アクマで色のお噺です
最近、学校で妙な噂が広まっている。
悪魔と契約して恋人を作っちゃえ、という噂話だ。
男女問わず、どんなにモテない人でも悪魔と契約してしまえば相手はイチコロ。恋愛の駆け引きなんてお構いなし。強制的に両想いで死ぬまでハッピーエンド。強制とか言っちゃってる時点で本当に幸せなのかどうかはさておき……こんなコートームケーな噂話なんて普通は信じない。信じる要素もない。
でも、それを裏付けるかのような話も飛び交っているから厄介なのだ。
大人しくて地味な女子生徒が急に男をとっかえひっかえしたり、校内一の美女が名前も思い出せないような目立たない男子生徒と付き合い始めたりするのは全て、悪魔の仕業だとかナントカ。当事者たちの中には信号を無視して車に轢かれそうになった、みたいな呪いっぽい話もチラホラ。
春は過ぎて、衣替えの時期。空気がジメジメっとし始めた頃合いだ。けど、みんなの頭の中は春から切り離せないらしい。いつだって色恋沙汰に関しては地獄耳。それこそ悪魔と契約しているんじゃないかってぐらいに。
まぁ、噂話の真偽のほどはともかく、そのことを考えているだけで退屈な時間はやり過ごせるようだ。ホームルームが終わり、クラスの連中は思い思いに帰ろうとしている。わたしも仲の良いグループに混ざろうとちょっとだけ早足。
ミョウチクリンでキテレツで穴だらけの噂話を話のネタにして、みんなと帰る途中になにか甘いものでも食べて女子高生らしく――
「想田ー。想田光はちょっとこっちに来い」
先生がわたしの名前を呼んだ。
いやーな予感しかしない。
「はーい、なんすかー?」
「お前、補習だ」
「はぁ? 補習ってなんのですか?」
「選択授業の美術だ。お前は風邪で休んだ分、遅れているらしいな? その遅れを残ってでも取り戻さないと単位やれないって伝言が届いてる。あとはわかるな?」
風景画の課題の件だ。すっかり忘れていた。一日だけ、夜更かしして仮病で休んでしまったことがある。そしたら、美術であきらかな遅れをとってしまった。早い人たちはもう完成しそうで、わたしを除いて全員が色を塗り始めている。けれど、わたしはまだ下書きの段階。てか、美術苦手。全然うまく描けないし。なんでこの授業選択したんだろう。音楽とかにしておけばよかった。いや、音楽もさほど得意ではないけど。みんなの前で歌いたくないし。そもそも得意科目なんてモノ、わたしにはないな。
仲良しグループのみんなは「光、がんばってねー」という声だけを置いて、さっさと帰っていった。ずるい。薄情だ。まぁ、自業自得ってヤツだから、当然なんだけどさ。
先生に生返事してから、やや気落ちしたまま美術室へと向かう。そこにわたしの絵が保管されているからだ。なにも考えずにテクテクと歩いていたら、あっという間に着いてしまった。すでに部屋の明かりがついてる。後ろ側のドアの前で一旦、立ち止まった。先生か誰かがいるようだけど、ずいぶんと静かだ。とりあえず、お構いなしにガラッと開けてみる。
サングラスをかけた男子が一人いた。教室の前のほう。窓際に座っている。黒板の中央近くにある、机のほうへと体を向けていた。その机の上には果物が置かれている。それを描いているようだった。リンゴ、バナナ、ブドウ、マスカット、パイナップル……本物じゃないんだろうけど、見てるだけで小腹が空いてくる。
サングラス男子はわたしのことに気付いているのかいないのか、黙々と作業を進めている。唐突に開いたドアなんてお構いなしなんだろう。まるでロボットみたいだ。
先生はいない。お目付け役がいないのなら今日はサボってしまおうか? と思ったけど、グラサンの男子が先生に告げ口でもしたら最悪だ。美術室に来てドアを開けてしまった以上、しかたない。教室の後ろにある棚へと向かい、自分の絵を探し始めた。
わたしのガサゴソと漁っている音と、グラサン男子の鉛筆を走らせる音だけが響いた。
二人だけしかいないからか、妙に落ち着いた雰囲気だ。ザ・静寂。それが返って気まずい感じがした。なんだかこう、ソワソワしてしまう。
ちょこっとやったら、今日は帰ろう。遅れなんて別の日に取り戻せばいいさ。とにかく、このやや重い? やや固い? やや真面目? な雰囲気から逃げ出してしまいたい気分だった。
そうこうしている内にようやく絵が見つかった。後方の窓際の席に座って準備をする。なるべくグラサン男子の視界に入らないようにした結果だ。彼がこっちを見ることはないという確信に近い予感はある。というか、向こうは一切合切、気にかけていない気がする。だけれども、なんとなく、そうしたかった。しょうがない。
美術の課題は実にシンプルだ。先生が撮ってきたであろう風景写真を自分たちなりに写す。たったそれだけ。こんな手抜きな授業で本当にいいのかと疑ってしまう。だけど、完成品を提出さえしてしまえば、なにも言われない。なので、比較的に楽な授業だと思って納得していた。
早速、風景写真を隣に置いて下書きの続きに取りかかった。チラチラと写真を見ては書き込む。線が増えるたびに、元の写真と違っていくような感じがしてくる。いや、実際に違ってきている。見れば見るほど別物。全然、思ったように描けてない。まったくもって楽じゃない。つらい。でも描く。単位欲しい。カリカリ。チラチラ。カリカリ……あー、目が疲れる。時計を見た。まだ五分くらいしか経ってない。
どうしよう、集中力もなければ、やる気もない。そもそもいきなり補習だなんて言われて集中できるほうがおかしいと思う。背伸びをする。んー、はぁー。グラサン男子がいやでも視界に入る。よくもまぁ、そんな夢中になって描けるね。
てか、室内で絵を描いてるくせに、なんでグラサンかけてんだよ。誰もいなかったのにカッコつけてたの? 同じ学年にこんなヤツいたかなぁ? ああ、ダメだ。一度でも気になってしまうと、もうどうにも止まらない。
彼はひたすらに手を動かし続けているけど、どれくらいうまい絵を描いているのだろうか? まさか、わたしよりヘタクソってことはないよね? 疑問が次々と溢れてくる。野次馬体質を持つ、わたしの悪い癖だ。こうなってしまうと確かめずにはいられない。
ソーッと立ち上がって、なるだけ音を立てずに近寄る。怪しまれないよう、忍び足だ。
彼の絵を覗き込む。その瞬間、ハッとした。
――じょうず。
素人目でもわかる。こんなにうまい絵は教科書くらいでしかお目にかかったことがない。写真みたいに正確に写されているんだけど、手書き特有の温かさ? やさしさ? みたいなのがとても心地よかった。それを目の前で、リアルタイムで書き込まれていく姿を見ていると、なんだか感動した。すごい。
「なに?」
本当にすごいって思えるものを急に見せられると語彙力が奪われるんだな、なんてことを考えていたからだろうか? 一瞬、自分にかけられた声だとは思わなかった。むしろ、誰に話しかけてるの? とまで思ってしまった。
冷静に考えて室内には二人しかいない。おまけに距離も近い。だから、わたしに声をかけたという事実は考えなくてもわかる、当然のことだった。
「なにか用? それとも邪魔がしたいだけ?」
彼は言葉を繋げた。手は動かしたままだ。顔もわたしのほうを見ていない。あくまで絵とその対象物にだけ集中している。
わたしはちょっとだけ間をあけてから返答した。
「いや、ごめん。感動してた」
彼の手が止まった。そしてこっちに顔を向ける。グラサンは少し透けていて、瞳が薄らと浮かび上がった。まっすぐ、わたしを見ていた。
「そんな直球を投げてくるヤツ、初めてだよ」
微笑んでるように見えた。というのも、グラサン越しだとちょっとだけ表情が読み取りにくい。確信が持てなかった。でも、初めの素っ気ない声の調子よりは幾分か心がこもっている。そんな印象を受けた。
