波乱の辺境伯領16
「来て直ぐに帰る事になってごめんね、アリーシャ。預かってきたプレゼントは置いていくからね」
「ジェフお兄様、こちらこそ来たばかりなのにごめんなさい」
翌朝になりジェフリードと側近2人は玄関ポーチで馬に跨っていた。
私とお父様はそれを見送りに来ている。
お母様は、一足先にお兄様の支援に東の村へと旅立っていた。
「国の一大事だからね。王太子である僕が行動するのは当たり前だよ」
「ジェフお兄様達の乗る馬達に聖属性の守りと回復の持続をかけておきましたので、王都まで頑張ってくれるはずです」
「それはありがたい。風魔法で速度を上げて走るから馬達に負担をかけ過ぎてしまうからね」
ジェフリードは嬉しそうに微笑むと、馬の横顔をそっと撫でた。
「ジェフリード様。これを陛下にお渡し下さい。現状の詳細を書いておきました」
お父様は封蝋した書簡をジェフリードに手渡す。
「叔父上、確かにお預かり致しました。王都に潜むカルト集団についても、必ずや摘発してみせます」
「頼もしいお言葉ありがとうございます」
お父様はジェフリードに一礼する。
「アリーシャ、君もくれぐれも気をつけて行くんだよ。危ないと思ったら逃げていいのだからね」
心配する目つきで見下ろすジェフリード。
「はい。お兄様も気をつけてお帰りください」
と笑顔で答えた。
「そうするよ。では、王都へ戻ります」
ジェフリードはそう言うと手網を握り締め、馬を進めた。
「「お気をつけて」」
並足から次第に駆け足へと変わっていくお兄様を乗せた馬。
風魔法を発動させたのか、そのスピードは桁違いに上がる。
あっという間に小さくなっていく後ろ姿を私達は見送った。
「お父様、私も迷いの森に向けて出発します」
旅支度はばっちりだ。
「くれぐれも気をつけて行くんだよ」
「はい。お父様もお気をつけください」
「ああ。森に入る前に東の村に一度立ち寄るようにしなさい。マギアナ達に周囲の状況を確認してからの方がいいからね。私は領内に潜伏するカルト集団を必ず探し出し制圧してみせる」
「分かりました」
それでは、と膝を軽く曲げてから、少し離れた場所で待つヨヒアム達の方へと足を進めた。
武装した一個小隊と、ヨヒアム達が出発の時を待っている。
「お嬢様は僕と2人乗りですからね」
「分かってるわよ」
自分の馬でいけないのは少し残念ではあるけれど、危険な場所に向かうのに我儘は言ってられないものね。
ヨヒアムは私を抱き上げ馬に乗せると、その後ろへと飛び乗る。
それに合わせるように全員が騎乗する。
「ヨヒアム、キャサリン、娘を頼む」
「この命にかえましても必ずお守りします」
キャサリンは揺るぎない表情で敬礼した。
「必ずやお嬢様を無事にお連れします」
ヨヒアムも同じ様に敬礼をする。
「迷いの森に向けて出立!」
ヨヒアムのかけた号令に一斉に私達を中心した陣営で走り出す。
「お父様、行ってきます」
不安げな表情で見送るお父様に大きく手を振った。




