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一般上がりの霊感少女、陰陽師になる  作者: 焔摩下広鬼
一章
1/5

霊感少女、陰陽師になる

 私には特異な体質がある。

 それは霊感が強いことだ。

 人よりも霊感が強いせいで視えないものが視えて幼い頃から気味悪がられ、避けられてきた。その後中学にあがった頃には既に必要以上に人とコミュニケーションをとるのをやめた。人と関わったって私を理解してくれるような人間はいない。

 しかし、霊感が強いため、妖怪や幽霊、神仏の知り合いは多い。

 だが友好的なものばかりではない。

 最近は霊感がさらに高くなってきたのか、危険な妖怪と遭遇することが多くなってきた。幸いなことに最近は妖怪の霊気を察知出来るようになり、事前に危険性を回避できることが多くなった。

 しかし、必ず回避できるわけではなく、どういうわけか霊気を隠くすことができるタイプの妖怪がいるらしく、そういうタイプの妖怪の霊気は察知しづらい。

 三月末のある日の黄昏時(たそがれどき)。運の悪いことにその霊気を察知しづらいタイプの妖怪に遭遇してしまった。

 私の目の前に突然巨大な蜘蛛が現れた。

「な、なんで……」

 私は顔を真っ青にしてその場から逃げ出す。

 巨大な蜘蛛は追いかけて来た。

 もう少しで家路に着くというのに私は巨大な蜘蛛から逃げるため、来た道へ戻って行く。

 追いつかれないために必死で逃げた。

 しかし、逃げてる途中で躓いてしまった。

 巨大な蜘蛛が目の前に迫る。

 やばい、死ぬ。

 そう思った時だった。

「ノウマク・サマンダ・バザラ・ダン・カン!」

 呪文が聞こえた。

 そのすぐあと火炎が巨大蜘蛛に襲いくる。

 巨大蜘蛛は炎に焼かれて、そなまま力尽き、消滅した。

「大丈夫?」

 茶髪ツインテールの少女が座り込んでる私に手を差し出す。

 私はその手を取って立ち上がった。

「はい、ありがとうございます」

 私は目の前の茶髪ツインテールの少女に礼を言う。

 茶髪ツインテールの少女は五芒星と格子紋がついた制服を着ていた。

「その制服、土御門学院ですか?」

「うん、そうだよ」

 私の問いに茶髪ツインテールの少女はあっさり答えた。

 土御門学院とは京都と東京の二箇所ある陰陽師の育成を目的とした学校である。

 ちなみに本校は京都にあり、この東京にあるのは分校らしい。

「あなたは橘あかりで合ってる?」

「え、なんで名前知ってるんですか?」

「探していたからね。わたしは土御門明羅つちみかどめいら。橘さん、あなたは土御門学院に来てもらうわ」

 明羅は私の問いには答えず、そう言い放った。

「は? 意味わかんないんですけど」

「今は説明してる暇ないから、とりあいず一緒に来て」

 そう言って彼女は私の手を強引に引っ張っていった。

「あっちょっと!」

 私は抗議の声を上げたが、明羅は聞く耳持たずに私の手を引いて急いで走っていった。

 彼女が私を連れて来たのは、新宿だった。

「着いたわ」

 明羅が言った。

 私の目の前には大きな学校があった。

 見た目は大学ぽく、敷地はありえないくらい広い。

 門の横には「土御門学院新宿分校」と書いてある。

 訳が分からないまま私は学院の敷地内へ通された。

 建物の中に入って昇降口のとこで中に直ぐには入らず明羅が一旦立ち止まる。

「ちょっと待ってて」

 そう言って明羅はスマホを取り出し、どこかへ電話をかけた。

 ちょっと待つもなにも何でこんなことになってるのかをまず説明して欲しい。

「もしもし、今どこ?」

『―』

「奴らとは遭遇しなかった?」

『―』

「じゃあ、戦闘にはなってないのね。こっちは回収したわ。これで奴らも容易には手を出せないはずよ」

『―』

 なにやら穏やかじゃない単語が聞こえたのだけど……

「ええ、もう戻っても構わないわ」

『―』

「ふう」

 電話を終えると明羅は安堵したように一息吐いた。

 いや勝手に安堵しないでくれない、こっちはまだこれがどいう状況なのかすらわかってないのだから。

「それでそろそろ説明してくれませんか?」

