襲撃
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東京祓魔学園の生徒二人はその様子を少し離れたところから見ていた。
「あれは正面からわたしたちが太刀打ちできる相手じゃないわね」
「同感だ」
銀髪ロングの女生徒の言葉に黒髪の少年が答えた。
彼らもそれなりに実力のある祓魔生だが、あれに対抗するには明らかに実力不足だった。
「わたしたち二人でかかったら?」
「わからん。そもそもあれが実力の半分も出してない可能性すらある」
「彼女、無傷だもんね」
「そういえば橘あかりは今日妖狐の少女と一緒にいたな」
「いたわね」
「使えそうじゃないか?」
「人質にでもするの?」
「それも手ではあるが俺らが直接手を加えずに済む方法があるかもしれん」
「へえ、どんな?」
「わからん」
「いやわからないんかい」
「だから調べるんだよ。まずはそっからだ」
「教皇様にはどう伝えるの?」
「元々の任務内容は橘あかりの実力の確認だ。今回ので充分わかったろ?」
「それは確かに」
「だから橘あかりはめっちゃ強いです、でいいだろ」
「教皇様それだと怒ると思うよ」
「じゃあ、お前に任せる」
「えー、面倒事ばかり押し付けるんだから、先輩でしょー」
「いっそ数名で襲撃してみるか?」
「失敗したらただじゃ済まないよ」
「だが最近向こうも時勢がきな臭いみたいなんだよな。あまり待ってくれないかもしれないぞ」
「こっちはこっちで動けばいいでしょ」
「だが橘あかりを殺したところでもうあまり意味をなさないと思うぞ」
「別の霊感少女を殺した方がいいってこと?」
「そいうことだ」
「わたしたち優等生で数人でかかったらいけるんじゃない?」
「……やってみるか?」
「ものは試しでしょ」
「失敗したら対象を変えるしかないな」
不敵に笑う銀髪ロングの少女に黒髪の少年は言った。
「それじゃあ、まずは討伐隊を組むぞ。呪術サイドと穏健派にくれぐれも嗅ぎつけられないようにな」
「わかってる」
黒髪の少年の忠告に銀髪ロングの少女は頷いた。
新宿駅都庁前の近くの人気のない路地裏。
銀髪ロングの少女と黒髪の少年、金髪サイドテールとロングの女子生徒たちが揃っていた。
「それじゃあ、行くよ」
金髪サイドテールの娘が地面に手をついて言った。地面には魔法陣が描かれている。異世界と現実世界を繋ぐゲートを出現させる魔法。ゲートを魔力で開く。四人はすぐさまその場から離れた。
ゲートから魑魅魍魎が姿を現した。
数多の鬼や妖怪たちが百鬼夜行となって現界した。
騒ぎを起こせば調伏のために陰陽師たちがでてくる。必ずしも橘あかりが出てくるというはないものの、今の彼女の実力を使わないなんて愚かである。恐らく出てくるだろう。
瞬間。
ウーーーーーン!!??
霊災警報が鳴った。
★
ウーーーーーン!!??
「都庁前周辺で複数の霊災が確認されました。周辺には近づかないで下さい。また付近にいる方々は直ちに安全な場所に避難してください」
霊災警報が鳴り、避難勧告のアナウンスがされる。
「行くわよ!」
明羅が言った。
私も一緒に出る。
アナウンスがされるってことは相当の数の妖魔が顕現したということだ。放っておくとシャレにならないことになるだろう。
霊災が出たという都庁前へ近づいきた。
だが路地を走っている時に既に三体もの大鬼が現れた。
大鬼が棍棒で襲い掛かってくる。
「ガゥゥー!!」
大鬼が咆哮を上げる。
霊力で結界を張る。
大鬼の棍棒が結界に衝突し、防がれた。
明羅はもう二体の大鬼にかかりきりになっていた。
どうやら私ひとりでこいつと対峙しないダメなようだ。まあ、この程度直ぐに倒せるし、直ぐに明羅の方へ行けるだろう。
「火矢!」
霊力で生み出した火矢を私は大鬼に向ける。
