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一般上がりの霊感少女、陰陽師になる  作者: 焔摩下広鬼
一章
3/5

ミーディアム女学院へ訪問

 私は元々漫画やアニメが好きなので呪術や宗教の知識はまあそこそこある。加えて霊感体質でもあるのも理由の一つである。

 とは言え実践となると別だ。それに霊力を呪力へ変換させる方法などは知らなかった。

 土御門学院へきてようやくその方法が身についたが、まだまだ知識と方法もただのオタクの域を出ないところがある。

 そして、エクソシストたちが私を狙っている。

 呪力をコントロール出来るようになってきてそろそろ外出も許可されてもおかしくないし、外回りで霊災対処や呪術犯罪者と対峙することがこれからあるかもしれない。そのためには手数を増やし、エクソシストたちへの対処法を考えなければならない。

 そんなわけで、明羅が用事があるとかで、今日私は図書館へ来ていた。

 エクソシストたちに対処するための方法を探すために参考になりそうな本をキリスト教の本棚から物色する。

 まずは聖書正典、外典、偽典を取ってくる。それに加え、カトリックの神学書なども見繕う。

 やつらがどんな技を使うのかは対峙していない現段階では何とも言えない。

 その辺は明羅とかに聞けばわかるかもしれない。あとで聞いておこ。

 そもそもエクソシストとは何かというとイエス・キリストが悪魔祓いをしたようにカトリックの神父や司祭もそれに倣って悪魔を祓うという理論のもと生まれたらしい。

 そしてキリスト教カトリック教会というのは成立は古代ローマ四世紀頃だ。コンスタンティヌスによってキリスト教を国教としたことが始まりである。しかし、国教と言ったてこの頃のキリスト教はイエス・キリストが教えを広めていた時のものとは全然違うものになっていたようだ。教理の中にはギリシャ哲学やオリエントの神話をルーツとするものが混じり合っていたという。三位一体もそのうちの一つだし、教会には守護聖人の偶像があるが、そもそもアブラハムの宗教は偶像崇拝を禁止している。

 こうした背教した理論をつけばエクソシストたちの術を崩せるかもしれない。

 とは言え先に明羅たちに奴らがどんな術を使うのか聞いておけばよかった。順番間違いたな……

 背教した要素を知っても役にたつかもわからないし。

 あッでもそう言えば聖書正典には名前の出てくる天使はミカエルとガブリエルだけなんだけ? 私は聖書正典をパラパラめくって天使の名前を探した。

 本当にミカエルとガブリエルしか出てこないな。

 エノク書やトビト書にはめっちゃ出てくるのに。これは使えるかも……

 そして、もう一つ私は気になったので、キリスト教関連の書籍を未だ使いそうなものだけを残して必要のないものはしまい、真言や陰陽道や密教系の呪術の方法を調べ始める。やはり密教呪術オタクとしては修得しておきたい。


 明羅が寮へ帰ってきてから私は奴らがどんな術を使うのか聞いた。

「エクソシストがどんな術を使うかねえ……」

 明羅は少し考えてから再び口を開いた。

「聖書の読誦と後は使い魔を使役したりしてたような……わたしたちもエクソシスト生と一緒に組むことなんてあまり機会ないからね、そんなに詳しいわけじゃないのよ。祓魔学園の陰陽師とかなら知ってるかもだけど……」