ふと、閃いたことがあった。
「あのさ、もし良かったら、わたしに絵の描き方を教えてくれない? 課題にちょっと苦戦しててさ、困ってるんだ。お願い!」
両手を合わせて、ぺこり。なぜか引き受けてくれそうな気がしていた。
チラリと顔を上げると、彼は考える素振りを見せる。
「別に構わないけど、教えられるのは下書きまでだ」
「よっし! じゃあ、決まりだね!」
「とは言っても、俺も誰かに習ったわけじゃない。我流だし、人に教えるほど上手くはないけど、それでもいい?」
「はいはいはい、嫌味はいらないの。この絵を見て、教えて貰おうって思ったんだから。それで十分でしょ?」
彼はため息をつきながら嫌々というか渋々というか、とにもかくにも。わたしに教えてくれた。パパッと手っ取り早く仕上げるやり方でも教えて貰おうかと思っていたんだけど、思いつきもしなかった鉛筆の使い方とか描き方とかを知っていくうちに、新しい視点がドンドン開拓された感じがした。絵を描くという行為そのものに興味を持ち始めてしまったんだ。少しずつだけど、わたしの絵はマシになっていく気がする。けれど、まだまだ納得いかない。もうちょっとだけ、上手く描きたい。
そう思っていた矢先、彼から以外な言葉が飛び出してきた。
「うん、全体はなんとなく描けたな。ここまできたら、あとは色を塗って完成を目指したほうがいい。それができたら提出して問題ないだろ」
「えっ? この下手くそなままで色を塗っていいの? もっと下書きは上手く描けるんじゃないの?」
「んー……今の実力だと、このへんで次の工程に進んでいかないとキリがない、かな? おれは、ある程度の開き直りと妥協は必要だと思ってる」
そう言われても、なかなか納得はできなかった。
せっかくここまできたのだから、良い感じの作品にしたいじゃないか。
「ねぇ、一気に上手くなる方法ってないの?」
「無茶言うなよ。『一気に上手くなる方法』なんて魔法みたいなことを知っていたら、真っ先に使ってるさ。おれ自身に、な」
返す言葉がなかった。
彼が無理だと言ったら、そうなのだろう。わたしには彼ほどの知識もなければ経験すらない。おまけに教えるのが面倒くさくなって適当なことを言っている、っていうわけでもないことが伝わってくるわけでして。素直に従うことにした。
「今回はこれで我慢するべきだろう。納得いかないのなら、今後もひたすらに作品を完成させまくって、妥協と開き直りを可能な限り減らしていくしかない、かな」
「完成させまくる、かぁ……ねぇねぇ、ただなんとなく描くだけってのはダメなの?」
「作品を完成させるのは重要なことだと思ってる。完璧主義者ほど、描いては消しての繰り返し。作品完成からほど遠い存在だ。でもそれじゃあ、一向に上手くなりゃしない。なんせ、自分がどんな技術を扱えるのか、どれだけ進歩しているのかを確認できないんだからな。完成させた作品っていうのは、その人の実力を分かり易く視覚化させたモノだ……ってのがおれの考え方だ」
彼はニコッと笑った。今度はハッキリと分かる。口角が上がってるし、声の調子からも機嫌が良さそうだった。最初に会話した時とはまるで別人。ぶっきらぼうな感じが消えてる。意外とおしゃべりだね。
「それよりも良いのか? そろそろ学校が閉まりそうな時間だけど?」
そう言われてから、時計に目をやると七時半を過ぎていた。外は真っ暗だ。まったく気付かなかった。
「はぁ!? ええ! もうそんな時間!?」
「まぁ、夢中になってたからな」
わたしは慌てて片付けを始めた。彼はゆったりとマイペースに動いていたのだが、わたしなんかよりも遥かに早く帰る準備を終えていた。なんとなく、生活力の差を見せつけられたというか……整理整頓のデキる男とデキない女の一例、みたいな図になっていた。悔しい。
そして、なんやかんやでわたしたちは足早に校門を通った。
彼とは変える方角は反対のようだった。だから、すぐにお礼を言っとかないと。
「今日はありがとね! 助かったよ!」
「こっちこそ、いい刺激になった」
「そういえば、名前は?」
「カガミ。二年A組。そっちは?」
「ああ、ごめん。わたしは想田光。二年E組!」
なるほど。教室が三つも四つも離れてれば知らない人の一人や二人、いやもっといるよね。一年の時もクラスが離れてたんだろうなぁ。たまたま接点が生まれなかった人なんて、いくらでもいるさ。たぶん。
「またね、カガミ!」
わたしが手を振ると、カガミは背を向けて歩いて行った。ついでと言わんばかりに後ろ向きのまま手を振っていた。やる気なさそうに。そういえば、外は真っ暗なのに相変わらずサングラスをかけたままだった。やっぱりあいつは、ちょっと変わったヤツだ。
歩き始めて早々に、なんだか疲れがドッと出てきた。
今日はよく眠れる気がした。
※
翌日の放課後。
わたしはまた美術室の前まで来てしまった。課題の絵は昨日の成果もあって遅れを取り戻しつつある。ぶっちゃけ、放課後に来てまでやる必要はない。でも、どうせだったらカガミに色塗りまで教えて貰おう、という気分なのだから仕方ない。うん、仕方ないなぁ、こればかりは。上手くいけば成績の評価が上がっちゃうかもなぁ。
今日も美術室は静かだ。でも明かりがついている。
ドアを開けると昨日と同じ風景だった。カガミ、発見。
ソーッと彼の脇まで歩み寄る。こちらを一度も振り返らない。ドアの開く音は聞こえていてるはず。人が来たのも知っているはずのくせに。
「おーっす、カガミ! ねぇねぇ、ついでに色塗り教えてよ」
「無理だ」
即答。
やはり、これ以上なにかを望むのならば、それ相応の対価が必要というわけか。要求がお菓子程度ならいいんだけど……コヤツ、その辺りのこと読めないんだよなぁ……
「よろしい、要求するモノを言いたまえ。それと引き換えに……」
「だから無理だ」
ぶった切ってからの即答。
絵を描いている最中だからだろうか? 昨日はそれなりに仲良くなれたと思ったのに、また元の無愛想に逆戻り。でも、なんとなく雰囲気が変な感じだ。怒っているような、緊張しているような。なにかマズイことを言ってしまった気がしてきて、少し戸惑ってしまった。
カガミはようやく手を止め、ゆっくりとわたしのほうを見た。
「……要求もなにも、彩色に関しては教えることができない」
「……もしかして今、割と忙しい時期だったりした? 迷惑だった?」
「……違う。そういうわけじゃないんだ」
彼は小さなため息を吐いた。呆れている、疲れているという種類のため息ではない感じがした。たぶん、気分を落ち着かせるため……だと思う。勘だけど。
そんな彼の姿を見ているだけで、こっちが緊張してしまう。
「色が見えないんだ。俺の瞳には色が映らないんだ」
「……見えない? 色が? どういうこと?」
「色弱、色覚障害、色覚異常……そんな言葉を知ってるか? 色を見るのになんらかの障害を持ってる人たちはそう呼ばれている。その中でも全色盲って言ってさ。ほとんど色の区別が付かない状態がある。簡単に言ってしまえば、白、黒、灰色の三色くらいでしか判断できない。俺の見る世界がそれだ」
かける言葉が思いつかなかった。愕然としてしまった。わたしが黙っていると、カガミはちょっと間を置いてから、「だから、お前の期待には応えられないんだよ」と付け足した。
「びょ、病院に行って治療とかさ……」
「先天的なもの……原因が遺伝的なものだから、治療法はない。少なくとも、俺は知らない」
なんとか絞り出した言葉は、素っ気ない返事で遮られた。はねのけられたような、弾かれたような……彼との間に壁でも作ってしまったかのような気分だった。焦りながら考えた言葉だったけど、それがどれだけ浅はかだったのかを思い知らされてしまった。
彼に届く言葉なんてあるのだろうか?
