王都と書いてまきょうと読む8
お父様が戻ってこられたのは夜も更けた頃、夜着に着替えベッドの上で本を読んでいたら、ドアをノックする音が響いた。
「どちらさまですか」
警戒した表情でドアの傍にいたヨヒアムがドアの向こうに声をかける。
「私だ」
聞きなれたお父様の声に私はベッドから飛び降りた。
ヨヒアムがドアを開けると、そこには顔に疲労を滲ませたお父様がいた。
「お父様、お帰りなさいませ」
「ああ。1人で待たせてしまって申し訳なかったね」
「アリーシャは、良い子でお留守番していました」
飛びついてきた私を、軽く抱き上げてくれるお父様をぎゅっと抱き締めた。
「部屋で大人しくしていたと報告受けているよ」
やれば出来る子なのですよ。
「お父様は夕飯はお食べになりましたか?」
「いや、場が紛糾してそれ所ではなかったのだよ」
会議の大変さを物語るお父様の表情に、近隣諸国が隣国の平定後の利権を争ったのだろうなと分かる。
海千山千の統治者達が集まったんだから、そうなるよね。
「キャサリン。厨房にお願いしてお父様に軽食をお持ちして」
「かしこまりました」
キャサリンは目礼すると部屋を出ていった。
「お父様、今のうちにお風呂に入られたらどうですか?」
「そんな汚れているか?」
「少し埃っぽいですよ」
「それは大変だ。ヨヒアム、隣の部屋にいるマッケンを呼んでくれるか」
「かしこまりました」
ヨヒアム急いでマッケンを呼びに行く。
「旦那様! 何度も申しておりますが、お嬢様に触れる前に身綺麗にしてくださいと。湯浴みを終えて綺麗になられたお嬢様に、砂埃がついているでありませんか」
部屋に入ってきて早々、マッケンはかなりの剣幕でお父様に詰め寄った。
私の髪に着いていたであろう埃をささっと叩き落としたマッケン。
「す、すまない」
「この事は奥様にご報告しますからね」
「あ、いや、それは……」
お父様はタジタジです。
「ヨヒアム、お嬢様を旦那様からお預かりしてください。キャサリンが戻ってき次第、お嬢様を綺麗にして差し上げるように伝えてください。旦那様はこちらへいらしてください」
「あ、はい」
ヨヒアムは私を受け取り、お父様を引連れていくマッケンを見送った。
「マッケンて、あんな風に怒るのね」
「よく見かけますよ? 旦那様が叱られているのを」
「そうなのね」
私だけが知らなかったみたいだ。
マッケンはお父様と乳兄弟だと聞いている、気心の知れた仲なのかもしれないな。
「お嬢様は、もう一度入浴されますか?」
「いいえ。キャサリンが戻ってきたら、濡れタオルで汚れてる所を拭ってもらおうかな」
「ですよね」
うんうん、短時間に何度もお風呂なんて大変じゃないか。
これからは、汚れたお父様には直ぐに抱き着かないようにしよう。
お父様が、またマッケンに叱られちゃうものね。