 明羅はそこまで言うと再び顎に手をやって何か考え込む。

 少しして再び私に視線を向けた。

「もしかしたらだけど、アリアは結構詳しいかもね」

「アリアって、初めて会った時にいた?」

「そう。アリアに限らず魔女科は外国人がメインだから、キリスト圏の生徒も多くいるの」

「なるほど」

「ミーディアムへ行ってみる?」

「行けるのなら」

「ちょっとアリアにメール入れてみるわ」

 そう言って明羅はスマホのLINE画面を開いて、メールを打ち込み、送信した。

 明羅がメールを送って直ぐにピコンと通知音が鳴った。

 どうやらもう返信が来たらしい。早いな。

「いいって。いつでも来ていいって」

「明日でも?」

「聞いてみる」

 再び明羅がスマホに文字を打ち込む。

 再び直ぐに返信が来る。

「OKって」

「良かった」


 ミーディアム女学院は秋葉原にある。

 秋葉原と言っても駅近くではなく、神田明神がある御茶ノ水寄りの方だ。その神田明神は目と鼻の先にある。

 ミーディアム女学院の校門前に着くと明羅がスマホで連絡を入れた。ちなみにメールではなく電話だ。

 間もなくしてゴスロリ改造制服を着た金髪ツインテールの少女アリア・クロウリーが姿を現した。

「久しぶりね、メイもアカリも!」

「久しぶり、アリア」

「久しぶり」

 溌剌と挨拶するアリアに明羅も私も返す。

「さあ、こっちよ」

 アリアが先んじて私たちを学院内に案内する。

 私たちは学院内にある魔女科の寮へと案内された。

 寮の客間の椅子に三人で座った。

「それで何が聞きたいの?」

 落ち着いたところでアリアが三人分の紅茶を用意しながら聞いた。

「エクソシストたちに立ち向かう方法と彼らが使う術式」

「ああ、なるほどね」

 アリアが納得した。

 初めて会った時もアリアは私を奴らから守るために明羅や小毬と行動を共にしていたのだ。土御門学院とミーディアム女学院お互いに私を保護すればメリットがあったということは自身でも承知しているけど、助けられたことは事実なので打算の有無は正直関係無い。

「聖書の読誦と使い魔を使うっていうのは聞いたけど」

「その通りよ。ところでその使い魔だけどどんなものをイメージする?」

 アリアは私だけでなく明羅にも視線を向けていった。

「うーん、わからないなあ」

「式神みたいな感じ?」

 私が困って答えられずにいる一方、明羅は答えた。

「まあ、そいうのもいるけどね、完全に正解というわけではないよ」

「どいうこと?」

「あいつらは疑似天使を使うの」

「疑似天使?」

「天使の力を疑似的に顕現させる感じ」

「真言みたいな?」

「だいたい合ってると思う」

 明羅が聞くと、アリアは頷いた。

「あとはゴレームみたいに人口的に魔術で生み出すとかね」

「なるほど。ゴレームも使役してるの?」

「ゴレーム生成ができるエクソシストもいるよ。ゴーレム生成はカバラ魔術だからね、エクソシストも使える者が多い」

 カバラとはユダヤ教発祥の一種の神学論みたいなものだ。それをもとに行使される魔術がカバラ魔術だ。

「それと聖遺物も使う。もっとも本物ではなく基本的にはレプリカだけど」

「聖遺物って?」

「神々や聖人に由来した遺物のこと。ロンギヌスの槍とか、聖骸布、仏舎利とかもそう。本物は文化遺産的な価値があるし、何分古いから簡単に持ち運べるものではないけどね。そして、レプリカとは言え、教皇が魔力を注いだものであれば神具としては機能すると思う」

「なるほどね、ありがとう参考になった」

「お安いご用ってやつよ。ワタシもあいつらは嫌いだから、助太刀なら任せて!」

 意気込むアリア。

「ありがとう」

 そんな頼もしい言葉に私は嬉しくなった。


 ✝


 ミーディアム女学院からの帰り、偶然にあかりを見かけた祓魔学園の女生徒がいた。銀髪ロングで色白のロシア系ぽい少女だった。

 あかり一人だったら始末しに行ってもよかったのだが、橘あかりの隣には土御門明羅がいた。銀髪ロングの少女も明羅とあかりを一人で相手にするほど馬鹿ではない。

 二人の後をつけてみる。

 どんな話をしてるのか聞き耳を立ててみるが、少し離れているので、はっきりとはわからないが、エクソシスト、キリスト教、対処などの単語がちらついている。どうやらエクソシストたちの対処法を考えているらしい。