「ああ、そうね。まずはごめんなさい。無理矢理連れてきてしまって。さっきは説明してる暇がなかったから」

「どいうことですか?」

「橘さんは霊感が強いわよね」

 それは疑問ではなく、確認だった。それも明羅自身それを認識しているようだった。

 なぜ彼女がそれを知っているのかわからないが、私は明羅の言葉に無言で頷く。

「しかも最近、いっそう強くなった」

 再び確認。

 私はそれにも黙って頷いた。

 これはある程度私のことを調べているようだ。

「なんとなく気づいてるとは思うけど、橘あかり、あなたのことは調べさせてもらったわ」

 やはりそうだった。

「調べて、あなたはこのまま一般の学校に通わせとくわけにはいかない、と判断したの」

「なんでですか?」

「その力を土御門学院で役に立ててほしい、っていう打算もあるのだけど、真面目な話あなたの命に関わるからよ」

「命にかかわる?」

「その力は学院にとっては有益な力だけど、異端視する勢力もあるのよ。妖に狙われるだけじゃなく、人間にも狙われるの。さっきの電話だけどね、わたしと橘さんがさっきいた場所、あの付近一緒に回っていた友達の情報によれば、そいつらがあのあたりでうろついてたらしいわ」

「なんで……私なんにもしてないです」

「あいつらにとってはその人個人の良心なんて興味がないのよ。危険な力を持っていたら排除する。それがあいつらのやり方よ」

「そのあいつらって誰なんですか?」

「エクソシストよ。橘さんは霊災を対処する人たちの知識はどれくらいある?」

 妖怪や怨霊、神仏などの霊的存在が暴れ災害化したものを霊的災害、通称霊災という。霊災の存在は一般的に認知されている。元々隠されていたらしいが十年ほど前に大きな霊災が起きて隠しきれなくなったらしい。

「霊災を対処しているのがエクソシストや陰陽師であるということくらい、です」

「まあ、そんなものよね。あー、どう説明したらいいかなー。複雑なんだよね。まず霊災修祓に関わってる組織はどんなのかわかる?」

「わからないです」

「霊災修祓は大きく分けて二つの組織が関わってるわ。一つは呪術・魔術庁、そして、もう一つは祓魔庁。まずは呪術・魔術庁だけど、霊災修祓も仕事の一つなんだけど、ここは霊災修祓専門ってわけじゃなく、呪術犯罪や呪いなども扱っていて、陰陽師や巫女を含む呪術師、魔術師などが所属してるわ。対して祓魔庁は陰陽師やエクソシストなどが所属し、対霊的存在に特化した組織なの。そして、基本的にこの二つの組織はあまり仲が良くないの。何故かわかる?」

「……いえ」

「全てが全ての人間がそうってわけじゃないけど、妖怪などに偏見があって害の有無問わず祓おうとする者もいるの。それとエクソシストは、知ってると思うけど、日本の宗教発祥ではなくキリスト教よ。キリスト教は一神教で多神教を認めてないし、魔術や呪術を異端視している。その辺も対立してる理由よ。といっても過激なのは一部だけなんだけど」

「一部だけならそんな危険じゃないのでは?」

「いえ危険なことには変わりないわ。祓魔庁や祓魔師の育成機関である東京祓魔学園は祓魔を生業としてる陰陽家とバチカンが母体にあるの。今の祓魔庁や東京祓魔学園の庁長と理事長も陰陽家で、妖怪に対する偏見もなく、倫理的な人なんだけど。それとは別に過激派とバチカンに繋がりがある可能性が高いの」

「なるほど」

「今の説明わかった?」

「はい、つまりキリスト教サイドが危険な人間がいる、って感じですか?」

「そんな感じであってるわ」

 私の問いに明羅が頷いた。

「それじゃあ、土御門学院こっちへ来てくれる?」

「そういうことなら」

 私は頷く。

 どうせ今の学校に仲のいい友達とかもいないし、学校が変わるくらいどうとも思わない。危険な妖怪や祓魔師から身を守ってくれるというんだし、断る理由は無い。

「でも……さすがに急すぎるから、家族に話してからここに来たいんですけど」

「それはわたしもそのつもりよ。事情を説明したいし、護衛も兼ねてわたしも橘さんの家に行くわ」


 〇


 明羅があかりを霊災から助けて、そのまま土御門学院へ連れて行った後から直ぐ間もなくして、あかりが妖に襲われた現場に十代半ばくらいの少年二人が現れた。彼らは十字紋と五芒星を重ねたような変わった紋章の付いた制服を着ていた。