大鬼が棍棒を振って火矢を薙ぎ払おうとしたが、火矢は棍棒に野球のバットにあたるボールのように一瞬止まり、そのまま棍棒を破壊した。だが、大鬼の肉体を貫通させるとこまではいかなかった。
得物を失った大鬼が今度は素手で攻撃してきた。
大鬼の腕が私に襲い来る。結界はまだ壊れていない。腕が結界に防がれる。
この距離なら近接系の得物も使えそうだ。
私は霊力で刀を生み出し、振う。
大鬼の腕が吹っ飛んだ。
「ガアアアア!!??」
大鬼が痛みと怒りで咆哮を上げる。
「火矢!」
再び火矢を生み出し、放つ。
火矢は大鬼の心臓を貫いた。
そのまま明羅の方に合流しようとしたところで一つ目鬼と一つ目坊が同時現れた。
一つ目鬼がさっきの大鬼と同様に棍棒で襲ってきた。
私は跳躍して回避。さっきまで私がいた場所に棍棒が突き刺さった。地面が陥没した。
ヤバ……
私は冷や汗を流しながら安堵した。
だが安堵してばかりはいられなかった。
今度は一つ目坊が動いた。
なんと一つ目坊はその一つしかない目で光線を放ってきた。
思わぬ攻撃に少し、回避が遅れて、着ているシャツが少し焼け焦げた。
さらに再び一つ目鬼が襲撃してくる。
これ私一人で捌くのきつい……
仕方ない、あれを顕現させるか。
私は霊力を呪力に変換する。
「顕現せよ、牛鬼!」
私がそう言うと、この間私が召喚した牛鬼が姿を現した。
「ガアアアア!!」
巨大な牛鬼の体が一つ目鬼に激突していく。
もう完全に怪獣映画のような状況だった。
一つ目鬼は牛鬼に任せて私は一つ目坊と対峙する。
一つ目坊が再び光線を放ってきた。
再び霊力で結界を張る。
光線を結界で防ぐ。
だが結界にひびが入っていた。
噓でしょ……
こいつもしかして特級クラスなんじゃ……
私は急いで結界をもう一枚張る。
光線が衝突した衝撃で体が後ろに下がった。
このまま一つ目坊に好きにやられてるわけにはいかない。
私は結界を維持しながら、霊力を呪力に変換し、水を生成。
「ウォーター!」
呪力で生成した水流を一つ目坊の目へ向けて攻撃。
一つ目坊が光線を放つ。
水流と光線が衝突しあう。
水流をあと二つ左右から放つ。
一つ目坊は光線の範囲を広げ、水流を対処する。しかし、範囲を広げたことにより、威力が減り、水流が一つ目坊の目へと到達し、一つ目坊にダメージが入った。
水属性呪術を再び一つ目坊に向けて放つ。
水流が一つ目坊に直撃した瞬間、水は氷へと変化した。直撃すると氷へと変化させるイメージで術式を構築したのだ。
氷結呪法は一つ目坊の身体全体を覆い、一つ目坊を戦闘不能にした。戦闘不能となった一つ目坊は消滅し、同時に氷も消え去った。
だが一難去ってまた一難、今度は大百足やら巨大な芋虫やらがビルを破壊しながら姿を現した。
「キモ……」
その気持ち悪い姿形に生理的悪寒が身体に走る。
「火球!」
大百足と巨大芋虫に火球を放つ。火球は大百足と巨大芋虫に直撃し、直ぐに倒せたが、数が多すぎた。キリがないほどの大百足と巨大芋虫が襲ってくる。
私はすぐさま自分の周囲四方に結界符を張った。
結界ごしに妖虫どもが襲ってくる。
結界内から私は火属性呪術を放つ。
「八岐大蛇!」
八つに分かれた火炎が妖虫どもを焼く。
あまりの多さに全ての妖虫どもを殺しきるころにはそれなりに霊力を消費していた。
「お疲れの様だね」
疲労困憊してるところに誰かが声をかけて来た。
私の四方に東京祓魔学園の制服を着た生徒たちがいた。ほとんどは外国人だった。金髪サイドテールとロングストレートの少女と銀髪ロングの北欧系の少女がいた。他に黒髪の少年がいた。
「エクソシスト?」
私を殺そうとした奴らだった。いや殺そうとしたではなく今現在も殺すために近づいて来たのだろう。
「ああ」
黒髪の少年が答えた。
