波乱の辺境伯領22
日が暮れてしまう前に野営の準備は整った。
料理の担当はキャサリン。
中央に設置された焚き火で器用に夕飯を作ってくれている。
いい匂いが周囲に漂っていた。
見張りに立つ騎士達はどこか緊張した面持ちなのは、ここが迷いの森だからだろう。
何度か襲撃を受けた事で分かるが、凶暴化した野獣はかなり厄介だ。
普段ならば、人間を執拗に追い掛けない野獣も、凶暴化すると我を忘れたように向かってくるのだ。
聖属性の魔法で周囲には近付けないようにしているとはいえ、警戒を解くことは出来ないでいた。
「泉に近づくにつれ、凶暴化した野獣の数が増えていますね」
「そうだね。泉の傍にはカルト集団も居るだろうから、危険度は増すのは間違いないと思うわ」
ヨヒアムの言葉に頷いた。
「視界が開けていないのが少し厄介ですね」
光の指し示す先は鬱蒼とした森。
ヨヒアムの心配も仕方がない事だ。
「迷いの森の地形が分からないから、慎重に進むしかないのだけれど。あまり無駄に時間を費やしたくないのよね」
「時間が経つにつれ、こちら側が不利になるのは困りますし。斥候を出しますか?」
「うーん……この森でそれは危険な気がするのよね」
光の方向へ向かえばいいのだけれど、迷いの森は斥候に出た騎士のリスクが高過ぎる。
大切な騎士達を危険に晒す訳にはいかない。
「リスクが高いのは承知していますが、先の状況を少しでも把握出来ればいいのですが」
「ヨヒアムが私の為に斥候を出そうとしてくれてるのはよく分かるわ。でも、私は私の為に傷付く人間を増やしたくない」
「お嬢様……」
「私のサーチである程度は分かるはずだから、皆で慎重に進みましょう。この森は単独行動は危険すぎる」
「分かりました」
ヨヒアムは頷いてくれた。
彼の立場も分かってる。
守る優先度は私が一番なんだ。
それでも、これは譲れない。
「お嬢様、ヨヒアム、夕飯が出来ましたよ」
キャサリンが木製の椀に入ったスープを両手に持って歩いてくる。
その後ろから、キャサリンの手伝いをしていた騎士が、パンの乗った皿を手にしていた。
湯気が立ちのぼる温かそうなそれに、お腹が鳴る。
「ありがとう、キャサリン」
差し出された椀を受け取ると、美味しいそうな匂いが私を包んだ。
「簡単な煮込みスープですが、味と栄養はバッチリですよ」
ウインクしたキャサリンに笑みがこぼれた。
「美味しい。流石キャサリン」
スープを一口スプーンですくって飲むと、体が温まった。
「明日も沢山歩く事になりますから、しっかり食べて眠ってくださいね」
「うん。そうする。皆も温かいうちに夕飯を食べてね」
「はい。無くならないうちに自分の分を確保してきます」
キャサリンがそう言って鍋の方へと向かう。
その先には自分の椀を手に持った騎士達が群がってた。
あれは、早くしないと無くなりそうね。
食欲旺盛な騎士達に笑みが漏れた。