波乱の辺境伯領21
野獣の襲撃は、あの後も続いた。
迷いの森の最深部に向かうにつれ、凶暴さも強さも増していく野獣。
それはまるで私達の侵入を拒んでいるかの様に。
思いの外、時間が取られていた。
初めの計画通りにはたどり着けないと思う。
戦闘で疲弊して来ている騎士達には、休憩が必要だろう。
「この辺りで一度休憩を取りましょう。戦い続けて皆疲れているでしょう?」
木々の枝張りが緩んだその場所は陽の光が当たり草が茂っていた。
「お嬢様、この場所では、草が視界を邪魔してしまいますよ」
「ヨヒアム、大丈夫よ、見てて。ディッグ」
背の高い草が茂るその場所に向けて土魔法をかけた。
ボコボコと地面が小さな隆起を繰り返し、草を飲み込み広い整地された大地へと変わる。
「「「おぉ!」」」
騎士達の歓喜に湧く声。
「これなら、大丈夫でしょ?」
ヨヒアムに向かってにやりと笑った。
「流石、我らのお嬢様」
驚いた目を弓なりに変えヨヒアムは笑う。
「思っていたよりも時間がかかっていたようですね」
空を見上げたキャサリンは太陽の位置に眉を寄せた。
「そうね。ここまま進むのは危険だわ」
「泉に着くまでに日が沈んでしまうでしょうし。お嬢様、ここで野営にしますか?」
「うん、そのつもり。ここなら焚き火もできるでしょう?見通しも良くしたし」
キャサリンに向かってウインクした。
「はい、お嬢様」
いい顔で笑ってるキャサリン。
「今日はここで野営だ。各自テントの準備を」
ヨヒアムの言葉にほっとした顔になると、騎士達は手早く野営の準備を始めた。
「お嬢様、こちらに居てください」
キャサリンは手早く組み立てた簡易イスに座る。手足の短い私が手伝える事はないので大人しくしてよう。
中央に焚き火が作られ、その周囲に張られていくテント。
簡単そうにやっているから、私でも出来るのでは? なんて錯覚も起こる。
まぁ、実際そんな事はないんだけどね。
とりあえず野営地にバリア的なモノでも張っておこう。
いつ野獣が襲ってくるかもしれないだなんて、気が気じゃないもんね。
「ホーリー」
静かに唱えると野営地が優しい光に包まれ、それは直ぐに収束した。
その場に居た全員の視線が集まった。
「あ」
やっちゃった、肩を竦め愛想笑いを浮かべた。
「お嬢様」
まったく、と言いたげな表情で私を見るキャサリン。
「あ、安全な野営地の完成です」
きりっとした顔でそう言えば、
「出来れば事前に相談してくださるとありがたいのですが」
と呆れ顔が返ってきた。
ですよねぇ、あははと笑って誤魔化すと、騎士達は吹き出した。
緊迫した空気が穏やかになったのは、良かったと思うの。