「俺、今日は帰るよ。じゃあな」
カガミは立ち上がると、机の上に置かれていたカバンを手に取った。そのまま教室のドアのほうまで歩いて行く。
絵はそのままだ。
「こ、この絵はどうするの? ほら、まだ描きかけなんでしょ……?」
慌てて呼び止めてしまった。
けれど、彼は振り返らなかった。
「その絵はそれで完成しているんだ。俺にはそれ以上、どうしようもない」
カガミは美術室から出て行った。残ったのはわたしだけ。ポツンと残されてしまった。
彼の言っていた言葉がグルグルと頭の中を駆け回った。白黒の世界。色彩のない世界ってどんな感じなのだろう? とてもじゃないけど、わたしには想像もつかなかった。
取り残された絵に目を向けた。
上手だ。わたしなんかより、はるかに上手。いや、文字通り比べ物にならない。でも、彼は自分の見た世界を正確に書き写しているだけなのかもしれない。本人は完成と言っていたけど、本当に心の底からそう思っているのだろうか? 本当はそのさらに先。カガミには見えないけど、彩り豊かな絵を完成させたいと思っているんじゃないのか。だって、題材に選んだ果物たちは、こんなにも鮮やかな色合いをしているんだから。
軽薄な自分の言動に苛立ってしまった。だってわたしのせいでカガミを傷つけてしまったかもしれない。居心地の良かったはずの場所も、わたしが掻き乱してしまったかもしれない。
……最低最悪な気分だ。
わたしはしばらく、その場から動くことができなかった。
※
日が暮れて真っ暗になった頃、わたしはようやく家路についた。
本当にカガミの目が良くなる方法はないんだろうか? 気合とか根性で……なんて、そんな精神論は及びじゃないだろうし……
ゴチャゴチャと考えてみたけど、なんの解決策が浮かばない。というか、わたしなんかの脳ミソが数時間くらい考えただけで浮かんでいたら、カガミがあんな態度を取るわけないだろうし。
それじゃ、あきらめる?
断じて、ノー。あきらめない。
なにかしらの方法があるはずだ。本人が見えなくても、カガミの作品をもう一歩向上させる術があるはずだ。例えばホラ、わたしが彼の目の代わりになるとか。なるのかどうか怪しいところだけど。自信ないけど。あ、不安になってきた。
とにもかくにも、わたしは考えるのが苦手。だから、まずは行動する。とりあえず文房具屋に行って絵の具を購入してきた。ビニール袋に入った絵の具。明日、これをあいつに渡して……渡してから……まだなんにも思いつかないけど、なんとかなるでしょ。
てか、そんなこと考えてる場合じゃなかった。こうも連続で帰宅時間が遅くなると、親に勘ぐられてしまう。無用な詮索をされちゃう。とりあえず、急いで帰るしかないか。
住宅街の中を突っ走っていく。十字路を左に曲がったところで突然、目の前に黒い壁が現れた。急いでいたわたしには、かわしようがない。
「あいたっ」
「オーウッ」
盛大にぶつかった後、尻餅をついてしまった。ぶつかった感触からして、相手は人間だということがわかった。車とか自転車じゃなくてよかった。
てか、ぶつかった相手。外国の人みたいな反応だ。
街灯がちょっと離れたところにあるので見えにくいが、どうやらスーツを着ているらしい。おまけにマンガでしか見かけないようなシルクハットを被っていた。わたしと同じように尻餅をついているんだけど、背丈はわたしよりも大きいように感じる。そしてとにかく、細い。ちょっと羨ましいくらいには細い。ぶつかったら倒れてしまうのも無理はないだろう。
「アーイタタ……なにごとでしょう……」
ただ、日本人じゃないのはたしか。格好とかを含めて、怪しいを通り越して怖くなってきた。
「あのっ、ごめんなさいでした! 急いでるんで、失礼します!」
すばやく絵の具の入ったビニール袋を拾い上げて、さっさと立ち去った。
「んー……アレッ? お嬢さん、チョット――」
後方で外人さんの声がしたけど、怖かったのでお構いなしに走った。
心の中で繰り返し謝りながら、わたしは帰宅した。
※
そして訪れた放課後。
わたしはどういうテンションでカガミに会っていいのか分からず、美術室のドアの前でちょっとの間、考え込んでいた。
でも、わたしがそんなことを考えていたってしょうがないか。
「おーっす、カガミ!」
そう気付いたら、いつも通りにドアを開けて挨拶していた。
いつもの位置にカガミはいた。新しい絵を描いていたのかな? でも珍しいことに、カガミはコッチを見ていた。これまではわたしの存在なんか無視してたのに。
「お前、すごいな。昨日の今日でよくもまぁ、懲りずに……」
「ふふん、わたしは単純だからね。懲りるということを知らないの」
「それは威張っていいことか?」
「そしてそんなわたしからアンタにプレゼント!」
「会話しろよ」
わたしはカバンの中から例の絵の具を取り出し、カガミに見せつけるようにした。
「ジャーン! 絵の具!」
「だから、そんなもの持ってこられても……」
「いーの。分かってる。これはわたしの自己満足。迷惑かもしんない。ウザったいかもしんない。でも、わたしなりに絵を教わったお礼とか、昨日の埋め合わせって言うの? そういうのをしたいと思っちゃったんだから、しょうがないじゃん! なにがなんでも、昨日の絵を完成させるよ!」
ちょっと間を置いてから、カガミは笑った。たぶん、今まで一番ハッキリと分かり易く笑ってくれた。
「まったく、押しつけがましいヤツ……」
勝手にしろよ、とボソッと付け足してから、彼は中断していた作業を始める。
カガミから了承を得れたのなら、さっそく行動に移してしまおう。ついでに買ったパレットに絵の具を置いていく。全部で十二色だ。まだ思いつきなんだけど、これ使って……そこでふと、カガミの様子がおかしいことに気付いた。
コッチを凝視して、口をだらしなく開けている。
「お、お前……うそだろ……」
声が震えていた。明らかに動揺している。
あれ? え、うそ。これって了承を得られてないパターン? 怒られる? やっぱり軽率だった?
