波乱の辺境伯領14
「ようこそ、おいでくださりました」
お父様は馬車から降りてきたジェフリードを出迎える。
私とお母様も同じ様に一礼した。
「出迎えありがとうございます。大変な時に来てしまったようで申し訳ないね。挨拶は手短に状況を詳しく聞きたいのです。ことは国の根幹を揺るがす事態なので」
硬い表情のジェフリードはこちらへ一歩踏み出した。
「はい。執務室で資料と共にご説明したいと思います。こちらへどうぞ」
ジェフリードを案内してお父様が歩き出したので、私とお母様もその後ろをついていく。
王都で会った優しげなジェフリードからは、想像も出来なかった様子に少し呆気に取られてしまったけれど、彼もまた王太子としての別の顔を持っていたのだと漠然と思った。
お兄様が時期辺境伯当主の顔を見せるように、ジェフお兄様も王太子としての顔がある。
まぁ、そうじゃなければ、この国の未来が心配だしね。
屋敷の廊下を歩く数人の足音が響く。
誰一人として口を開くことはない。
重苦しい空気に息が詰まりそうになりつつ、 ジェフリードの到着を待つ間にお父様と話した事を思い出す。
「神様に迷いの森の浄化を命じられました」
そう告げた時のお父様の悲痛な顔が忘れられない。
光の玉との会話を出来るだけ詳しく話して聞かせた。
聖属性を持つ私にしか出来ない浄化。
だから、迷いの森に行く許可が欲しいと。
「小さなアリーシャにそんな使命を与えた神を恨まずにはいられない」
苦痛に満ちた表情でそう吐き出したお父様。
「私は私に出来る最善を尽くします。辺境伯令嬢として生まれた私はこの地を守る義務が有ります」
「……ああ。そうだな」
「準備が整い次第、迷いの森に向かいたいと思います」
「私も着いていこう」
「いえ、お父様はカルト集団の炙り出しをしてください。迷いの森以外にも連中は居るはずです」
「いや……しかし」
戸惑うお父様に、私は虚勢を張ってにっこりと微笑む。
「お父様しか出来ないことがあるのです。私にはいつもの一個小隊をお貸しください」
少数精鋭で行動するのがいいような気がした。
私はまだ大勢を守れる自信がない。
「あいわかった」
苦渋の決断をしたお父様の瞳が揺らいでいる。
「今回は王都と隣国にも協力を仰いでください。地下に潜っているカルト集団をなんとしても見つけ出さなければ」
「ああ。だが、王都を巻き込むとなると、お前の力をもう隠しておく事が出来なくなるが、それでいいのかい?」
「はい。迷いの森に向かうと決めた時、そうなると覚悟は決めました」
「分かった。アリーシャの意志を尊重しよう。皆でこの窮地を乗り切ろう」
「はい」
しっかりと頷いた私の頭をお父様は優しく撫でてくれる。
この温かさがあれば頑張れる。
私は一人じゃないのだから。