どの地へ行くか
「冗談じゃ、冗談。ビビっておるわ、わはは」
「ははは。何が面白いんですか、一体」
「ちなみに詠唱は『ファイア+(1~100)』、消費MPもレベルと揃えてあるから最初から高レベルで使わない方がベターじゃ」
「おおー、詠唱破棄とかあるけど、やっぱり唱えたいよなあ。これで僕も魔法使いか、かっこよー」
「時にそなたよ」
「あ、〈炎の支配者〉で大丈夫ですよ」
「勝手に通り名を付けるな。一応な、向こうのどこで目を覚ますか選ぶことも可能じゃが、どうする?」
「場所ですか。そう言われても異世界だからな。寒いの苦手だから暖かい地域がいいですかね」
「ふむ。南だと候補は、ファベーラという町じゃな」
「地図合ってます? それブラジルのスラム街ですよね」
「ああ、これ地球のじゃった。そなたの転生先は、マフィア大陸の南の国、ギャングタウンに決まりじゃな」
「どっちみち治安が気になるんですけど」
「のどかな町じゃぞ。争いも少ないし、そなたにはお似合いだと思うがのう」
「いいですねえ、そこに決めます。人口ってどのくらいですか?」
「人間もけっこういるぞ、ほとんど奴隷じゃが」
「話が違うじゃねえか、おい」
「魔族の支配地域じゃから仕方ない。嫌ならそなたが戦って解放しろ。ちょうどそこの大陸にいる魔王は氷魔法を使うから、そなたとは相性もいいじゃろう」
――相性か。……確かに〈炎レベル100〉なら、対氷だと無双か?
「ちなみに、その魔王さんの氷魔法のレベルは?」
「〈氷レベル9兆――」
「ファック! ファックファックファック! ジジイ、てめえ! レベルがジンバブエドルみたいなインフレ起こしてるんだよてめえ!」
「――飛んで500〉」
「端数に負けてんじゃねえか! ふざけんな、何が〈炎の支配者〉だ!」
「誰も呼んでないじゃろ」
「頼むから他の能力に変えさせろ、変えて下さい!」
「その町でそなたは88歳の女性として生まれ変わる」
「損! 転生して歳食うパターン珍しい!」
「めでたいのう。米寿じゃのう」
「ぐぬぬ。絶対殴る。泣いて後悔させてやるからな」
「ふほほ、無理無理。ここにそなたの器はない。存在しない手でどうやって殴るのじゃ?」
――手はなくても手は残ってる。
「魂と声があるからな」
「……あ。やめろ、たわけ――」
『ファイア×100』
ボン、と大きな音がして、さっきまで暗闇だった空間が煌煌と照らされたことで、僕に視覚が残っていることが判明した。
研究施設のようなその大部屋を、大蛇の形をした炎が縦横無尽にうねり回り、そこら中で機械類を破壊しながら最後には大きなモニターに直撃して消える。
立ち込めていく煙の中に僕が見たものは、スクラップになった転送装置らしき機械のそばで立ち尽くす少女の、とてつもなく美しい横顔だった。