「私を殺しに来たの?」
「その通りだ。大人しく死んでくれ、橘あかり」
黒髪の少年が言うと四人とも構えた。
「四人がかりでないといけないくらいビビってるのね」
「あんだと!?」
黒髪の少年が眉間に皺をよせって睨む。
「竜也、冷静になれ」
「ちッ」
「怒りに任せて突っ込んで勝てる相手じゃないことくらいわかってるだろ」
「……そうだな」
銀髪ロングの少女に窘められて、黒髪の少年改め、竜也が頷いた。
「ああ、認めてやるよ、俺らはお前に個々で勝てる気をしない。だがお前はバチカンと教会のためにも放っておくと後々危険なんだ。教会のためにも死んでくれ!」
「死んでくれといわれて死ぬ人間がいると思う?」
「いないだろうな。だが抵抗しても無駄だ。俺たちはエクソシスト生の中でもトップクラスの実力者だ。一人一人はお前の霊力にかなわなくても、四人いれば勝てる。そして、今お前は無尽蔵に湧いてきた霊災どもの対処で疲弊してる。万全の状態よりかは弱体化してるだろう」
確かに妖虫どもを捌くのでかなり疲弊した。一体一体は弱くても、何せ数が多すぎた。
だからといって易々と殺されるわけにはいかない。
「その口振り、私を殺すためにわざと霊災を起こしたみたいだね」
「察しがいいな、その通りだよ」
「頭おかしいんじゃないの」
私一人を殺すためだけに、建物や道路をボコボコにぶっ壊したのか、こいつらは。
「頭おかしくて結構、話は終わりだ。来い、火精!」
竜也が手を挙げて、式神のようなものを顕現させた。
銀髪ロングの少女や金髪サイドテールとロングストレート少女も火精を顕現させた。
火精が火を噴く。
私は水行符を四方にばら撒く。
瞬間、火精から吐き出された炎は私がばら撒いた水行符から顕現した大量の水によってかき消された。さらにその水の水量を呪力で増やし、四方に分散させてエクソシストたちの火精へ差し向ける。
火精も炎で迎撃するも火精は火属性なので水によってかき消される。
火精では相性が悪いと判断したエクソシストたちは火精の顕現を解いた。
するとそれぞれが霊力で得物を顕現させた。
竜也が槍、銀髪ロングの少女が剣、金髪サイドテールとロングの少女が銃と弓矢だった。
まず銀髪ロングの少女が動いた。銀髪ロングの少女は霊力で顕現させた剣を私に向かって突き出して来る。
さらに違う方向からは竜也が槍を突き出し、金髪サイドテールとロングの少女が銃と矢を放つ。
私は水を操って結界を構築する。
銃弾と矢を水壁によって防ぐことができた。
相手も霊力で生み出した武器だ。霊力で防げない道理はない。
だが竜也の槍と銀髪ロングの少女の剣は水壁を薙ぎ払った。
竜也の槍と銀髪ロングの少女の剣が私に距離を詰めていく。
「っ!?」
思わぬ事態に私は息を吞む。
だが直ぐに冷静になってすぐさま懐から土行符を放つ。
竜也の槍と銀髪ロングの少女の剣は土行符から顕現した土壁に突き刺さり、私の身体を傷つけることは叶わなかった。
二人とも直ぐに得物を抜いて態勢を立て直し、再び私のもとに襲撃してくる。
だが彼らが態勢を立て直してる間に私は既に守備を整えていた。四方には結界符が貼られている。簡易四角祭術式だ。
竜也の槍と銀髪ロングの少女の剣が私へと迫るが、簡易四角祭は無事成功し、彼の攻撃は防ぐことに成功する。
一方で遠距離から金髪サイドテールとロングの少女たちが弓矢と銃を放つ。それも結界が弾く。
だが槍と剣、矢と銃弾を何度も繰り返し、結界に打ち付けれていたらいくら頑丈だったとしても、いづれは崩れる。だが構わない。この結界はあくまで時間稼ぎだ。
私は四角祭結界の中にもう一つ術式を書き込む。
口寄せの術式だ。
まだ私の手札は牛鬼くらいしかいないので方陣なしで召喚する式神がいないのだ。術式に調伏効果を付与し、ランダム召喚!