「ちっ、逃げられたか」

「まだ近くにいるかもしれない、探すぞ」

 少年たちは標的を見つけるため、周囲を探し始めたが、結局見つけることはできず、帰って行った。


 その様子を土御門学院の制服を着た少女が様子を伺っていた。

 少年たちが帰って行くのを確認すると、少女も土御門学院へと帰ることにした。その途中で少女の携帯がバイブしたので確認してみると、少女の親友からの電話だった。


 〇


 事情を説明するために私と明羅は一度私の自宅へと向かった。私の家は土御門学院のある新宿からそう離れていない。同じ新宿区内でもある。自宅へ向かうその途中、私は一つ気掛かりなことがあった。

「ところで私の家族に、その過激派の手が及ぶことはないんですか?」

 私は明羅に問う。

「それは式神を橘さんの家周辺を瞠らせるから、大丈夫よ」

「それは良かったです……」


 〇


 私が自分で自分の身を守ることができるようになるまで、土御門学院で保護するということを私の家族に説明した後、土御門学院に帰って来てからのこと。

 私は土御門学院の寮へ入ることになった。

「橘さん」

「はい」

「寮、空き部屋がないから、私と同じ部屋でいい?」

「あ、はい、大丈夫です……」

「それなら良かったわ。案内するね」

 そう言って明羅は私を部屋へと案内する。

 部屋へ着いて、私は自宅から持ってきた荷物が入ったリュックを下した。全部は持ってこれないので、大きな物などは後で業者に送ってもらうことになった。

「ねえ」

 荷解きをしている途中、明羅が話しかけてきた。

「はい?」

「これからルームメイトになるわけだし、もっと砕けた話し方でいいよ」

「そう?」

「うん」

「わかった」

「それとあかりって呼んでいい?」

「いいけど」

「わたしのことも下の名前でいいから。土御門って長いでしょ」

「それは確かに。あれ、そういえば土御門って……」

「そう、土御門家の人間よ。気付くの遅くない?」

 明羅が微笑みながら言った。

「ドタバタしてたし」

「確かに、それもそうか。まあ、何はともあれ、これからよろしくね、あかり」

「うん、よろしく」


 荷解きもほぼ終わり、ようやく落ち着いてきたところで突然部屋のドアが開いた。

「たっだいまぁー!」

 元気よく入ってきたのは金髪をおさげのツインテールに結んだ少女だった。少女は鳥居の中に逆五芒星が描かれた紋章の制服を着ていた。ミーディアム女学院の制服だ。しかし、よく見るミーディアム女学院の制服ではなく、袖口や襟元、スカートにフリルなどが付いていて、改造されていた。

 一番ノリで入ってきた金髪おさげツインの少女の後ろにあと二人いた。同じくミーディアム女学院の制服(改造されてない通常のもの)を着た黒髪ロングストレートの少女と、ここ土御門学院の制服を着たやや身長が低い少女だ。

「!?」

 金髪おさげツインの少女と目が合った。

「あなたが例の霊力最強ガールです!?」

 すると金髪おさげツインの少女がゼロ距離で食い気味に私に顔を近づけて言った。人形のように美しい顔とその頭から生える金色の髪に私の胸は高鳴る。鼻と鼻がくっつきそうなほどの距離で詰め寄る彼女にドギマギしながら、私はなんとか「う、うん」と答えた。