あー……今更になって後悔……いや、先に後悔できないからこそ、今、現在、この時になって後悔してるんだけどさ……とにかく、これは失策でしたということで……
「そ、それが……色……? そんな、うそだ……こんなことって……」
なんだかカガミの様子がさらにおかしい。
サングラスを取った。初めて見る素顔に少しドキリとした。そして口を手で抑える。呼吸の仕方がちょっと変だ。頬が濡れているような……いや、気のせいじゃないや。彼は本当に泣いている! うそ、なんで泣いてんの? あまりにも想定の範囲外だったので、わたしが取り乱してしまった。
「カガミ? 大丈夫?! ちょ、お前! どうした!」
もはやどっちも冷静じゃなかった。
カガミは途切れ途切れに話してくれたことによると、どうやら色が見えるらしい。それも、わたしが買ってきた絵の具だけ鮮明に。本来なら、唐突にそんなこと言われても信じられない。ドッキリかなにかだと思ってしまう。だけど、彼の様子が尋常じゃないので、信じざるを得なかった。もしこれが演技なのだとしたら、彼は間違いなくレッドカーペットを歩いて、ナントカー賞を貰えちゃう。それだけ伝わってきてしまったんだ。彼の感動が。
落ち着くまで――もちろん、わたしも含めて――、少し時間が経つのを待った。
「どっか特別なところで買ってきたのか?」
ようやく落ち着いたカガミが最初に言った言葉はソレ。
今度はわたしが動揺する番だった。
「い、いや、本当にその辺で買ってきたものだから……」
「色弱者用の特別なヤツをか?」
「おっかしいなぁ……そんなこと、一言も書かれてないんだけど……」
「本当にその辺で売ってたのか……? 全色盲の俺でもハッキリと見えるほどの絵の具が……」
「うーんと、えーとね……」
わたしは答えに窮した。
だって本当に心当たりがないんだもの!
昨日、なにか特別なことがあったと言えば、変な外国人とぶつかったくらいなわけで……そんなことがこの急で突拍子もない事態に影響を与えるとは思えない。
というより、わたしの知らないことを言及され続けるのは困る。このままじゃ、らちがあかない。
「とにかく! アンタにコレを使わせたくてわざわざ買ってきたんだ! てか、使え! 使って絵を完成させちまえ!」
「前触れもなく滅茶苦茶なことを言うヤツだな……」
「うるせー! 使わないんだったらドブにでも捨てるぞ、コノヤロー!」
てか、なんでわたしはケンカ腰なのやら。
自分でもよくわからない。
よくわかんないけど、カガミにこの絵の具を使ってほしい、っていうのは本当の気持ちだ。
カガミは渋々、といった感じに頷いてみせた。
「わかった。ありがたく使わせて貰う。だけど、まず最初に……」
少しの間。
最初になにをやるつもりだ?
ゴクリ。
緊張感が漂ってきた。
「俺に色を教えてくれ」
「……はぁ?」
「はぁ? じゃない。俺はそもそも、色を見たのが初めてなんだ。知識としての色を知っていても、どれがどの色かなんてわからないんだよ」
そっか。
今までカガミが見てきた世界は白や黒や灰色。見たことないものを、いきなり当てるなんてできないよね。わたしで言ったら、目を閉じたまま色を当てるようなもんだ。
「よっし! まっかせなさい!」
さっそく絵の具を一つずつ手に取り、色を教えた。わたしが買ったのは全部で十二色。教える度にカガミは感嘆の声をあげる。マジマジと入念に見つめてしまうため、なかなか次に進まない。でも、その行為を遮ることなんてできなかった。だって、すごく楽しそうだったから。
そんなこんなで、初日はほとんど色を眺めるだけで終わってしまった。次の日から、カガミは色塗りの練習を始めた。絵の具の色を見ることができても、題材にしている物の色は見えない。だから、リンゴの色を知っていても、どんな赤で塗っていけばいいのかを知らない。薄い赤なのか濃い赤なのか。明るさは? 影は? 本物と見比べることはできないから想像するしかない。塗りの調整が非常に難しく、少しでも練習して感覚を掴みたい……とのことだった。そんなにゴチャゴチャ考えなきゃいけないとは思わなかった。わたしだったら完全に放り投げてしまっている。
ともかく、わたしが協力してあげられることと言えば、題材にしている物の色を教えることくらいだ。カガミの注文は細かくって、聞いてるだけで疲れてしまった。
何枚……いや、十何枚かの紙に試し塗りをしたカガミは、手を止めて深呼吸をした。
「よし……そろそろ本番だ」
カガミは下書きの終わった絵に色を塗る。初めての完成を目指して頑張っていた。
塗り始めてから数日が経った。
半分ほどは終わっていて、色が見えない人間が描いたとは思えないほどキレイに仕上がっている。もちろん、わたし基準の評価だけどさ。でも、作品の質がどんなものになってもいいから、最後まで描き切って欲しい。わたしはそう願うようになっていた。
いつものようにわたしは彼の描いている姿を眺める。
しかし唐突にカガミの手が止まった。
「まずい……調子に乗っちまったかも……」
カガミは、そう口にした。
問題が起きてしまったんだ。
「練習をやり過ぎたのか、一部の絵の具が足りそうにない。このままじゃ、完成させられないかもな……」
「それ、やばいじゃん! どうしよう?! どうすんの!」
「普通なら絵の具を買って補充、ってところだけど……この絵の具の場合は……」
「よし、急いで買ってこよう! ほら、カガミも付いてきて!」
「いや、俺は……」
「アンタがいないと、どの絵の具を買ったらいいんだかわかんないの! 早く早く!」
「……せっかちなヤツだな」
その日はそこで終了。片付けてからカガミを連れて、知ってる文房具屋さんは全部まわった。パッケージの上からでは、カガミに見えるかは分からない。かと言って、ボールペンとは違って試し塗りみたいなのはできない。だから、同じ商品を買えるだけ買って、中身を確認した。
なんとなく予感はしていたけど、どこにも『色の見える絵の具』は売っていなかった。
これじゃ、振り出しに戻る、だ。
いや、それよりも酷いかもしれない。偶然にしろなんにしろ、カガミに夢と希望を見せてから、その可能性を断ち切ってしまうわけだから。おまけに『作品の完成』に強いこだわりを持っているからこそ、未完成のまま終わってしまうのは悔しいはずだ。
カガミは気にしていない風だったけど、絶対につらいはずだ。
わたしが、なんとかしなくちゃ。自分で蒔いた種なんだもの。最後までどうにかしなくちゃいけない。
……とは思ってる。責任も本気で感じてる。でも、どうしたらいいのかがまったくわからない。実は、この数日の間にインターネットでも調べた。でも、わたしが持ってきた絵の具の情報はまったくなかった。同じパッケージの商品はあるにはあるけど、色弱者用の絵の具なんて販売されていない。
カガミと別れて、わたしは自宅へと向かう。
でっかいため息が出た。
あの日、絵の具を買った日。わたしになにか特別なことでもあったっけ?