「来い!」
方陣が光りだす。
巨大な魔力を帯びた猪が姿を現した。
「あの二人を倒せ!」
竜也と銀髪ロングの少女へ魔猪を差し向ける。
「チッ」
竜也が舌打ちした。
竜也と銀髪ロングの少女へ向かって魔猪が襲いかかる。
「ブヒイイ!!」
「なんだこいつ!?」
竜也が槍を向ける。
大暴れする魔猪に竜也も銀髪ロングの少女も悪戦苦闘する。
その間に、私は金髪コンビと対峙。
「ノウマク・サマンダ・バザラ・ダン・カン!」
不動明王の小咒を発動。
金髪サイドテールの少女が弓矢を引く。
私が放った小咒と金髪サイドテールの少女が放った霊力で生み出された矢が激突する。
さらに金髪ロングの少女が霊力の銃弾を放つ。銃弾が私へ襲いかかる。
結界はまだ張られているが、多分この銃弾が激突したら恐らく崩壊するだろう。全体を覆う結界は霊力の消費が激しい。魔猪が竜也と銀髪ロングの少女を対処してくれてる今は部分的に張るのみでいい。
私の五本の指が横に空を切る。さらに四本の指が縦に掻かれる。
早九字だ。
格子紋に霊力の銃弾が衝突。
弾かれた銃弾は反動で金髪ロングの少女へと向かう。
「なッ!?」
金髪ロングの少女が驚きを露わにして焦る。
まさか自分が放った攻撃に身を脅かされることになるとは思ってなかったのだろう、慌てた金髪ロングの少女は銃弾をなんとか避けたが、肩口を軽く掠めた。
そして、金髪サイドテールの少女が放った霊力の矢も私が放った不動明王の小咒諸共力をしのぎ合った結果、どちらも自然消滅した。
二人とも態勢を立て直して弓と銃を構える。
(お妙さん)
『ようやく呼びましたか』
(お待たせしました)
『まあ、なんでも人に頼ってばかりでは成長しませんからね。それで用向きは?』
(あの銃使いの女の対処をお願いしてもよろしいでしょうか?)
『防御だけでいいのですか?』
(それは倒してくれるのならありがたいですけど……)
『ごめんなさい、私は攻撃系苦手なのよ』
(わかりました、防御だけお願いします)
『受けたまわりました』
私はお妙さんとの念話を終えて、再び目の前の金髪少女たちと対峙する。
二人とも次発の矢と銃弾を放ったとこだった。
銃弾と矢が再び私に襲い来る。
だが今回は私自身が対処するのは目の前の弓矢の少女だけでいい。
呪力で出来た矢が飛んでくる。
私も呪力を構築してそのまま金髪サイドテールの少女へ放つ。
金髪サイドテールの少女の呪矢と私が放った呪力が衝突する。しかし、なんなく金髪サイドテールの少女の呪矢は私が放った呪力へ押し流され、そのまま彼女に衝突し、衝撃で金髪サイドテールの少女は後方へ吹っ飛んでいった。
一方金髪ロングの少女も銃弾を放っていたが、お妙さんが構築した結界に防がれた。
サイドテールの少女の方を片付けた私は次は銃の少女の方へ向き直った。
金髪ロングの少女が銃弾を放つ。
『あれ、祓魔効果があるわね』
お妙さんが言った。
なんとなくそうだと思っていたっけど、案の定だったらしい。
後ろで二人と戦ってる魔猪には有効だろうが、魔の者ではない私にはあまり関係がない。だが飛んでくる銃弾は実弾で当たったら怪我じゃ済まない。最悪死ぬ。
銃弾は再びお妙さんが防ぐ。
「八岐大蛇!」
私は八方向から龍のように炎が金髪ロングの少女へ向かう。
険しい顔で金髪ロングの少女は結界を張る。炎によるダメージは防げたが、彼女は攻撃による衝撃で後方へ吹っ飛ばされた。だが、金髪サイドテールの少女と違い、彼女はノックダウンせずそのまま立ち上がった。
へえ、やるじゃん。
吞気にそんな風に余裕をかました時、私の後方の魔猪が消滅した。
『はあはあ……』
魔猪を倒した二人は息切れして満身創痍といった感じだった。
「エレオノール、行くぞ」
「うん」
竜也が銀髪ロングの少女改めエレオノールへ言い、彼女は頷くと、二人は私へ向かい駆け出す。
エレオノールの剣と竜也の槍が私へ襲いかかる。
私は金行符を地面へ貼る。
二人の槍と剣が私のすぐ近くに来たところで、即座に鉄製の壁が出現した。
二人の攻撃は防げたが今度は金髪サイドテールの少女が再び銃弾を放った。
バンバンッ!!
銃声が響き、五つくらいの銃弾が私へ迫る。
再びお妙さんが結界を張る。
「ちっ」
金髪サイドテールの少女が舌打ちした。
前方では竜也とエレオノールが態勢を立て直して再び襲い掛かってきた。
私は今度は火行符をスカートのポケットから数枚出して、放った。
炎がエレオノールと竜也へと向かう。
「水の精霊よ!」
エレオノールが剣を持っていない左手で霊力で精霊を呼び出した。
水の精霊は襲いかかる炎を水を吐き出して消す。
そしてすぐさま跳躍して、距離をつめた。
エレオノールが鉄壁の真上にいた。
まずい!?