 早く行動を起こさないと橘あかりを始末するのが難しくなるかもしれない。


 ★


 ミーディアム女学院から土御門学院へ戻って来てから直ぐに私は明羅とともに呪練場に来ていた。

 図書館やアリアに聞いた知識を元にエクソシストたちに対抗する術式を組めないか色々試してみたのだが、これが実戦で役に立つかはまだわからなかった。

 それともう一つ明羅に見てもらいたいものがあった。

「ノウマク・サマンダ・バザラ・ダン・カン!」

 私は不動明王印を結ぶと真言を唱えた。そして、その瞬間火炎が的に向かって吐き出された。

「……」

 明羅は啞然としていた。

「どうやってできるようになったの?」

「不動明王が返事するまで頭の中で真言を唱えた。それで話て力貸してってお願いした」

「……規格外すぎる。それで不動明王はなんて?」

「いいよって軽いノリで」

「まじか……」

「ちなみに頭の中に現れた不動明王さんは可愛い褐色美少女だった」

「あかりの妄想でしょ、その不動明王」

「ほんとだって。現にこうして不動明王の小咒を発動できてるじゃん」

「まあ、確かに……でも不動明王って男神じゃ……」

「両性具有なんじゃない?」

「仏教の神は確かにそのパターンあるけど」

 仏教に限らず、神話の神々には男神として女神としても崇拝されているものがある。おかしなことではない。メソポタミア神話のイシュタルだって男神として崇拝されたことがある。また同じ仏教の尊格である地天は男神として表されるが、起源はインド神話の地母神プリティヴィーだ。

「他にも出来る?」

「不動明王の術式くらいかな。慈救咒と火界咒はできる。あと不動金縛りも」

「……エクソシストたちが躍起になっているあかりを殺そうとするのも納得ね、これは……」

「え、酷くない……」

「それくらいあかりの呪術師としての才能は凄いてことよ」

「なるほど、つまり褒めてるの?」

「うん」

 私の問いに明羅は頷いた。

「どう、対戦してみない?」

「私じゃまだ明羅には勝てないよ」

「どうかな、それはやり方次第じゃない? 勿論加減はするし」

「ならいいけど」

「じゃあ、わたしは密教系呪術を封じる」

「密教系全般?」

「うん」

「修験道系も封じるの?」

「あーそうか、じゃあ、陰陽道と神道だけで行く。あかりからでいいよ」

「わかった」

 明羅の言葉に私は頷く。

「ノウマク・サマンダ・バザラ・ダン・カン!」

 修得したばかりの不動明王の小咒を放つ。

「急急如律令‼」

 明羅が水行符を数枚放ち、叫んだ。

 水流と炎がぶつかり合うが、相性と実力の差もあって、不動明王の小咒から放たれた炎は水行符から吐き出された水流によって消火された。

「ノウマク・サラバ・タタギャテイビャク・サラバ・ボッケイビャク・サラバタ・タラタセンダ・マカロシャダ・ケン・ギャキギャキ・サラバ・ビギナン・ウン・タラタ・カン・マン!」

 不動明王の火界呪。この真言は不動明王の大心陀羅尼であり、小咒よりも更に火力が出る。しかし、発動させたのは勿論初めてなので成功するかはわからなかった。だが火界呪は無事に成功し、私の手から火炎が放たれた。

「まじか」

 明羅が驚きながら、愉し気に微笑んだ。

「祓え給え、清め給え、急急如律令!」

 明羅が霊符を放った。

 放たれた霊符は荒れ狂う火炎を薙ぎ払い、炎は周辺霧散した。

「さすが……」

「もっと呪力を込めた方がいいよ」

「まだ慣れてないのよね」

「まあ今の時点でこれだけ術が発動できるのも異常だけどね!」

 明羅は話しながらも術式を発動させる。彼女の手元には呪力で作り出した剣が出現した。剣は光り輝いていた。

 明羅は剣を持って、そのまま跳躍し、距離を詰めてきた。

 私も同じく呪力で剣を生み出す。

 ガキィィイインン!!

