波乱の辺境伯領24
翌朝、野営地を手早く片付けた私達は、泉に向かって再び歩き出した。
昨日に比べ野獣の襲撃は明らかに増えた。
それを難なく退け、私達は前へと進み続ける。
基礎体力を付けておいて良かったと本当に思った。
皆の足でまといにならないぐらいには、歩く事が出来ていた。
やっぱり日々の積み重ねよね、だなんて思っていた私の探索魔法に野獣以外のものが引っかかった。
「キャサリン、ヨヒアム、500m先ぐらいに数人の人影があるわ。ここからは慎重に進みましょう」
「分かりました。お嬢様は、隊列の中央に移動してください。キャサリン、お嬢様を頼む」
「ええ。お嬢様、こちらへ」
ヨヒアムの言葉にキャサリンが素早く動いて、私を隊列の中央へと連れていく。
こんな場所に居るのは十中八九カルト集団なのは間違いない。
「小隊は一度整列」
騎士達にヨヒアムがそう声をかけると、騎士達が緊張した固い表情で歩みを止めた。
「お嬢様がこの先に敵の存在を確認した。戦闘になる可能性が高い。野獣より知能がある分厄介だが、僕達が負けることは無い」
ヨヒアムは自信に満ちた表情で整列した騎士達を見渡す。
「「「おぉ」」」
騎士達の少し遠慮がちな声がした。
ほら、敵に見つかっちゃうといけないからね。
「目標に向かって慎重に進軍」
ヨヒアムの号令と共に、私達は再び森を進み出す。
獣道は進みづらいけれど、先を行くヨヒアムや騎士達が踏み締めてくれるから、私の小さな足でも彼らについていくとこが出来た。
もちろん、身体強化様様ってところはあるんだけどね。
身体強化が無かったら6歳の女の子が森を進軍するなんて事はまず出来ない。
魔法が使えるって素晴らしい、なんて脳内で歓喜をあげていると、部隊が静かに歩みを止めた。
「お嬢様、残り100mの地点に着きました。目視できる位置に小屋と人影、その奥に泉らしいモノが見えています」
ヨヒアムの言葉に視線を向ければ、そこには目的の場所。
「え?」
辿り着くの早くない? と一瞬思ったけれど、500mぐらいなら、ゆっくり歩いても10分程しかかからないかと思い直した。
木の影にそれぞれが隠れるようにして、向こうを伺う。
こちらに気付いた気配がまだ無いことに、ほっとする。
こんな時、森が鬱蒼としていて助かったと思う。
キャサリンがどこらから取り出した望遠鏡を片目に当て、敵の様子を伺う。
「左に武器を持った3人、小屋の前にも武器を持った2人組。泉の傍に魔法使いが3人、その近くに大きな魔法陣が描かれています」
「その魔法陣が、魔獣を凶暴化させるものなのかしら」
「まず間違いないかと」
「どうやって制圧しようかしら」
魔法使いが居るなら迂闊に近付くのはきっとダメだよね。