「ワタシはアリア・クロウリー、よろしく!」

「私は相馬五月そうまさつき

賀茂小毬かもこまりよ、よろしく」

 アリアに続いて、後ろの二人も挨拶した。五月が淡々と、小毬は朗らか微笑みながら言った。

「橘あかりです、よろしくお願いします」

「堅くならなくていいよ、ここにいるのタメか年下だから、みんな」

「そ、そう、じゃあそうする」

 先刻明羅に言われたことを小毬にも言われたので私は頷く。

「ミーディアムとは一緒に行動することが多いから、仲良くね」

「うん」

 明羅が言い、私は頷く。

「ところで、ミーディアム女学院ってどんなとこなの? 私いまいち土御門学院との見分けがつかないのだけど」

「まあ、素人だとそうよね。土御門学院は怪異が災害化した霊災の修祓に加え、対呪術犯罪者とかの術を学ぶ場でもあるの。あとほとんどが陰陽家か密教系の出身。あかりみたいに一般あがりの呪術の才がある子もたまにいるけど極少数派。

 ミーディアム女学院は学科が二つあって巫女科と魔女科があるの。巫女科は祭祀や霊災修祓のサポートなどがメイン。即席的な攻撃呪術が使える人はあんまりいない……まあ、例外もあるけど」

 明羅が五月の方を見ていった。

 五月は嫌そうに、

「こっち見ないでくれるかしら」

 と毒づいた。

 五月はあまりコミュニケーションが得意でなさそうな印象だ。私はちょっと親近感がわいた。

「ごほん、話を戻すけど、まあ、扱うジャンルが違うのよ」

「なるほど」

「あとアリアは魔女科、五月は巫女科よ」

 明羅がアリアと五月に視線を向けて言った。

「魔女科ってどんなことするの?」

「魔女科は魔術・魔法がメインだよ」

 私の問いにアリアが答えた。

「魔女科は海外の魔術師や魔女を受け入れるために数年前にできたのが発祥なの。だからほとんどが外国人か外国育ちの日本人よ。扱うのは古今東西の古代から現代までに伝わる魔術」

 アリアの答えに明羅が補足して説明してくれた。

 ようするに魔女科は外国人留学生向けと言ったものらしい。


 〇


 翌日。色々あって疲れてたからか、起きたのは10時過ぎだった。学院が始まっていたら大遅刻である。

「おはよう」

 明羅が私に視線を向けて微笑む。

「おはよう」

 寝ぼけまなこで明羅に返す。

「今、お茶入れるね」

 明羅がマグカップを持って来て、私の分も紅茶を注いだ。

 紅茶が注がれたマグカップを手にし、私は一口含んだ。紅茶はまだ暖かった。

「美味しい」

「そう、それは良かった」

「お茶入れるの上手いんだね」

「これくらい普通よ」

 明羅は謙遜したが、そういう彼女の表情は満更でもなさそうだった。

「今日一日空いてる?」

「空いてるけど、なに?」

「学院を案内しようと思って」

「なるほど、それならお願いしようかな」

「わかった」


 朝食を食べ終わると私は明羅に連れられて、学内の案内をしてもらう。

 まずは食堂に来ていた。

「食事はさっきみたいに自室で作ることも可能なんだけど、料理スキルがある子ばかりじゃないから、ちゃんと両方あるの。わたしも毎回作れるわけでもないから、たまに使ってるわ。ちなみに無料で注文できるの」

