漂い始めた不穏な気配3
「幼いアリーシャを騎士団を付けただけで、1人で行かせる訳には行かないと私が同行する事にしていたのですが、中々長期の時間を取れず延び延びになっているのです」
お父様も申し訳ないと思ってくれていた。
「そうか。ならば、わしが保護者として同行しよう。それならば問題あるまい?」
「なっ」
おじい様の提案にお父様は目を丸くする。
「なんじゃ、わしでは不服か? 国を率いていた頃には戦いにも出た事が何度もあるし、わしは3属性の魔法も使う。良いボディガードになるだろう」
おじい様は、私の方にウインクしてみせる。
ありがとう、おじい様、私の味方になってくれて。
「貴方、前陛下のお申し出を受けてくださいませ。行かせなければ、この子は夜中に1人で抜け出してまで目的を果たそうとしますよ」
お母様に思考を読まれてた。
「……くっ……分かりました。父上よろしくお願いいたします」
一瞬苦悶の表情を浮かべた後、ぱっと苦笑いになったお父様は、おじい様に頭を下げた。
「ああ、大船に乗ったつもりで任せるがよい。良かったの、アリーシャ」
お父様に向かってドンっと胸を叩いたおじい様は、私に向かって白い歯を見せた。
「危険物×危険物の様な気もしますわね」
おばあ様はやれやれと肩を竦めた。
でも、言わんとしてる事はよく分かるよ。
私もおじい様も、いざとなれば自重って言葉を忘れすれそうな気がするもの。
「僕もアリーシャと行きたい」
テーブルに両手をついて、勢いよく立ち上がったお兄様。
「ジオルドはダメだ」
「お兄様はダメよ」
お父様と私に相次いで拒否された。
「えぇ、そんなぁ」
シュンとして椅子に崩れ落ちるお兄様。
「お兄様まで出掛けてしまえば、ここを誰が守るのですか? 私は私の責任の為に行くのです。お兄様の責任は長男としてこの場所を守る事では無いですか」
「アリーシャの言う通り、お前には私の留守を任せたい」
「……うん、そうだね。お父様もアリーシャも居ない屋敷を僕が守らなきゃ」
残念そうではあるけれど、納得した顔になったお兄様。
「そうです。それに辺境伯家の大切な跡取りを危険に晒す訳にはいきませんもの」
「アリーシャだって、危険な事はしてはいけないよ?」
「もちろんです。万が一が無いように行くのですもの」
大切なの水車を、希望の村を、そしてそこに住む人々を守る為に。
「本当にアリーシャは、しっかりしていますのね。もちろんジオルドも。2人とも私の自慢の孫ね。マギアナも教育の賜物かしら」
おばあ様は優しい瞳で私達を見たあと、お母様に視線を移動した。
「私だけの力ではありませんわ。でも、本当にうちの子供達は自慢の子供達ですわ」
お母様も満足そうに微笑んだ。
さっきまで緊張していたその場の空気が、いつの間にか温かい何かに変わっていた。




