2.入学式
コンコン。
「「おはようございます。アルフェリア様、エルフェリア様。朝でございます」」
「おはよう」「おはよう。ユフィ、レフィ」
朝起こしにきたのは双子のメイド、ユフィとレフィ。肩につく程の赤茶色の髪に、エメラルドの瞳を持った少女達。ユフィはアルフェリアの、レフィはエルフェリアの専属メイドだ。12歳になっても隣で寝ているエルとアルを微笑ましく見ている、二人の姉のような存在だ。
「エルフェリア様。朝の準備をいたしましょう」
「アルフェリア様。朝の準備をいたしましょう」
エルフェリアは、ようやく動きだした頭で鏡に映る自分の姿を見る。父親譲りの美しい銀髪に、母親譲りのピンクトパーズの瞳。透き通るような白い肌と細い手足。まだ成長途中の体だが、それでもわかるスタイルの良さ。
(慣れないけど、本当にビジュアル良いんだよね……)
ちなみに兄のアルフェリアは、母親譲りの金髪に父親譲りのタンザナイトの瞳を持っている。顔立ちは見分けがつかない程に似ているエルフェリアとアルフェリアだが、色だけは似なかった。
「エルフェリア様。緊張なさっておりますか?」
「え?」
「本日は入学式ですので。緊張なさっているのではないかと」
「別に。アルがいるから」
「さようでございますか」
エルフェリアは普段あまり喋らない。本人は意識してのことではないが、アルフェリア以外に心を開いていない様子は、ゲームの中のヒロインそのもの。アルフェリアといる時は表情豊かだが、それ以外の時は、まさに氷の人形のようだ。
(入学式。最初のイベント。ヒロインが新入生代表で挨拶をする。そこで攻略対象達は、ヒロインの容姿に一目惚れするのよね。あ、いや、昔会っている設定だから二目惚れか。まあ、どっちにしろ今回の新入生代表はアルだけど)
「エルフェリア様。準備が整いました。本日も大変お美しゅうございます」
「ありがとう」
(アルに会いたい。アルに会えない朝の準備はやっぱり嫌い)
「エル!制服、とっても似合ってる。かわいい。今日もエルは世界で一番可愛いよ」
「ありがとう、アル!アルもとっても似合ってる。とってもかっこいい」
「ふふ、二人ともとっても似合ってるわ」
「ああ、わが天使達は制服姿もとても似合ってる」
ロビー。
アルフェリアとエルフェリアと、そして二人の両親がそろっていた。母セシリアと、アルべリオ家当主、父シアンだ。社交界の薔薇とも称されるセシリアと、氷の貴公子と称されるシアン。そしてゲームのヒロインのエルフェリアと、まったく同じ顔を持ったアルフェリア。
氷と呼ばれるシアンと、その血を継いだ、普段あまり表情豊かではないエルフェリアがとても柔らかい表情で笑っており、社交界の薔薇と言われるセシリアと、その血を継いだアルフェリアは笑顔がデフォルトだが、この場では心の底からの笑顔を見せている。
今この場にアルべリオ家以外の人間がいたなら、顔面の暴力で失神してしまいそうな空間である。
「さあわが天使達、そろそろ馬車に乗ろう。間に合わなくなってしまうからね」
「「はい」」
「「桜?」」
「お、よく知ってるね。その通り、これはサクラという花でね。王国内ではこの学園にしか咲いていない、希少な花なんだよ」
((まさに入学式))
「さ、行っておいで」
「きちんと見ていますからね」
「「はい」」
王立魔法学院エレストリア。王国内の貴族の子供達は、12歳から4年間この学園に通うことになる。基本的な勉強はもちろん、主に魔法の使い方を勉強する。クラスは成績が最も優秀な者からS、次がA、と続いていく。
学院内では身分は関係なく、例え王族だったとしても成績が悪ければ一番下のクラスになることだってある。
(って設定だったよね。まあ身分が高いほど魔力は強いとされてるから、Sクラスの人間はわかるけど。それにしても入学式退屈。アルの挨拶以外は聴く気にもなれないわ)
エルフェリアは学院の設定を思い返しながら(アルフェリアの挨拶だけはまともに聞いて)退屈な入学式をやり過ごした。