贈り物なんて呪いでしかない4
敷地内の庭園は春になって綺麗な花々で彩られてる。
私は今、午後のお茶をしようと白いアーチの向こう側にあるガゼボに向かっていた。
告白しようと決めたあの日から、もう1週間も経っている。
翌日にはお父様達が、領地の視察に戻ってしまい、話す機会がなかったからだ。
春先には、冬眠から目覚めた猛獣達が街の近くまで現れ、領民達の暮らしを脅かすために、お父様達は視察をしながら、それを討伐するお仕事がある。
そのために、屋敷に残っているのは幼い私だけとなっていた。
私の話よりも領民の生活を守る方が大切だから、討伐が終わるまでの2週間は無理を言えないでいた。
秘密を抱えたままで、どことなく落ち着かない気持ちで過ごしてしまう。
「お嬢様、どうかしましたか?」
斜め後ろを歩くヨヒアムが心配そうに声をかけてきた。
ヨヒアムは、生まれた時から私の護衛騎士をしていて、私の小さな変化にも直ぐに気づいてくれる。
「……なんでもないよ」
お父様達に話すまでは、まだ誰にも言えない。
「本当に?」
回り込んで顔を覗き込まれる。
「ほんとほんと! お父様達が居なくて寂しいだけだよ」
この言葉も嘘ではない。
5歳児の幼心が家族の居ない寂しさに心細くなってる。
「お嬢様には僕もキャサリンも居ますからね! 屋敷の皆だって傍に居ます」
膝を曲げ私と目線を合わせ、そう伝えてくれる。
「うん。そうだね」
「お茶の時間が終わったら、何して遊びましょうか? 乗馬は暫く禁止ですけど、他のことならなんだっていいですよ」
ヨヒアムは優しく微笑む。
そうやってると、とてもイケメンだよね、ヨヒアムって。
あの号泣した姿を見なければ、であるが。
乗馬は家族が戻ってくるまで禁止されちゃったんだよね。
馬に乗って走るの結構好きなのに、残念。
魔法の練習は出来ないし、何をして遊ぼうかな。
着せ替え人形も積み木も、私には向いてないんだよね。
「あ! じゃあ、運動する」
「運動? ですか」
不思議そうに目を丸くしたヨヒアム。
実は剣士だった頃の記憶を頼りに基礎練習のメニューを箇条書きにしてあるんだよね。
「うん。丈夫な体になりたいの」
ダメ? と瞳を潤ませヨヒアムを見上げる。
「い、いいですよ。やりましょう」
私のおねだりに弱いヨヒアムは、とても都合がいい。
やったね! 嬉しくて口元に笑みが漏れる。
体力大事!
魔法も剣術も、やるからには先ずは基礎体力を身につけとかないとね。
お茶の後の予定も決まって、私は上機嫌にガゼボへと足を進めた。