波乱の辺境伯領39
施錠もされていたかったドアをキャサリンが押し開ける。
なんとも不用心なそれに、そもそもこんな場所に人が来ることもそうそうないかと思い直した。
何百年もこの場所にあり続けた訳だが、その間にこの場所がカルト集団以外に知られる事は無かったのだろう。
書斎と同様に埃っぽい部屋は、カビ臭さまで兼ね備えていた。
地下で光が当たらない分、空気の循環がされていなかったのだろ。
中央に大きなテーブルと、その上に置かれた地図には印が入っていて、現在地に印が入っているのを見ると記されいるのはカルト集団の拠点では無いかと思われる。
これを元にまだ知らぬ拠点を叩けば、カルト集団の撲滅に役立つはずだとほくそ笑んだ。
「お嬢様、こちらでは無いでしょうか」
キャサリンが壁際の小さな机の引き出しから取り出してきたのは、一冊の書物。
それを受け取りぱらぱらと捲れば、カルト集団の狙いや迷いの森の地図らしきものが載っていた。
「これで間違い無さそうね」
古びた書物は所々劣化はしていたものの、読み取れない程ではなかった。
カルト集団との、長い長い戦いが終わるのだと確信する。
生まれる前に騎士として使えてきた主も、きっと喜んでくれるに違いないと胸が熱くなった。
「その地図とこの書物を持って戻りましょう」
他にめぼしい物はないし、こんな場所長いする必要は無さそうだ。
「かしこまりました」
キャサリンはテーブル広げられていた地図を手早くくるくると丸め小脇に抱えると私の側まで戻ってくる。
私はそれを確認したあと背を向け部屋を後にした。
階段を登り、書斎を抜けるけ元の場所に戻れば、ヨヒアム達はカルト集団の連中を縛り上げ部屋の中央に集めてあった。
魔法使いは猿轡をされ、他の連中も大人しくしていた中で意識を取り戻した司祭らしい男だけが罵倒を繰り返していた。
「私を誰だと思っている! 前国王の嫡子だぞ。お前達に私を捕縛する権利はない」
小太りの男は唾を撒き散らしていて、汚いったらありゃしない。
「あら、私達は現王クリスホード様よりカルト集団撲滅の全権を頂いているというのに」
くすくす笑いながら近づいていくと、男は顔を真っ赤にして更に怒り出す。
「あれは逆賊だ。兄王子ヘルムートを亡き者にしたならず者だ。前国王と同じ意志を持つ我らの敵だ」
「そう思うなら思っていればいいのではないかしら? 貴方達が前国王と企てていた周辺国への侵略の計画が明るみになるのは、そう遠くないもの」
地下で見た書物の最後に書かれていた沢山の血判と、その計画について詳しく調べれば自ずと分かるはず。
それは私の仕事ではないから、お父様に丸投げする予定だ。
「な、なんだと小娘」
怒りに顔を歪める男を一瞥して、私は通り過ぎる。
「ヨヒアム、私達は撤収しましょう。カルト集団はここに置いていきましょう。伝書鳥でクリスホード陛下に引き取りをお願いしておいて」
「御意」
ヨヒアムは一礼すると、騎士達に目配せした。
カルト集団を見張るように囲っていた騎士達が一斉に動き出す。
男の罵倒はずっと響いていたが、もう誰も気にする事はなかった。