このまま剣が振り下ろされたら私は袈裟斬りにされる。
慌てて私は霊力で刀を生み出す。
エレオノールの剣が私の体を切り裂く寸前に霊力で生み出した刀がそれを受け止めた。
『まずい、あかり、こっちの異人、新たな式神を呼び出したわ』
お妙さんが言った。
勿論気づいてる。だが、二人の対処に追われていて、中々そっちに手が回らない。
(お妙さんでも捌くのは厳しい)
『明らかに相手の実力の方が高いわ』
(わかった)
「オン・キリキリ・ウン・ハッタ!」
私は再び周囲全体に霊的結界を張る。
そして、後ろを見る。
後ろには天使がいた。
「驚いた? この天使はね魔術で生み出すことのできる疑似天使。一種のカバラ魔術なのだけど、理論的にはゴーレムのそれと同じよ」
そう言ったのは天使を顕現させている金髪サイドテールの少女ではなく、さっきまで剣を交えていたエレオノールだった。
私は再びエレオノールと竜也へ視線を向けた。
その瞬間、二人とも疑似天使を召喚した。
これはヤバい……
四面楚歌だった。このままだと殺される。あの疑似天使はヤバい。神霊級の強さだろう。しかもそれが三体である。だが何か違和感を感じる。やけに霊気が人間的というか……
いや今はそんなことよりもこの窮地をどう切り抜けるかだ。
疑似天使が三体同時にアクションを起こした。
三体の疑似天使は三方向同時に炎を放った。
凄まじい火力の炎が張っていた結界を一瞬で溶かす。
結界を張っても間に合わない。
私は瞬時に避けたが、背中を火傷した。
「痛っ!?」
涙目でごろごろと転がった。
状態を起こした時に疑似天使が三体とも目の前にいた。
「噓でしょ……」
私は絶望的な気分でそれら疑似天使を見つめる。
ゴーレムは土属性の魔術人形だ。ならば木剋土の法則だ。
私はとっさに木行符を放つ。
しかし、その間に疑似天使に全て焼かれてしまった。
その時だった。
疑似天使が急に何かに薙ぎ払われた。
私が使役してる牛鬼だった。
どうやら霊災を片付けて余裕が出てきたため戻って来たようだ。正直助かった。
「我に力を貸し給え、シャーキャ!」
どこからか呪文が聞えた。
呪文が聞えた方から莫大な霊力が溢れ出す。
その方向へ視線を向ける。
明羅がいた。
剣印を組んだ明羅が霊力を疑似天使へ飛ばす。
疑似天使三体とも霊力に貫ぬかれ、消滅した。
「噓だろ……」
竜也が信じられないといったように言った。
他の二人も啞然としている。
「紛い物如きを葬るくらい大したことないわよ」
明羅が三人のエクソシスト生に言った。
「……引くぞ」
「え、でも……」
竜也の言葉に金髪サイドテールの少女が躊躇いがちに言った。
「わかったわ」
エレオノールが素直に頷く。
「マナ、シャルを運んで」
「……わかったわ」
未だ納得できないといった感じのマナと呼ばれた金髪サイドテールの少女はエレオノールの言葉に従い、金髪ロングの少女シャルの身体を回収しようとした。
「させないわよ」
明羅がその道を塞いだ。
「どいて、仲間を回収したいのだけど」
「だからダメ」
「なんでよ!?」
「もういい、マナ、一旦引くぞ! 俺たちじゃそいつには勝てない!」
竜也の言葉に悔しそうにマナは歯ぎしりして、渋々後ろに後退した。三人は一か所に集まると、瞬間、姿を消した。
「なんでこの子回収させなかったの?」
私は未だ気絶しているシャルと呼ばれた少女を見下ろして言った。
「人質」
「うわあ……」
「冗談よ、半分は」
「半分は?」
「建前上人質にしておけば抑止力になると思って」
「抑止力って、バチカンへの?」
「そういうこと」
「後の理由は?」
「味方に取り込む」
「そんなことできるの?」
「簡単よ」
明羅は艶しげに微笑む。なんかエロかった。
そうして私たちは土御門学院へ彼女を連れて帰った。
その数日後何故かシャルは明羅に凄い懐いていた。まるで餌を欲しがる犬や猫みたいに。