しい家族に心配をさせてしまったのは私だもの。
「いいんだよ、アリーシャ。馬番に君の乗っていた馬を調べさせたら、足に蛇に噛まれた跡があったそうだよ。不測の事態だったんだ」
お父様の説明に、なるほど蛇に噛まれて驚いたのか、と納得した。
春先のこの時期は冬眠から起きた蛇が動き始める。
なんともタイミングの悪い話だけど、仕方の無い事でもあった。
「落馬して軽い脳震盪で済んだのは、本当に幸いだったね、可愛いアリーシャ」
お兄様はそう言うと私の頭を優しく撫ぜる。
「はい、お兄様」
素直に頷くとお兄様と同じ金色の長い髪が揺れた。
「さぁ、外も暗くなってしまったようだし夕飯を取りましょうか。アリーシャはお部屋にお食事を運ばせる?」
お母様はパンっと手を叩いた。
1度目に目が覚めた時は外はまだ明るかったのに、すっかり夜になっていたのだと気づく。
「はい、そうします、お母様」
お言葉に甘えて今日は部屋で夕飯を取ろう。
1人で考えたい事も試したい事も沢山あるんだもん。
「では、私も一緒に……」
とお父様が言いかけたところでお母様は被せるようにピシャリと言う。
「さぁ、貴方とジオルドは私と一緒に行きましょうね」と。
「そ、そうだな」
お母様に弱いお父様はイエスマンだ。
「アリーシャ、また後でね」
苦笑いのお兄様は、私の手をそっと離して立ち上がると優しく微笑んだ。