波乱の辺境伯領29
「この様な場所に寝かせる事になって申し訳ありません。周囲の捜索と確認作業もありましたので、こちらでお待ち頂いておりました」
申し訳なさそうに頭を下げたキャサリン。
「そんなこと気にしなくていいのよ。当たり前じゃない? それより皆怪我などは無い?」
「はい。かすり傷はあるものの、皆元気です」
「そう。良かった」
ほっと胸を撫で下ろした。
誰一人欠けることが無かったことに安堵する。
「お嬢様が倒れられた後のことをご説明しておきます」
とキャサリンは、静かに詳細を話し始めた。
私が倒れた後、制圧された連中を縛り上げ、ヨヒアム達は周囲の捜索に入ったそうだ。
危険物や他のカルト集団は見当たらなかったらしい。
綺麗になった泉が再びどす黒く変わる事もなく、周囲に漂っていた不快な空気もないという。
キャサリンは、私を寝かせる為にこの小屋にあった物を全て外に放り出したそうな。
「奴らがここを寝ぐらにしていたのは間違いないです。全部捨ててやりました」
やりきった顔でニカッと笑うキャサリンに、笑いが漏れた。
「魔法陣は、どうしたの?」
「そちらはお嬢様に見て頂こうと残してあります」
「そう、それはありがたいわ」
どんな術式なのか、見ておかないとね。
「ヨヒアムが尋問して分かったのですが、奴らは隣国側から侵入したようです。迷わないように、こちらに来る経路にある木々に印がつけてあるそうです」
「その目印を潰さないといけないね」
「はい。奴らが言うには、カルト集団には昔から伝わる書物があり、それに迷いの森への侵入経路と目印の事が書いてあったようです」
キャサリンの言葉に、面倒臭いものを残してんじゃないわよ、と溜め息が漏れた。
このまま辺境伯領には帰れないって事ね。
隣国側へ、目印を消しながら進んで行くしかないな。
あ~これって不法侵入になっちゃうのかな……
「キャサリン」
「はい、お嬢様」
「食料って、隣国側に抜けるまで持ちそう?」
「迷いの森で食材調達しながらいけば問題ありません」
「そっか……なら、行くしかないかな」
やれやれと、力無く笑う。
行ったついでに、本拠地も叩いちゃうのもありかな。
「お嬢様の思うままに」
キャサリンが片膝をついて一礼する。
「お父様に、伝書鳥を飛ばしてくれる? 出来るだけ早く隣国の入国許可を取って欲しいって」
「かしこまりました。早急に」
「お願いね。ところで私はどのぐらい寝てたのかしら?」
「もうすぐ日が暮れます」
「そう。なら、出発は明日の朝、魔法陣を調べた後にって事で、皆に伝えておいて」
思いのほか時間が経っていた。
カルト集団にムカついて、魔力を全開でぶっぱなしちゃったものね。