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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

マリーと呼ばれて

太陽と火のない暖炉

作者: 輪形月

拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

「ルイーズ」

「我が国の太陽、国王陛下の弥栄を」

「おお、そんな固い挨拶などよしておくれ、我が愛娘よ」


 修道女は性急な抱擁に、湿った手のひらと唇に無言で耐えた。拒絶しても我を通す男と知っている。


「元気そうでなによりだ」


 言葉と裏腹に、娘の脚が悪いのを知っていて、たったひとつの椅子に腰掛ける男でもある。


 冷めた評価だが、母である王妃の権勢をくじくため、ルイーズは乳離れもせぬうちに、姉たちとともに宮廷から遠く離れた修道院に預けられ、そこで育てられたのだ。

 父への情愛などない。


「しかしここは冷えるな」

 

 王はこぼした。だが石造りの建物を暖めるほどの薪など、清貧な修道院では贅沢品だ。


「これが神の家。わたくしには似合いかと」

「我が身にも、かもしれん」


 修道女は瞬いた。


「とおっしゃいますと」

「我が祖父上は太陽と呼ばれた。それに対し余はその火の入っておらぬ暖炉も同然。無用の長物扱いよ」


 自嘲にしんみりした空気が流れたように思ったろう。

 歴代の寵姫が権勢欲ばかりでなく、本当に落ちていたのは、フランス国王がその弱さを自分だけに見せると、自尊心をいたく充たされていたせいもあるのかもしれない。

 だがルイーズはほだされない。己とよく似た名の寵姫がいたことを知り、気持ち悪さに身が震えた記憶のある限り。


 されどルイーズの姉たち、特にアデライードはこの父親とべったりだった。あまりに粘着質な仲の良さに、ルイーズの幼いころから近親相姦の噂がしつこい残り香のように漂っていたほどに。


「ローグたちも寂しがっていた。一度顔を見せぬか」

「このようなシフィエも神の僕にございますれば」


 拒絶にしょんぼりとしたのは本心でもあるのか。だが気に掛けているというのなら、この尼僧院は王女とて来ることのできぬ場所ではない。ルイーズが来たように。


 姉たちはおおかたパニエの上にガウンを羽織っただけの、あのしだらない格好で、それこそ娼館の女たちのように――実際に娼館など見たことはないが――相変わらず悪口を喋り散らしているのだろう。

 おまけにアデライードは妹たちに優位を誇示し、自分の考えを押しつけ、従わせる。

 せっかく宮廷を逃れたというのに、姉に近づけば最後、一度は逃走した手駒として扱われかねぬ。このしずかな居所に政治の喧噪を持ち込ませたくはない。ならば。


 末の王娘、ルイーズはフランス革命の前にこの世を去った。

 父王や姉王女たちが、何回彼女のもとを訪れたかは不明である。

拙作『マリーと呼ばれて』の番外編です。

『マリーと呼ばれて』の中では、逆行転生者じゃないかと疑われているルイーズ・マリーですが、さて実際にはどうだったのか。

本作のイメージは、ルイ15世がルイーズ・マリーを修道院に訪ねる、の絵ですね。


ルイ15世の祖父、ルイ14世のあだ名は『太陽王』。

絶対王政の権力者ってことじゃなく、好きなバレエでしょっちゅうやってた役から来てるらしいですが。

一方、ルイ15世のあだ名は『最愛王』。ポンパドゥール夫人などの寵姫を侍らせ、アデライードたち自分の娘も嫁に出さず側にずっと置いてました。

ポンパドゥール夫人と寵を競ったマリー・ルイーズという寵姫がいたりもします。


が、それが娘への寵愛かというとどうかと思うのです。

本文中の「ローグ」の意味は「ボロ切れ」。アデライードの呼び名です。

ルイーズの呼び名である「シフィエ」も「ゴミくず」という意味です。

他の姉もそれぞれひどいあだ名で呼ばれてます。

蔑称を愛称だと言い張り、それを許容する関係ってやっぱり変だと思うのですよ。

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