住宅街の中をトボトボ。十字路を左に曲がる。
「やっと見つけましたよ、お嬢さん」
「はい?」
後ろから声をかけられた。不意打ちだったので、思わず振り向いてしまった。
見覚えのある、黒いスーツとマンガでしか見かけないようなシルクハット。ちょっと羨ましいと思えるくらいの長身痩躯。
絵の具を買った日の自分の行動を思い出してしまった。ちょうどこの十字路でぶつかった相手だ。もしかして、わたしに復讐しにでも来たのだろうか? ちょっと逃げる態勢を取りつつ、白を切ることにした。
「ど、どちら様?」
「あ、名乗っていませんでしたね。これは失礼しました。ワタクシの名はアスモデウス。ちょっと名の知れた悪魔です」
「はぁ?」
いきなり自分のことを悪魔とか抜かして、頭がちょっとアレな人なのかな。いや、けっこうヤバイ人な気がしてきた。適当に話を合わせて、隙を見て逃げよう。
「それで? その悪魔さんがわたしになんの用?」
「実はお嬢さんに返して頂きたいものがございまして……」
悪魔カッコ仮さんは懐から絵の具を取り出した。わたしが買ってカガミに渡したヤツと同じパッケージだ。それにしても、どこに入ってたの、それ?
「コレ。お嬢さんのですよ」
「え?」
「この前ぶつかった際、お嬢さんは間違えてワタクシの絵の具を持って行ってしまったのですよ。お嬢さんにはワタクシの絵の具を是非とも返して頂きたいのですが……」
そういえば、ぶつかった時のわたしはかなりテンパっていたと思う。てっきり自分が買った物を拾ったと思っていたんだけど、実際は……ん? 待って。でも、まったく同じ商品だよね? なのに、この人には見分けがついている? ってことは、『色の見える絵の具』かどうかがわかるってことだよね? この自称悪魔さんも色弱者ってヤツなのかな? そもそも、この人に聞けば『色の見える絵の具』を手に入れる算段がついちゃったりして……
いやいやいや、落ち着け。まずは入れ替わってしまった絵の具をどうしてしまったのか。それを説明するべきだ。
……下手な嘘をついたら、妙な問題が起こる可能性がある……せっかくの『色の見える絵の具』を手に入れる機会なんだ。ここは正直に言ったほうがお互いのためかも……
「あの、ごめんなさい……てっきり自分のだと思って……アレ、使っちゃいました……」
「オーゥ……アレを使ってしまった……? アレを……そんな、なんと勿体ないことを……信じられない……」
彼は頭を抱えると、倒れそうなくらいフラフラと揺れた。すっごい大げさで、オーバーなリアクションだ……と思いきや、急に止まってピシッと姿勢を正した。
「まぁ、いいでしょう。事情を知らなかったのなら、致し方ないことなのでしょう。そう、致し方ない。仕様のないことだったのです。お嬢さん、今回の一件はお気になさらず。ワタクシの不注意でもあったのですからね。アッハッハッハ」
すごい紳士だ。思った以上に寛容だ。感情のブレ方も半端じゃない。見た目はアレだけど。
でも、このノリなら聞いてもよさそうな気がした。
例え相手が藁人形よりも細い人であれ、すがるしかない。というのが、わたしの現状なんだ。試せることはやっておくべきだ。
「あの……あなたが持っていた絵の具って、どこかで買えるんですか……? すぐに手に入りますか? お値段って、けっこう高かったりします?」
「ほう? どうしてですか?」
「その、あなたが持っていた絵の具が、どうしても必要なので……」
「んー……」
彼はわたしのことを頭の先からつま先までジロリと、舐めまわすように見てきた。正直、あんまりいい気分ではない。観察されているような感じだった。
「お嬢さんは普通の目を持っているようにお見受けしますが? 誰か知り合いに『見えない人』がいるんでしょうか?」
見えない人。
そう言われた時、確信が持てた。この人は、やっぱり知っている。わかっている。
だから、カガミとわたしのことを話した。洗いざらい、全部。知っている限りのことは全て。彼はウンウンと頷きながら、真剣に聞いてくれた……はず。わたしがどうしても、あの特別な絵の具が欲しいってことは伝わった……はず。その使い道もわかってくれた……はず……だよね? 恰好や言動があやしいから、余計に不安だ。
「しかし、んーむ……高貴な悪魔であるこのワタクシに頼み事とは……珍しい……レアケースですな。自身の欲望よりも他者の幸福。しかし、他者の幸福が自身の幸福につながっている……それに、もう一つの色が見えますな……とてもワタクシ好みの色が……フフフ……」
暫定悪魔さんは呪文でも唱えるかのようにブツクサと言い始めた。
やっぱアレだよね。相談する相手を間違えたよね。完全に先走っちゃったよね、コレは。
「まぁ、いいでしょう。例の絵の具を差し上げましょう」
「うそ! ホントに!? やったー!」
「ただし……それなりの代償も覚悟してください。よろしいですかな?」
喜びも束の間。真面目なトーンでそんなことを言われた。おちゃらけた感じは一切ない。真剣だ。マジな目をしている。
正直、怖かった。なにをされるか、わかったもんじゃない。
でもコッチだって後に引けないんだ。引いてたまるか、という気持ちが強かった。
「頼みを聞いて貰えるんだったら、代償でもなんでも覚悟します! …………まぁ、場合によりけりだけど」
「……かしこまりました」
悪魔さんはニヤリと笑った。口が三日月みたいな形をしていた。今までの印象をガラリと変えてしまうような、背筋も凍る笑い方だった。
ゴクリとのどを鳴らして、身構える。
まぁ、犯罪行為とかはしないよね……と、最低限のお願いを心の中でしておいた。
※
翌日。
わたしはなかなかヘビーな気分の状態で登校した。放課後まで気持ちは軽くならず、むしろ重くなった。美術室へと運んでくれる足は鉛でも付いているかのようだった。一歩一歩がズシリとくる。今すぐにでもへたり込んでしまいそうだ。
重い、おもい、おも……
「よう、どうした? 今日は疲れてるみたいだな?」
「ひぇっ」
後ろから声をかけられた。カガミだ。びっくりして変な声が出た。
でも大丈夫。なんでもない。いつも通り。ゲンキゲンキ、と自分に言い聞かせる。笑顔を貼り付けてから振り返った。
「カガミがわたしより遅いって、珍しいね」
「掃除当番だったからな」
素っ気ない返事と共に、カガミはわたしを追い越した。美術室に入っていく。
わたしはカバンから絵の具を取り出す。カガミにとっては必要な絵の具。わたしにとっては……
「ジャーン! コレなーんだ?」
わたしは美術室へ入ると同時に、見せつけるような形で絵の具を掲げた。
さすがのカガミも驚いた様子だった。口をポカーンと開けている。
「昨日の今日で手に入ったのか? どうやって?」
「んー、裏ルートってヤツ? まぁ、とりあえず、今回は大事に使いなさいよ? 手に入れるのに苦労したというか、なんというか」
「……ありがとう」
あんまりにも素直なお礼だったから、ちょっとドキッとしてしまった。よく見たら泣きそうな顔をしている……気がした。カガミの顔、直視できない……
「あ、あんまり気にしないでいいよ。とにかく、がんばろ!」
カガミは頷くと、すぐさま行動に移した。準備を終えて、キャンバスに向かう。黙々と作業を進めて行く。
「あの辺り、なに色だ? 机の色。なるべく細かく」
カガミが尋ねてきた。絵の具以外の色が見えないカガミにとってはいつものことだ。でも、コッチは諸事情でいつも通り答えるわけにはいかない。
さて、どう乗り切ろうか。
「えっとね、たしか茶色」
「うん? たしかってなんだよ」
「いや、茶色だよ、茶色! 見紛うことなき茶色! 今のはホラ、言葉のあやってヤツ」
訝しげに眉を寄せたカガミ。でも、とりあえずは作業に集中してくれた。
ギリギリセーフ、ってとこかな?
