漂い始めた不穏な気配14
おじい様に私が考えてた事を伝えると、更に室内は笑いに包まれた。
「あまりにも深刻そうな顔で考え込んでいたから、小さい子供にはけたたましくなる警鐘が刺激的過ぎたのかと悩んだのが、馬鹿馬鹿しくなったのぉ」
「……お父様や砦の皆の事は心配ですが、彼等ならば大丈夫だという確信もありましたから」
「そうよの。おぬしが前世の記憶を持つことも考慮せねばならぬかったの」
「はい」
おじい様の言うように、前世の記憶が大きく影響しているのは間違いないと思う。
騎士だった記憶は、乱世の時代。
どんな時代だったのかと気になって古い書物を調べたら、この世界は、動乱の世だった。
世界は解体と合併を繰り返し、小さな国が次々と飲み込まれた。
土地を利権を、地位を奪い合い、その中で淘汰される者が多く出た時代。
私が仕えていたであろう主君もまたその渦中に居たのだろう。
身内ですら信じられない世界で、自らの力で切り開き生き抜く術を身に付けた者だけが、その時代を担っていく。
そんな世があったからこそ、今の世界があるのだとしたら、中々感慨深いものではあるけれど。
でも、私は悲しみや苦しみが少しでも少なくなれば良いと思う。
綺麗事だと言われても、それが私の思う生き方。
この小さな手を伸ばして、守れる範囲に居る者を守る為ならば、多少の無理はするつもりでいる。
ドアを叩く音に、ヨヒアムが素早く反応して扉を開ける。
「ライナス様、砦より伝令が参りました」
扉の向こうでモスリードが一礼する。
「入るように伝えよ」
おじい様は一瞬私を見て頷くとそう指示を出す。
緩んだはずの緊張が再び室内を支配する。
「辺境伯騎士団、副団長のカステッドと申します」
そう言って敬礼したのは、私の所に暇潰しに来るオスカーをよく迎えに来る人だった。
見覚えのある人物に詰めていた息をほっと吐く。
「辺境伯からの伝令を伝えよ」
「はっ。隣国の密偵から来た連絡によれば、強硬派の貴族が市民を巻き添えにした事故を起こし、それが元で市民らが暴徒と化し、穏健派も動かざるをえなくなったそうです」
「強硬派の横暴な貴族が市民感情を焚き付けてしまったという訳か」
「はい。ただ双方の武力の差は大きく、穏健派が押され、旗印となる王子を一先ず安全な外国へと逃れさせようと画策しているとこ事」
「また面倒な。我が国に来ようとしてる訳ではあるまいな?」
本当だよ、おじい様の言う通り、うちに来ないで欲しい。
「辺境伯様も、まさか来るはずはないと思っていたのですが、砦より500m程の距離に数人ずつに別れたいくつかの集団が現れました」
「いくつかって事は穏健派の撹乱作戦なのね」
「流石お嬢様! 我々もそう見ております。尚、山を越え、この辺りに現れる者が居るかも知れないと辺境伯様はお考えになられております」
カステッドの言葉にはた迷惑な……と溜息が出た。




