波乱の辺境伯領35
用意出来たという連絡が来たのはお昼を少し回った辺りだった。
馬は少し足りなかったようで何人かは相乗りになるのは、仕方ないと承諾した。
こんな短時間で準備してくれた事に感謝はすれど、文句はない。
「ご期待に添えなくてすみません」
グルシオスが申し訳なさそうに頭を下げる。
「こちらこそ、無理を聞いて頂きありがとうございました」
ヨヒアムが丁寧に頭を下げた。
「皆様、どうか無理なさいませんように。こちらとしても兵力を出したい所ではあるのですが、なにぶん政権が樹立したばかりで、兵の数も足りておりません」
「大丈夫よ。うちが始めた事だもの。そちらは新王をしっかりお守りしてあげて。うちは少数精鋭ですの、ご心配には及びませんわ。ヨヒアム、出発よ」
馬車の小窓からグルシオスに声を掛けたあと、ヨヒアムに目配せする。
馬車に乗っているのはキャサリンと私だけ。
道案内の捕虜はぐるぐる巻きにされたまま、騎士の乗る馬に括り付けられていた。
あれ、体勢的に大丈夫なのかしら? とは思わなくもないが、私が心配してやるほどの相手でもないと思い直す。
「お世話になりました。これより敵地に向かう、警戒を怠らず前に進め!」
馬に飛び乗ったヨヒアムはグルシオスに一礼すると、待機していた一個小隊に号令をかけた。
先頭を行く馬が嘶き、それを合図に私達の一団は進み始めた。
今から向かうのはこの街の南に地位する岩山の麓。
捕虜の話では、その奥に隠されたカルト集団の本拠地があるらしい。
揺れる馬車の中から、ぼんやりと通り過ぎる景色を見つめる。
広がるのは草原、冬支度を始めたそこは毛足の長い黄金の絨毯を敷き詰めたようにさわさわと揺れている。
「お嬢様、岩山に斥候を出してもよろしいですか?」
「そうね。地形や敵の人数を把握してからでないと、突入は出来そうにないわね。斥候に向いてるメンバーを送ってくれる?」
キャサリンの言葉に頷いた。
うちの騎士達がいくら強いからと言って、不鉄砲に突入させる訳にはいかない。
土地の利がある分、敵の方が有利だし。
「では。その様に」
頷いたキャサリンが、馬車の小窓を開けそばに居た騎士に作戦を伝えると、騎士は先頭を行くヨヒアムの元まで駆け出した。
カルト集団の本拠地、何があるか想定できない分、心してかからないといけないわね。
皆の命を預かってるのは私だ。
判断ミスを犯さないように落ち着かなければ。
ここに来て騎士として生きた時の記憶が役に立つだなんて思ってもいなかった。
戦いを前に6歳児の私が落ち着いていられるのは、記憶のおかげ。
全てが終わったらスケボーして、美味しい物を沢山食べて、のんびり温泉にでも浸かりたいな。
その為にはあとひと踏ん張りね。




