漂い始めた不穏な気配12
壁作りは順調に進んだ。
初日の様に倒れることも無く、誰かに見つかる事もなく、村を覆う壁の5分の4を完成させた。
突然現れ始めた壁に、住人達は初日の翌朝には驚きはしたものの、大きな混乱とはならなかった。
毎日、大量の魔力を消費する事で私の魔力量も大幅に増えた事は、ここで告げておこう。
隣国と接している所は、既に壁作りを終えていた為、気持ち的にもすっかり余裕が出来ていた。
最終日、深夜を待つ私達の耳に届いたのは、けたたましくなる砦の警鐘だった。
慌ててログハウスから出た私達に見えたのは、沈みかけた夕日が空を赤く染め、まるで本物の赤い炎が砦を包み込んでいる様な景色だった。
狼煙はまだ上がっていない。
戦闘が始まった訳ではなさそうだ。
それでも、警鐘は鳴り止まない。
嫌な予感に胸が激しく鼓動した。
お父様や、砦の騎士達は大丈夫だろうか。
「ヨヒアム、村まで伝令を。直ちに室内に入り落ち着いた対応をしてもらいたいと。状況はまだ分からないけれど、直ぐに何かが起こる事はないと伝えてちょうだい」
「かしこまりました」
ヨヒアム、神妙な面持ちで頷くと小隊長の元へと駆け出した。
警鐘に混乱した住人達が騒ぎを起こしてしまえば、何が起こるか分からない。
状況が分からない今こそ、落ち着いた行動を心掛けて欲しかった。
「おじい様、こちらから砦に伝令を送った方がよろしいですか?」
こういう時の対応の仕方が分からない。
6歳児の私にとって、今の状況は初めてなのだ。
「いや、少し待ちなさい。砦も混乱しているかも知れない。シルバードはアリーシャがここにいる事を把握しているのだから、何かしらの連絡は必ず届くはずだ」
「はい」
今の私達に出来る事は混乱せずに冷静に待機する事。
バタバタしている時に、伝令とか行っても、そりゃ迷惑だよね。
「皆、この周辺の警戒態勢に移れ、何かおかしな動きや、人の気配を感じた者は直ちに報告を」
おじい様の警戒を含んだ低い声が、自分の騎士団とうちの小隊長に向け指示を出す。
「「「は」」」
おじい様の指示を受けた騎士達が、無駄のない動きで敬礼した。
「モルスリード、この瞬間より全指揮権を委ねる」
「了解いたしました」
モルスリードが一歩前に出た。
「我が小隊も、モルスリード様の指揮下に入る様に、くれぐれもお願いしますね」
前半はうちの騎士達に、後半はモルスリードに向けた。
「警戒はしなければいけないが、この場所が直ぐに戦場に変わるほどのレベルではない。皆、心に余裕を持って行動するように」
おじい様の言葉に、騎士達の強ばった顔が少し緩む。
「アリーシャ、わしらも部屋に戻るとしよう」
「はい、おじい様」
いつまでも、外に突っ立ってる訳にもいかないよね。
素直に頷いて、歩き出したおじい様の後を追った。