波乱の辺境伯領12
「そう生体実験。本当困っちゃうよね。カルト教団って壊滅しても気付いたら復活してるし」
「数百年前のカルト集団と今回も同じって事ですか?」
「同じかどうかと言えば少し違うんだけど。まぁ、似たような思想を引き継いでるのは間違いないよね。どの時代にも地下に潜って怪しげな組織を作る奴らがいて困るよ」
「迷いの森で何が起こってるんですか?」
「野獣を実験台にして、成功すればそれを人に使って世界を自分達の物にしようとしてるのさ」
「なんて事を……」
握り締めた拳が怒りに震えた。
「隣国の王室に王だけが知り得た昔の資料が保存されていてね。それを亡くなった王が復活させようとしたのさ。彼が亡くなった後も意志を継いだ馬鹿どもが続けてるって訳」
「神様はそれを見て見ぬふりしてるんですか?」
思いのほか低い声が出た。
「僕や女神の力は地上に干渉できない。女神の神託は下ろすとこは出来てもね」
「……そんな」
「人のした事にけりをつけるのも、また、人なんだ。君はそれを体験しているだろう?」
そう言われて、頭の中に何かが浮かんできた。
ああ、そうだった。
騎士として生きていた頃、私と私の主はカルト教団と戦っていたんだと。
カルト教団を後押ししていた貴族達の放った刺客から逃げていた。
そして、私は力尽き、生まれ変わった。
「……あ」
涙が溢れた。
「君が命をかけて逃した彼は混沌の中で力をつけ、あの時代にあったカルト集団を殲滅したよ」
「そっか……私の死は無駄じゃなかったんですね」
「うん。君のおかげで、あの時代は救われた。今度は君がこの世界を救う番だよ」
光の玉の言葉に胸が熱くなる。
「……」
でも、ふと思う。
ちょっと待って……私の番て。
そんな簡単な事じゃないよね。
「大丈夫! 君はあの時よりも色々な力が使えるから楽勝さ。ちょちょいっとお願い」
さっきまでのシリアスどこいったー!
「そもそも、どうして迷いの森で実験なんてしてるんですか?」
「迷いの森はこの世界の負の感情が集まる場所なんだ。負の感情を集め浄化する泉が森の奥にある。泉が浄化しきれないほどに負の感情が溜まり黒く染ってしまうとその力は溢れ出す。カルト集団は魔法陣を使いそれを利用し野獣達に与えた。まだ人に使うまでには至ってないけれど、それも時間の問題かもしれない。君は君の持つ聖属性の力を使って迷いの森の泉を浄化して欲しい」
「私が浄化すれば、カルト集団の企みは潰えるんですね」
「そうだよ。数百年前に迷いの森を訪れた青年も聖属性持ち主だった」
光の玉の話になるほど、と思った。
日記に青年が森から出て来ると野獣の凶暴化が治まったと書いてあったもんね。
でも、疑問がふと浮かぶ。
「迷いの森って、入ると迷うから迷いの森ですよね?」
「うん、そうだよ。泉に人が近付かないように迷う様に作ってある」
「なら、カルト集団がどうして泉まで行けるんですか?」
「あー気付いちゃうよね、そこ」
ふざけてる場合じゃないんだってば。