ちょっと経ってからカガミが指差した。
「あそこは?」
カガミが聞いているのはブドウの色だ。
「んーとね、これは、黄緑色系かな」
ふと、カガミの手が止まった。
こっちをジッと見つめてくる。わたしはつい、目を逸らしてしまった。
「お前、さっきから様子がおかしいな。あやふやというか曖昧というか……」
「そ、そんなことないよ?」
カガミはパレットの絵の具の一つを指差した。
やな予感。
「これ。この色はなんだ?」
「……む、紫……?」
「これは青だ」
はぁー、やれやれ。
わたしってば、下手くそかよ。
これで完全に勘付かれたっぽい。
「冗談ってわけじゃないんだよな? まさか、色が見えないのか? なにがあった?」
異常事態を察した様子のカガミくん。真剣な面持ちでわたしに聞いてくる。本当はなんとかして隠し通したかったところだけど、心配をかけないためにも話すしかない。
まぁ、信じて貰えないだろうけど……と前置きしてから、悪魔のアスモデウスとのことを洗いざらい喋った。
他人に語ってみて、改めて思った。コートームケー。でもカガミの態度は変わらない。しっかりと聞いてくれた。
「ったく、なんでそんな馬鹿なことを……」
「てか、わたしの話を信じるの? こんな、なんていうか……メルヘンチック? ファンタジックな話を?」
「こんなモノを用意されたら……そりゃあ、信じるしかないだろう?」
カガミは例の絵の具を見ながら言った。
不思議な絵の具、その正体。
人間から白、黒、灰色以外の色覚を奪い、絵の具に『奪ったソレ』を宿す。魂に伝わる色らしいから、色弱者でも見えるようになるとかウンヌンカンヌン。悪魔視点だと大変きれいな絵の具に見えるらしく、それで絵を描くのが趣味だとかウンタラカンタラ、とアスモデウスから呪文のように説明されてすごく疲れた。
そんで、新しくカガミにあげた絵の具には私の色覚が宿っている。つまり、今のわたしには白、黒、灰色以外の色を認識できないってことだ。
カガミと同じ状況になって思い知らされた。
色の見えない世界ってのが、どんなに苦痛でつらいことなのか――
「おい」
ハッとなって顔を上げた。
自分でも気付かない内に俯いていたようだ。
カガミは深いため息をわざとらしく吐き出した。
「とりあえず、その陰鬱なツラをどうにかしろよ。責任や負い目でも感じてたのか? 似合わないんだよ。お前から元気を奪ったら、なんの取り柄もなくなるぞ。もっと能天気らしく振舞えよ」
……ん?
……はぁ?
人が感傷に浸ってるときに脈絡もなく毒をぶっかけられるとさ、思考がピタッと止まるのよね。ああ、ハトに豆鉄砲ってこういうことなのかって。そんでちょっとすれば結構『来る』よね。怒りが沸々と。湧いてくるんだ。
「はぁ? なに? 今、なんつった?」
「思考が追いつかないか? 能天気らしくなってきたな。もう少し笑顔が欲しいところだ」
「今のお前にくれてやるスマイルなんてねぇよ! むしろ寄越せ! 無愛想が標準装備のくせに、笑顔が欲しいだぁ? 肩腹痛いわ!」
「よし、その調子だ。とにかく、こっから先はお前の記憶が頼りだからな。さっきみたいな曖昧なヤツはやめてくれよ? あと、空元気でもいいから明るくしてろ。気が滅入る」
そう言いってからカガミはまた絵と向き合った。反論とかは一切合切、受け付けませんって雰囲気が出てる。
コイツなりの励まし? 気持ちの切り替えさせ方? ……なのかな? とりあえず、わたしの頭ん中がリセットされたのはたしかだ。少し落ち着いた気がする。まぁ、怒りはしばらく残りそうだけれども。
「お前がそこまでしてくれたんだ。この絵だけは、絶対に完成させる」
カガミはボソッと言った。
聞こえてもいいし、聞こえなくてもいい。そんなギリギリの声の大きさだったけれど、わたしの耳にはしっかりと届いた。
今まで頼りされたことって、あんまりない。いや、一度もないかも。だからかな? 嬉しさやら恥ずかしさやらが混ざり合って、不思議な感情が私の中で生まれた。それはとても心地良いモノだった。
でも、それとは別に、プレッシャーもあった。
絶対失敗したくない。信頼を失いたくない。
気合いを入れ直すためにも、わたしはカガミの言葉に応えた。
「うん、最後まで頑張ろ!」
それから、わたしたちは毎日残って絵の作業を続けた。二人で、あーでもない、こーでもない、と悩んだり考えたりして忙しかった。それでも少しずつ前へ進んでいく。着実に完成に近づいている感覚が、わたしのなかにも生まれていた。
ああ、絵を描くって楽しいな。こんなにも夢中してやれるものなんだ。
気付いたときには、そんなことを想うようになっていた。
二人でやっているからかもしれないし、実際に作業しているのはカガミだから、ちょっとは勘違いも混じってるかもしれないけれど……楽しいって気持ちは間違いなく本物だ。
わたしにとって、かけがえのない時間。それこそ、この一瞬を切り取って絵にしてしまいたいくらい、大切な思い出になろうとしている。
でも、必ずいつか終わりがくる。
だからわたしは、その最後の瞬間を見逃さないようにと、必死だった。
※
そうそう。
帰るときはカガミが家まで送ってくれた。おまけに危ないからって手まで繋いでくれた。信号とかもわかりにくいし、なによりも視界がまだ慣れてない。最初のうちは恥ずかしかったけど、嬉しいという気持ちのほうが強かったかも?
