漂い始めた不穏な気配9
目的地に到着したのは、走ること20分。
隣国と我が領地を挟む様に聳える山の麓。
光の玉は役目が終わったとばかりに、霞んで消えていく。
突然起こったそれに4人は慌てる事無く馬を上手に操り、駆け足から並足、そして、その場所で足踏みをさせ静かに馬達が停止していく。
「光の玉が消えたと言う事はこの辺でいいのかい?」
「はい。おじい様」
「馬達が驚いて暴れてはいけないので、そちらの木に繋いでおきましょう」
木々の生い茂る当たりを指さした。
馬から下ろしてもらった私は、皆と少し離れた場所まで移動する。
月明かりだけの薄暗い視界、目視ではそんな遠くまでは見通せない。
目を瞑り、魔力を練るとそれを薄く広く、どこまでも伸ばす。
人の気配はないか、魔力に反応するものは無いか。
神経を研ぎ澄まし、頭の中に浮かんでくるソナーのようなそれを確認した。
背後から静かに見守る8つの目。
「壁の建設範囲内は、誰も居ないようです。問題が無ければ、始めたいと思います」
後ろを振り返りおじい様を見る。
「そうか。アリーシャの思う様に進めておくれ」
「はい」
目標の5分の1を建設するイメージを頭に浮かべる。
かなりの魔力量が持っていかれそうではあるけど、無理な範囲じゃない。
今までで、最大のチート能力の見せ場になると思う。
両手をゆっくりと前に突き出すと静かに呪文を唱えた。
「ウォール」と。
ふわりと私の周囲に魔力の膜が出来、それはどんどんと上空へと舞い上がり、ローブの裾を揺らした。
舞い上がった魔力がアーチを描き目的の場所に到達すると、辺りに地響きが響き渡り、足元がグラグラと揺れ始めた。
モルタルを少し練りこんだ硬くて丈夫な壁が出来ますように。
村の皆を、領民を守る為の強固な壁。
発光するかの様に光る魔力が隙間なく地面へと吸い込まれていく。
次の瞬間、轟音と共に高く長い壁が次々と地面から伸びてきた。
ゆうに3メートルはあろう壁が、見えない視界の先にも続いた。
山の麓を遮る様に伸びたそれが、強固は守りになったと言うのは、間違いないと思う。
魔力放出が終わると、途端に体がぐらりと傾いた。
あぁ……魔力切れだ。
「アリーシャ!」
「「「お嬢様!」」」
おじい様達の悲鳴にも似た叫び声と、慌てた様に駆けてくる足音。
もう少しで地面とキスすると言う瞬間に、私の体は大きくて優しい両手に支えられた。
「まったく、無茶をする。こんな大規模魔法、この歳まで生きたわしでも、見た事ないわい」
私を抱き留めたおじい様の呆れた声が落ちてくる。
「……だって、私、規格外なんですもの」
冗談めかして笑った。




