波乱の辺境伯領37
作戦時間になり、それぞれが行動を開始した。
陽動部隊は、納屋に火のついた矢を放ち、見張りの連中を混乱させる。
やっぱ納屋は燃やすんじゃないか、と思ったのは内緒だ。
混乱した敵に襲撃部隊が一気に攻め入ると、私達が通る道筋が出来た。
ヨヒアムが部隊を率いて、正面から来る敵をなぎ倒しながら駆け抜けていく。
私は遅れないように身体強化をかけその後へと続いた。
ぶつかる金属音、響き渡る怒号。
血なまぐさい臭いと砂埃が周囲に広がる。
激しくぶつかり合う敵味方。
皆、死なないで、そう願わずには居られなかった。
石造りの建物は重厚な木の扉が閉まったままで、先に辿り着いたヨヒアム達が強引に開けようと試みていた。
このままじゃ、目的の場所に行き着けないと判断した。
扉を壊すぐらいならいいよね? と自分に言い聞かせる。
「ヨヒアム、皆、扉から下がって」
私の叫び声に、ヨヒアム達が左右に飛び退く。
走るスピードを緩めないまま魔力を練って両手を前に突き出した。
「ファイアランス」
青い炎が矢のように重厚な扉へと突き刺さる。その途端に爆ぜるよう燃え盛ると扉に大きな風穴を開けた。
「お嬢様、助かりました」
ヨヒアムはそう言うと大きく燃えおちた扉の中へと飛び込んでいく。
騎士達も次々とそれにならうように追いかけた。
私とキャサリンも迷いなく扉の中へ向かうと、既に始まっていた乱闘。
敵の数は10人ほどで、ヨヒアム達に手早く制圧されていく。
中にいた魔法使いが放ってくる魔法を、打ち消すようにサポートする。
私より魔力量の多い魔法使いは居なさそうだ。
魔法使いを軒並み制圧すると、奥の方から敵の集団が現れた。
「貴様ら何者だ!」
司祭のような格好をした男が怒鳴ってる。
その男を守るように武器を持った集団がこちらを睨みつけていた。
「ブランシェット辺境伯領が長女アリーシャ・ブランシェット。貴方達を滅ぼし来た者よ」
「な……クルドラシル王国の奴らが、なぜここに」
「人の領地を襲っておきながら、自分達は攻められないと思っていたのかしら?」
男を睨みつけるように見据えた。
「皆の者、奴らを叩き潰せ」
唾を撒き散らしながら叫んだ男に、カルト集団の連中が一斉に飛びかかってくる。
数にして20人程度の寄せ集め感たっぷりの男達、それならうちの精鋭部隊が負けることは無い。
「お嬢様は一度下がってくださいませ」
暗器を構えたキャサリンが私の前に飛び出した。
「一気に制圧だ。気を引き締めろ」
剣をアム構えたヨヒアムが誰よりも早く飛び出していく。
次々と倒れていくのはカルト集団の連中。