とりあえず。
手を引いてくれるカガミは不器用ながら、とても誠実だった。というお話。
※
そんなこんなで、夏休みが目前にまで迫った頃。
カガミがポツリと言った。
「できた……」
とうとうカガミの納得できる形で絵が完成したみたいだ。
ダラリと両腕を下げて、天井を見上げてる。たぶん、緊張の糸が切れてしまったのだろう。ボーゼンジシツ。今まで見せたことのない、だらしのなさだ。
かくいうわたしも似たようなものだった。
あんまりにもあっけない完成の瞬間。それを目の当たりにして少し放心状態だった。
絵の完成っていうのはカウントダウンされるわけでもなければ、ゴールテープを切る瞬間のように最後の一筆が見れるっていうわけでもない。ドラマなんてなくて、急に終わってしまうモノだった。
もちろん、自分で描いていればそういう区切りはあるのかもしれないけど、見る側の立場であるわたしにはその区切りがわからない。ふと目を離した隙に。あるいは瞬きしている間に完成してしまうようなモノだったのだと、知ることができた。
「……できたっつっても、これで本当によかったのか、ここで終わりにしていいのか。その辺は疑問が残るけどよ……」
わたしがボケーっとしていたからか、カガミは不安になってしまったのか、そんなことを口にした。
今のわたしはカガミの絵の感想なんて言えるような状況じゃない。白黒にしか見えないから、輪郭をボンヤリと把握できるっていう程度だ。
でも、そんなわたしでも言えることはある。
「完璧主義者はなんとやら、でしょ? カガミが完成って言ったら完成なんだよ。自信を持って、胸を張って完成って言えばいいよ。今のカガミの実力を受け入れて、開き直っちゃえばいいじゃん」
キョトンとした顔をわたしに見せてからしばらくして、カガミはクスクスと笑った。
「そうだな。それじゃ、俺たちの作品はこれで完成だ」
俺たちの作品。その言葉の響きが強く、わたしの心に残った。
「ねぇねぇ。この絵、わたしが貰ってもいい?」
「構わないけど、せっかくだ。名前を書かせろよ」
カガミは端っこのほうに名前を書き始めた。字は上手いっていうか、丸っこくて女の子っぽい書き方だ。ちょっとギャップがあってカワイイと感じた。
「へー、『加々美』って書くんだ。てっきり、ミラーとかのほうの『鏡』だと思ってた。あれ? 下の名前は?」
「……別にいらない」
「いらないってなによ?」
「必要ないってことだ」
「ふーん。とりあえず、教えてよ」
「別に知らなくてもいいだろ」
「いや、知っておきたいから聞いてるんだけど?」
「なんだっていい。好きに呼べよ」
「そっかー。それで、下の名前は?」
ちょっとムスッとした顔で彼は答える。
「みかど……」
「ほら、ここに書きなさいよ」
カガミは渋々、名字の隣に『三稜』と書き足した。
『三稜』と書いて『ミカド』って読むんだ。なんだ、カッコイイじゃないか。なんて思っている一方で、当の本人は機嫌が悪そうに眉根を寄せていた。
「なんで怒ってんの?」
「いや、別に怒ってない……ただ……自分の名前があんまり好きじゃないんだよ。皇帝の『帝』の字もミカドって読むだろ? だから仰々しいっていうか、分不相応な感じがする上に古臭くて嫌なんだ」
「そう? わたしは別に気にならないかな」
「そりゃ、自分の名前じゃないからだろ」
「ミカドって言う名前の響き、わたしは好きだけど?」
「……ったく、勝手に言ってろ」
カガミはプイッと顔を逸らした。こうもあからさまに拗ねられると、もう少しイジメたい気分になってしまった。
でもまぁ、これ以上からかったら本当に怒っちゃうよね? そろそろご機嫌取りでもしておこうかな。
「ワタクシ、感激いたしました!」
突然、大きな声が美術室に響き渡った。聞き覚えのある音源は、一番うしろのほうからだ。くるりと振り向けば、黒スーツの不審者がいつのまにか立っていた。そして彼はわたしたちと目が合うやいなや、ガーッと語りだす。恋がどうこう、色がどうこうと謳うように喋る。
さすがのカガミもポカーンとしていた。というか、石像みたいに固まっていた。そりゃそうだよね。わたしのときとは違って、いきなりだもんね。こんな、おかしな登場をされたら誰だって戸惑うよね。戸惑いを通り越して石になっちゃうのも当然さ。
わたしはというと、もう頭が痛いです。
「なんでココにアンタがいるのよ……というか、なんで学校を知ってんの? どうやって侵入してきたの? 馬鹿なの?」
「そんな細かいことが気になるのですか? でしたら、まずはワタクシが悪魔であることから気にしたほうがよろしいでしょう。いえ、そもそも悪魔が実際に存在していることについて言及するべきでしょうか? いやいや、違います! そんなことはどうでもいいのです! ワタクシはあなた方の純粋な気持ちに心惹かれました! そこで、ワタクシからプレゼントがあります!」
もう滅茶苦茶だ。空気も会話の内容もめっちゃくちゃだ。
とりあえず、疑問点を上げたら会話が成り立たないってことはわかった。
では、質問はどうか?
「一応、聞いておくけど……プレゼントってなに?」
アスモデウスはニコッと笑った。どうやら、この質問は正解だったらしい。ゴソゴソと懐をまさぐると、そこから額縁を取り出した。A3よりもちょっとだけ大きい感じで、装飾がゴテゴテしている。わたしたちが描いた絵がピッタリとおさまりそうだ。カガミは8号がなんたらって言ってた気がするけど忘れた。
ところでソレ、どこに入ってた? どうやって入れてた? なんていうツッコミは、さっきのやり取りからして無用だと察しました。
「コチラの額縁、ただの額縁ではありません! 強い想いが込められた絵画をおさめれば、奇跡を起こせる魔法の額縁です! 愛を、恋を、色を! この額縁におさめるのです!」
「ふーん。奇跡ってどんな? なにができるの?」
「どんなモノでも、です。あなたが思いつく限りのモノは全て叶えられることでしょう」
それじゃあ、カガミの目に色を見せることだって、できるのかな……? それも一時的ではなくて、ずっと、いつまでも、永遠に……
「ただし、想いに偽りがあったり弱かったりすると、酷い運命が降りかかってくるのが玉に瑕なんです……そりゃぁもう、無慈悲なまでの苦難が襲いかかり人生修復不可能は確実。千語万語を費やしても表現し得ない後悔があなた方を待ち構えていることでしょう!」
「んなこと言われてから試せるか!」
「ですが、ですが! あなた方の絵、想いならば間違いありません! さぁ、どうします?」
「アンタはまず敵か味方か、その立場をハッキリさせろ!」
「ワタクシは、ただただ色を求めるだけの悪魔です。立場はあくまで中立。敵も味方もないのです。ちなみに、騙す気なんてありませんよ? これっぽっちもです。本当ですよ?」
ハッハッハと笑い出す。もうコイツと話してもしょうがないや。疲れるだけだ。
カガミに相談しようと声をかける。でも、まだ固まったままで反応してくれなかった。
肩をツンツン。反応なし。わき腹をドスッと小突いたらビクンと動いた。ようやく正気を取り戻してくれたようだ。でも、まだ喋れないみたい。この人物は何者だ? と口をパクパクさせながら目で訴えてくる。
「急で申し訳ないんだけど、コイツが噂の悪魔なの。大丈夫? 付いてこれる?」
「ああ……うん。なんとか」
カガミに状況を説明しあげた。コクコクと頷いてはいたが、本当に理解できたのだろうか?
