波乱の辺境伯領38
「き、貴様ら、これでも喰らえ!」
司祭ぽい男が手に持った杖を掲げ、呪文を唱え始める。
彼も魔法使いなのか、それにしても負け組の悪役のセリフすぎて笑えるんだけど。
でも、呪文の唱歌が遅いのよね。
「ウォーターバルーン」
男が魔法を放つより早く大きな水の玉で包み込んだ。
「ゴボッ……あ、が、が」
突然空気を奪われた男は、呪文の唱歌の中断を余儀なくさせる。
奴の手から落ちた杖が、からんからんと軽い音を立て床へと落ちた。
もがき苦しむ男も床へと崩れ落ちる。
「司祭様……」
「司祭」
戦闘中だった青ざめた顔で男達が駆け寄っていった。
その隙に、騎士達は制圧した男達を縛り上げていく。
倒れたままピクピクしてる男はすっかり無効化出来たようなので、魔法を解いた。
「武器を捨て、大人しく投降するならばこれ以上危害は加えない。両手を頭の後ろに当て膝づけ」
ヨヒアムの言葉に男達は次々と従っていく。
自分達のトップが落とされた事で戦意を喪失したのだろう。
外の制圧を終えた騎士達も続々と室内へとやってくる。
「ヨヒアム、後は任せてもいいかしら?」
「お任せください」
「キャサリン、私達は先に進みましょう」
ヨヒアム達にこの場の処理を任せ、私とキャサリンは奥の書斎へと歩き出す。
敵がまだ潜んでいる可能性も考慮して、警戒して進んだものの、書斎へはあっさりと辿り着いた。
少し埃っぽいそこは、薄暗くジメッとしていた。
「お嬢様、直ぐに灯りをおつけしますので、少しお待ちください」
キャサリンが入口近くあったランプに火を灯してくれる。
捕虜の話では本棚の向かって上から三段目の
左から五冊目の本を、動かすとか言ってたかしら。
それらしい本に手をかけ斜めに傾けると、木が軋む音と共に本棚がスライドするように動き始めた。
連れてきた捕虜が、司祭らしき男の右腕だったのはとんだ拾い物だったわよね。
おかげで地下への入口も簡単に見つかったもの。
捕虜が自分の命惜しさに男を直ぐに裏切った時点で、本当の意味での右腕だったのかは疑わしいけれどね。
本棚が完全に停止するのを待って奥に進めば、地下へと降りる階段がすぐに見つかった。
「お嬢様、私が先に進みますので、どうか足元に気をつけて着いてきてください」
「わかったわ」
キャサリンに頷いて見せると、彼女はランプを手にゆっくりと階段を降り始めた。
古めかしい作りの階段はあちこち欠けていて、レンガの壁の至る所に生える苔。
この場所が相当古いものだということは見て取れる。
階段を降りきったキャサリンは、壁際にあった松明に火を灯す。
すると、それは壁の溝を這うようにして次々と松明に明かりを灯していった。
なかなか考えている仕掛けだと感心する。
明るくなった視界、通路の先には扉が一つだけあった。
特に侵入者防止の仕掛けなどがある訳でもなく、私達はなんなく辿り着けた。