 明羅の剣が私へ襲い掛かり、私は彼女の剣を受け止める。

 呪力で生み出した剣だが、しっかりと剣戟音が呪練場へ響いた。

 明羅の剣を受け止めた衝撃波で身体が後ろへ下がり、倒れそうになった。

 だがなんとかしてバランスを保つことができた。

「あかりは運動の方ももう少し鍛えた方がいいかもね」

「そうかも」

 確かに相手が接近戦タイプだった場合、遠距離の呪法だけでは厳しくなるかもしれない。

「まあ、とか言ってるわたしもそんなに運動は得意じゃないけど」

「そうなの?」

「下手ではない。でも得意でもない」

「なるほど」

 可もなく不可もなくということらしい。

「運動が得意なのは……」

 明羅は思案するように顎に手を当てていたが、

東京こっちにはいないな」

「どういうこと?」

「京都にはいる。先輩だけど」

「へえ、どんな人?」

「わたしのお姉ちゃんみたいな人かな」

「ほう、それでそれで」

「随分食いつくね」

 明羅が苦笑ぎみに言った。

「だって気になるじゃない」

「呪術はあまり得意な人じゃないんだけど、その分剣技が得意で、それだけで霊災や呪術犯罪者を今まで幾つも倒してる人だよ、清原光(きよはらひかる)って知らない?」

「うーん、聞いたことあるようなないような……」

「まあ、あかりは元々一般出身だもんねえ」

「有名な人なの?」

「呪術界ではね。学院の生徒適当に誰か捕まえて聞いてみな。みんな知ってるだろうから」

「そんな有名なんだ」

「そういえば、続きどうする?」

 未だ術式を発動させたままの私と明羅だった。

 別に勝ち負けのために戦ってたわけでもないので、半ば勝負そのものはわりともうどうでもよくなっていた。

「もういいんじゃない?」

「やめるか」

 私の返答に明羅が答えた。

「わたしはあかりの成長が見れたし満足」

 明羅は満足気に言った。

「それはなにより」

 私としてもそう言われると嬉しい。

「疲れたあ~」

 私は両手を組んで、伸びをして疲弊した体をほぐす。

「あかりは久々に学院の外出たんじゃない?」

「うん」

「どうだったい、久々の娑婆は笑?」

「娑婆って……」

 変な言い方をする明羅が面白くて私は笑みをこぼした。

「楽しかったよ。アリアちゃんにも会えたし」

「それは良かった。もう実力的には問題無いだろうから、そろそろ外出許可も出せるかもね」

「ほんと?」

「うん」

「最近、友人に会えてないから、助かる」

「あかり友達いたの?」

「酷いわね、人間の友達はいないけどね」

「ああ、そういうこと」

「うん、妖の知り合いは多いよ」

「わたしは?」

「えっ!?」

「わたしもあかりの友達でしょ」

「え、うん、そうだね」

「何その反応ー」

 ショックを受けたような仕草で明羅が言う。しかし、本気でそう思ってるわけではないことは明白だった。つまり明羅のただの冗談だろう。

「いや、えっと……突然だったから、びっくりして。その、明羅も友達だと思う、多分……」

「多分なんだ……」

「私今まで人間の友人いなかったから、自信なくて。こんな私を好きになってくれる人なんているのかなって」

「……こんなじゃないよ。自信持って、わたしは本当にあかりのこと好きだからさ」

 さっきと打って変わって明羅は真面目な表情で私に言った。

「まだわたし以外は関りが薄いかもしれないけど、これから増えていくよ、きっと。少なくとも土御門学院は霊感があることを忌避するような人はいないから。まあ、嫉妬や陰陽家でないことをよく思わない選民思想主義の人は中にはいるけど……」

「ダメじゃん」

 先日の悪役令嬢三人娘のことを明羅は言ってるのだろう。

「でも人間にしろ、妖怪にしろ、悪い奴は悪いし、良い奴は良いんだよ。人間だからとか、妖怪だからなんて一口にくくるのは結局自らもどちらかを差別してるのと一緒じゃないかな」

「確かに、そうかも」


 ちなみに呪練場での演習から帰って来てから、明羅に「月刊シャーマン」という雑誌を見せてもらった。月刊シャーマンはその名の通り実力のある呪術師やエクソシスト、巫女を特集した雑誌だ。

 そこに明羅の姉的な存在である清原光も特集されていた。

 黒髪ポニーテールでサバサバした雰囲気を特集されたグラビア写真からは受けた。

 明羅は何度かページをめくる。

「ちなみにこれがわたしのお姉ちゃん」

 明羅が指さしたページには赤髪セミロングのスタイルの良い娘が載っていた。

 土御門晴奈、そこにはそう書かれていた。

「凄い美人」

「でしょー、まあ、わたしの自慢のお姉ちゃんだからね」

 明羅は得意気に言った。姉が大好きで仕方ないといった雰囲気が漂ってくる。

「明羅は無いの?」

「わたしも結構インタビューされるけど、今月は無いね」

「そうなんだ」

「そのうちあかりも取材されるかもね」

「私が?」

「うん」

「いやないでしょ、土御門学院に入ってきたばかりだよ」

 この間まで一般の高校に通ってた私にそんな直ぐに取材が来るとは思えなかった。

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