王都と書いてまきょうと読む11
翌朝、キャサリンがベランダに続く窓のカーテンを開ける音で目が覚めた。
眩しい朝日が目に痛い。
「おはよう、キャサリン」
「おはようございます、お嬢様。朝食を召し上がった後、謁見までの時間までバラ園を見に行かないかと旦那様からお誘いがありましたよ」
「まぁ、ぜひ行きたいわ」
キャサリンに聞いてから気になってたんだよね。
「それでは、その様に返事をしておきますね」
「ええ、よろしく頼むわ」
頷いてベッドから起き上がった。
キャサリンがテーブルに用意してくれた朝食を軽く取り、念入りに着替えに取り掛かる。
今日はオレンジ色のドレスだ。
白いレースが胸元から広がり、段々とオレンジ色を帯びていき、幾重にも重なったレースが足元を涼しげに見せていた。
背中には大きめのふんわりとしたリボンがついている。
キャサリンは私をドレッサーの前に座らせると髪型を作っていく。
両サイドを垂らして、半分に分けた髪は編み込みして、リボンで止める。
リボンの上に可愛らしいハートを作るのが昨日のポイントらしい。
ツインテールの裾をカールさせ出来上がりとなった。
やりすぎなぐらい可愛すぎるんですけど。
キャサリンて、本当になんでも器用に出来るよね。
「お嬢様、今日もとても愛らしいです」
「ありがとう、キャサリン」
キャサリン渾身の髪型に、私も満足している。
薄紅を引いてもらって、瞳に認識阻害の魔法をかけた辺りで、お父様が迎えに来てくれた。
黒い瞳は、余計な事態になりかねない物ねぇ。
「おや、今日は瞳の色が違うね」
「黒色は、隠した方がいいかと思って」
「そうだね。火種はない方が良さそうだ」
「そう思います」
「では、世界一愛らしいお嬢さん、どうか私にエスコートさせてください」
「はい」
デレっとした顔のお父様に抱き上げられ、バラ園へと向かう。
住居区から出ると、お城の住人以外とすれ違う様になった。
お父様を見て、頬を染めるご婦人方や、値踏みするように見つめてくる城勤めの紳士達。
様々な視線が向けられた。
ヒソヒソと囁き会う声も聞こえてくる。
声をかけるチャンスを伺っている者さえいた。
怖っ……貴族社会、まじ怖い。
「これはこれは、ブランシェット辺境伯では無いですか」
話しかけてきたのは小太りのなんだか偉そうなおじさん。
彼は後ろに小判鮫を3人引き連れていた。
「ゴードン伯爵か、久しいな」
無表情でそう返したお父様を見ると、この人はあまりお付き合いしたくない人なのだろう。
ならば、私が愛想を振りまく必要も無い。
「ええ、お久しぶりですな。今日はご息女とご一緒に謁見ですかな?」
「この子の誕生日祝いをしたいと陛下から招待状を貰ったのでな」
「そうですか。それはめでたい。可愛らしいお嬢さん、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう存じます」
腹に逸物を持ったようなニヤけた顔で私を見たおじさんに、無表情でお礼を言う。
この人、めっちゃ気持ち悪い。
しかも、周囲の人達は私達の会話に興味深々だ。
王城怖すぎる……。
「可愛らしいご息女の婚約者は決まっておるのですかな?」
「ゴードン伯爵、先を急ぐので失礼する」
「あ、いや、もう少し」
「こちらは、話はない」
言いすがろうとするおじさんの会話をお父様は切り捨てと、背を向け歩き出す。
さっさと退散しちゃおう。
値踏みしてくるおじさんを、私が苛立って燃やしてしまわないうちに。




