波乱の辺境伯領13
「黒くなった泉を浄化する為に、聖属性の魔法使いがいるって話したでしょ?」
「そうですね」
「聖属性の魔法を使える魔法使いは、迷いの森で迷わないようにしたんだよね。ほら、浄化に行ってもらわないといけないし」
光の玉が心無しかバツが悪そうに光る。
「敵の中に聖属性の魔法使いが居るんですね」
「うん、そう。聖属性の魔法使いがカルト集団に入るとか想定外だよ」
「想定外が3度も続いてるよね」
「……面目無い」
「まさかと思いますど、わたしに聖属性を与えたのって……」
「あ、うん。保険に与えといて良かったー」
僕すごいよね、と自分で自分を褒めた光の玉を、今すぐこの手で握り潰してやろうかと思った私はきっと悪くない。
「私が迷いの森の最深部に向かえばいいのですね」
領民を領地を、そして国を守る為に。
「向かって貰えると助かるよ。泉を浄化出来るのは君だけだ」
「……分かりました」
泉を浄化して、出来ればその辺に居るであろうカルト集団を生け捕りにする。
組織を根絶やし出来れば一番いいのだろうけれど、それは私だけでは無理。
お父様や他の皆と連携して、今出来ることを全てやろうと心に誓う。
騎士として生きてきた時代のリベンジなのかもしれない。
志し半ばで倒れた私に、再び訪れたチャンスを無駄になんてしない。
「じゃあ、そういう事でよろしくね!」
「あ、はい」
「次に僕達が会うのは、君が天寿をまっとうした時になるだろう」
「え……」
「もう呼ばれても来れないんだ。干渉し過ぎて女神に怒られちゃったよ」
あ、うん、それはそうだよね。
「色々とありがとうございました」
「君の幸せを願ってる。苦難の先には必ず明るい未来が待ち受ける。だから、今度は寿命まで精一杯生きてね」
光の玉はそう言うとちかちかと瞬き、次の瞬間には消えてなくなった。
もう会えないと思うと、少しだけ寂しい気がした。
軽いノリで迷惑もかけられたけれど、親しみもあったのは事実で。
静まり返った図書室に自分の息遣いだけが響いた。
やらなきゃならないやら、やってやる!
使命だなんて大それた事は思わない。
自分の為に、今出来ることをやるんだ。
不思議なぐらい心は凪いでいた。
迷いの森に向かう事は怖いはずなのに、きっと私なら出来るという自信がどこからともなく湧いてきた。
「お嬢様、王太子殿下がご到着されます」
ドアをノックする音の後に聞こえた声に私は振り返る。
「今、行くわ」
大きな深呼吸を一度して、ゆっくりと歩き出す。
迷いの森に行くとなると、きっと私の力はもう隠せない。
それでも先に進むと決めたんだ。




