能力
静かで暗い場所にいる。目が開いているのかどうか、自分の体さえ見られない。そしてここには僕ともう一人、〈導き手〉と名乗るイカれた老人がいる。こいつはどうにも嫌みで憎たらしい奴だけれど、敵に回すわけにはいけない。なぜか? 異世界に飛ばされることが決定している僕がこの先、チートスキルで無双してチヤホヤ人生を送れるかどうかは、悔しいがこのジジイの気持ち一つだからだ。
「親愛なる導き手様、僕の望みはただ一つ。この手で魔王を倒し、異世界全体を平和にすることでございます」
「見上げた理念じゃ」
「有り難き幸せでございます。それで僕は一体、どういった能力が頂けるのでしょうか?」
「そうじゃのう。ここは一つ、シンプルに〈剣聖〉でも授けてやろうか。どうじゃ?」
「〈剣聖〉か。……何か他のないですかね?」
「なぜじゃ? 〈剣聖〉いいじゃろ、主人公っぽいじゃろ」
「いやあ、最近だとありきたりっていうか、結局物理だからスキルのありがたみも少ないし。パーティーで戦うときも前衛になるから危険だし」
「我はかっこいいと思うがのう」
「提案なんですけど、シンプルというなら、いっそ最初から全パラメーターMAXっていうのはどうでしょうか?」
「そんなものは別にスキルがなくても、そなたの努力次第で達成できるぞ」
「それは達成できないのと同じじゃないですか」
「開き直るな」
「じゃあ召喚術はどうでしょうか?」
「可能じゃが、あれは召喚獣と戦って契約するタイプじゃぞ。そなた生身でリヴァイアサンとかに勝てないじゃろう」
「じゃあ重力魔法は?」
「レベル10でミニブラックホール発生させるから、そなたも吸い込まれて消えるぞ」
「じゃあ透明化」
「女湯ないぞ」
「じゃあ催眠術」
「黙れ、邪念が不愉快じゃ。もう面倒くさいから我がパッと決めてやる。そなたのスキルは――」
「操作系お願いします、操作系お願いします」
「〈炎魔法レベル100〉じゃ!」
「……おお、強そう! それそれ、そういうのを待っていたんですよ。〈導き手様〉、やればできるじゃないですか」
「ええと、〈炎魔法〉のボタンは――、これじゃの。ポチ」
「スキル付与も機械なんだ。何か全体的に神聖な雰囲気欠けてますよね、〈導き手様〉も歳食ってるわりに馬鹿っぽいし、ははは」
「あ、これ〈ネズミ変化〉のボタンじゃった」
「ジジイー!!!!」