2回目なんですが2
おいおいと誰かの泣く声が煩くて、顔を顰めゆっくりと目を開けると、そこに居たのはベッドに伏して豪快に泣く男の姿。
「……う、るさい」
掠れた声が出た。
驚いたように顔を上げた男はブラウンの長い髪を後ろでひとつに括った綺麗な顔立ちをしていた。
ただブルーの綺麗な瞳が涙に濡れ、溢れた涙で頬をぐちゃぐちゃに濡らしていた。
イケメンが台無しである。
「お嬢様ぁぁぁぁぁ」
叫んだ声が更に煩かった。
顔を顰めたのは仕方ないことだと思う。
「ヨヒアム……うるさい」
「そ、そんなぁ……」
捨てられた子犬のような顔をしたヨヒアムは、後ろに控えていたメイドによって引き剥がされた。
「ヨヒアム、お嬢様の迷惑です。下がりなさい」
愛らしい顔をした華奢な体格からは想像もつかない強い力でヨヒアムを床に倒したメイドは、私の専属メイドのキャサリンだった。
「お嬢様、お目覚めになられて安心いたしました」
ほっと息を吐き優しい声でそう言ったキャサリンは、丁寧に一礼した。
「心配をかけたわね、キャサリン」
「いえ、お嬢様が、ご無事ならそれでいいのです。何かお飲み物をお持ちいたしますね」
心から安心したように微笑んだキャサリンは、ヨヒアムの首根っこを掴んで部屋を出ていった。
「お、お嬢様ぁぁぁ」
ヨヒアムの叫び声が遠ざかる。
「全く、落ち着きのない……」
そう言いつつも頬が緩むのは、心配してくれるその気持ちが嬉しかったから。
さて……夢で見た記憶を整理してみよう。
5歳の小さな手をにぎにぎした後、意識を集中した。
どうやら、私はこの小さな体に産まれる前に、どうやら女剣士だったみたい。
主君を守り殉死したという筋書きだろう。
まぁ、前世の記憶があるってゆーのは、ライトノベルっぽい。
今生きるこの世界が異世界と言われる世界であれば……ということになるが。
ふむっ……白く高い天井を見上げた。
女剣士の前世を持つ私がなぜライトノベルや異世界という言葉を知ってるかと言うと、実は前世の記憶を取り戻したのが2回目だからである。
3歳の時に、ベビーベッドの柵をよじ登り、安定の悪い体がバランスを失い床に落ちたのだ、そして頭を打ち付けた。
毛足の長い絨毯のおかげで軽い脳震盪で済んだのは幸いだったのだけど。
その時に思い出したのが、日本という国の関西地方に住んでいたという記憶。
16歳になったばかりのピチピチの女子高生だった記憶は、それまでただの幼児だった私の精神を大幅に引き上げた。
子供らしからぬ子供と言われるようになったのは、その頃からだったと思う。
そりゃぁ、3歳の子供が16歳の記憶を手にしたらそうなる。
うんうん……仕方ない。