しかし彼はそんな心配もよそに、しばらく考える仕草を見せてから、「よし、やってみよう」とあっけらかんに言いのけた。
「不安はない、と言ったらウソだ。たしかに失敗した場合のことを聞かされたら不安になってくる。本当に完成品と呼べるようなものなのか、もっと手を加える部分があるんじゃないのか、ってな。技術的な点に関して言えば大いに不安が残る。でもな、この絵に込めた想いは間違いなく本物だ。それだけは誇れる。俺はこの絵を全身全霊で描き切った」
カガミの言葉に迷いはなかった。嘘や虚勢なんてものはなく、心の底から信じているんだ。
正直、迷っていたのはわたしのほうだ。もし、失敗したら。ダメだったら……そんなことばかりを考えていた。
けれども、カガミの言葉で迷いが晴れた。勇気づけられた。
自分でも知ってたはずだ。グルグル考え込むのなんて、実にわたしらしくない。
明るくしてろって言ったのはカガミだ。
だから――
「それじゃ、開き直っちゃいますか!」
わたしはニッと笑ってみせた。
カガミはサングラスを外して、満足気に頷いた。
「ドウゾ」
アスモデウスはにんまりと笑って額縁を差し出した。
わたしたちは二人で額縁に絵をおさめる。
「それでは、ワタクシに絵を見せてください。そう、二人で持ってワタクシのほうに向けるのです」
「こう?」
アスモデウスの言われるがままにした瞬間、様々な色の光の筋が四方八方に伸びていった。虹とは違って不規則に伸びる光。久しぶりに見た色は、とても鮮やかで美しい。やがて、それらは一つに集まっていった。白い輝きで視界が覆われる。
眩しい。そう感じて目を閉じたけど、白い輝きはわたしの瞼を通過してきた。強烈なライトを向けられているみたいで、ちょっとだけつらかった。でも、段々と輝きは和らいだ。
そーっと目を開ける。
すると、わたしの見る世界に色が戻っていた。
アスモデウスには二度と色を認識できないって念を押されていたはずなのに。
頬を伝うモノがあった。涙だ。
あのとき、カガミが初めて色を見たときの気持ちがほんの少しだけわかった気がした。
「想田」
カガミがわたしを呼んだ。わずかにだけど、声は震えていた。
わたしはできる限り、優しく応える。
「どうしたの?」
「世界って、こんなにきれいだったんだな」
カガミの声はとても穏やかだった。感嘆の吐息を漏らすように、静かで落ち着いている。
わたしの視界から色が消えたのは数週間程度だ。たったそれだけの期間なのに、すごく懐かしいと感じた。色のある世界の素晴らしさを、身をもって知ることができた。わたしでそれなら、カガミはどうなるんだろう? 十数年という時を経て、ようやく目にした景色。風景。色彩。光彩。さぞ不思議な世界に映るんだろうな。それこそ、ファンタジーの世界にでもやってきたかのような感覚なのかな。未知の領域に足を踏み入れた感動は、どれだけ心を揺さぶるんだろう。
「うん、すっごくきれいだよね」
本心だ。紛れもない、わたしの本心。色であふれる世界はきれいだ。カガミとは感動の大きさが違うかもしれない。けれども、わたしと彼は同じモノを見て、同じく心を震わせている。それだけはきっと……ううん、絶対に間違いはないはずだ。
「んー……実にいい……素晴らしい……これだけの色を拝めるのは、久方ぶりです」
アスモデウスはウットリとした表情でわたしたちを眺めていた。
その姿がなんだか可笑しかった。つい、笑ってしまうほどに。
「アンタ、悪魔のくせに与えてばっかりだね」
「そう言われてみれば、そうですね。うーむ、ワタクシも悪魔の端くれ。その幸せの代価となるモノを、なにかしら貰っていきますか」
すんごい悪そうな笑みを浮かべるアスモデウスさん。
うそ、わたし、なんかマズイこと言っちゃった系?
「それでは幸福の代償として、コチラの『素晴らしき思い出の品』を、イタダキマショウ!」
ボワン、と煙が教室中に充満した。濃い灰色で包まれてしまって、周りが全く見えない。おまけに変なにおいがするから、吸い込んでしまうとむせてしまう。しばらくカガミと一緒に咳き込んでいた。
煙が消え去った頃、すでにアスモデウスの姿はなかった。思い出の品? とやらを頂くとか言っていたけど……
「やられたな。盗まれた」
カガミがポツリと言った。
ほんの一瞬、なにを? と思ったが、すぐに理解した。
「ああー! わたしたちの絵が! なくなってる!」
額縁におさめた絵がキレイサッパリ消えてしまった。いまのいままで持っていた感触があったはずなのに、とられたことにもまったく気が付けなかった。
おのれ、ルプァンみたいな真似をしおってからに!
……まぁ、残念だけど仕方ないか。
わたしたちは大きな幸せを手に入れた。奇跡と呼べるほどのでっかい祝福を受けた。それがノーリスクっていうんじゃ、天使だってブチギレたかもしれない。
あの完成品は、わたしたちにとっては『大切な思い出の品』だ。
今日この日に感じたことを、いつでも思い起こせるためにも手元に欲しいところだけれど……アイツが持ってるのなら、しょうがないか。
フーッと一息つこうとしたとき、ポケットの中に入っているケータイが震えた。油断していたこともあって驚いた。
「なんだ、メールか……ん? 知らないアドレス?」
件名を見てギョッとした。だって、『どーも、アスモデウスです』なんて書かれているんだから。
「げぇ! アイツ、なんでわたしのアドレス知ってるんだ……」
「悪魔だから、その辺もなんでもアリなんじゃないか? 考えるだけ無駄だろうよ」
カガミは冷静だった。ついさっきまで石みたいに固まってたくせに、もう順応している……なんかちょっと悔しい。
とりあえず、メールを開いてみた。
本文には『あなた方の大切なモノ、しかと頂きました。これからも、色は大切にしてくださいませ。それでは、ごきげんよう』と書かれているだけだ。そんで、添付ファイルがある。画像だ。横から見ていたカガミがクスッと笑った。
「少なくとも、思い出は残ったな」
そこにあった画像は――
笑顔のアスモデウスと、わたしたちの絵のツーショット写真。
ほんっと、憎たらしいヤツ。
でも、わたしたちにかけがえのないモノを与えてくれたヤツでもある。
そんでもって、わたしとカガミの距離を近づけるキッカケを作ったヤツだ。
チラリとカガミの横顔を見る。わたしのケータイを覗き込んでいるから、ちょっと近い。なんだろう、心臓がバクバク言い出した。頭が熱っぽい。
――もっと、近づいちゃってもいいよね?
「……ミカド」
ん? と応えた彼の口は、わたしのすぐ近くにあった。
ソッと唇を重ねる。
わたしの初めては、知らない味。未知の味だった。
恋愛小説って書いたことないと思って挑戦してみた作品です。
終始、恋愛小説ってなんだ……? と思いながら書いていた記憶があります。
いまだ恋愛小説ってなんぞや、な感じですが物語を少しでも楽しんでもらえたらこれ幸い、ありがたや。
なむ。