「うそ!?」

「ほんとよ」

「なんで? 至れり尽くせりじゃん」

「ここの生徒は危険な妖怪や呪術犯罪者と対峙して、命をかけることも多いから、できるだけ環境まわりは充実させてるの」

「な、なるほど」

 納得した。それりゃなにも理由なしに無料になったりはしないか。

「霊災修祓は陰陽生が対処できる危険度は限られてるんだけど、不足の事態もあるし、呪術犯罪者はそういうの限らず対処を迫られることもあるのよ」

「なんか急にここ来たの後悔してきた」

「安心してわたしがいる限り危険はないから」

「それは安心だね」

 明羅がいなければ私は今頃死んでいたかもしれないし、それなりに恩は感じてる。その強さもその時に実感してる。

「言っとくけど、あかりを助けた時のような敵は陰陽生が対処することの出来るレベルの範疇(はんちゅう)よ」

「あ、あれで?」

「うん、だからあの程度でわたしが強い陰陽師だと思ってるのなら、間違いだよ」

「だ、大丈夫なの?」

「大丈夫よ、あかりが想像してる以上にわたしは強いから」

 えっへんと明羅はそれなりに、その豊かな胸を叩いて言う。叩いた胸が大きく揺れた。

「あ、そういうこと」

「そういうことよ」

「あんまり慢心してると痛い目にあうよ」

 ドヤ顔で威張る明羅に誰が言った。聞き覚えのある声だった。

「小毬……」

 声がした方に二人揃って視線を向けると、昨日会った賀茂小毬がそこにいた。

 呆れたように明羅にジト目を向けてる。

「うるさい、大丈夫よ」

 明羅が不満気に小毬に言う。

「それにしても珍しいね、メイが食堂にいるの」

「あかりに学院内を案内しようと思って。それでとりあいず一番最初に来たのがここだったのよ」

「なるほどね」

 小毬は納得して頷いた。


 私と明羅は次に部室棟に向かった。小毬は用事があるとかで食堂でわかれた。

 文芸部にアニメ研究部、地学部、アイドル研究部、茶道部、華道部、歴史研究部、放送部、新聞部、釣り部、キャンプ同好会、登山部など一般的な部活があった。

 一方で魔術・呪術研究会、占術部など変わった名前の部活があった。呪術師の育成学校らしい名前である。

「魔術・呪術研究会はその名前の通り古今東西の魔術・呪術を研究するところ。趣味でやってる部活と違って霊災修祓や呪具や魔導具開発、魔術・呪術の新しい術式開発などにも関わってるの」

 魔術・呪術研究会の扉を明羅が開きながら言った。

 部室内には数人の部員がいた。

「あっ明羅」

 茶髪セミロングの少女が明羅に気づいてこちらに視線向けた。

「その子は?」

「新しく学院に転入してくることになった橘あかりさん」

「よろしくお願いします」

 明羅が勝手に紹介してしまったので私は挨拶した。

大伴葉菜おおともはなです、よろしくね」

 茶髪セミロング改め大伴葉菜は私に向かって気さくに挨拶した。

「丁度いいや、あかりは霊力がめっちゃあるの、なんか霊災ややつらに目をつけられづらくする護符とかない?」

「それならこんなのどう?」

 そう言って葉菜は長方形の箱を持って来て、中から幾つか取り出し、テーブルの上に置いた。

 テーブルの上に置かれたものはミサンガ、髪留め、御守、符、そして何故か十字架。

「なぜ十字架?」

 どうやら明羅も同じことを思ったようで、葉菜に問うた。

「いや、あいつらも同胞は攻撃できないかなあと思って、ダミーにできないかなあって思ったんだけど、同胞同士で殺し合ってることなんて外国じゃ普通にあるし、意味はないかと後から気づいたやつ」

「な、なるほど……」

 明羅がなんとも言えない表情で十字架を手に取って見た。

「まあ、陰陽師と言え、十字架って普通にファッションでも使われるし、需要はあると思うんだけど、いかが? ファッションにもなってかつ呪具としても使えます!」

「いらない」

 私は無宗教だし、信条の理由とかは特にないけど、十字架ってなんか陽キャがつけてるようなイメージあって嫌だ。

「さいですか……」

 少し残念そうに、葉菜は言った。

 私は再びテーブルに置かれた呪具に目を向ける。

「ミサンガか髪留めかな」

 呪符はなんか持ってて嫌だし、御守は常につけてるわけにはいかないので、常に身に着けてられるそのどちらか二つが良さそうだ。

「ならあかりは髪留めがいんじゃない?」

「え、なんで?」

 髪留めかミサンガだったらミサンガの方が常に身に着けてられて、かつ風呂などでも外す必要無いので、ミサンガの方がいいと思っていたので、明羅の意外な提案に疑問を抱いた。

「私、ミサンガにしようと思ったんだけど」

「そうなの? まあ、好きな方選べばいいんじゃない?」

「ちなみにあたしも髪留めの方がいいと思うけどね」

「別に髪留めでもいいんだけど、これって霊力を抑えたり、感知されづらくする効果の呪具なんでしょ? だったらミサンガの方が常につけてられるんじゃないの?」

「ああ、それで選んだのね」

「うん」

「そこまで徹底しなくても大丈夫だとは思うよ。それに髪留め外す時だって寝る時くらいでしょ」

「そうだけど」

「あたしたちが髪留めの方がいいって言ってる理由は実用性以外の理由だよ」

「あ、ちょっ―」

「せっかく綺麗な髪なんだから色々とおしゃれしたいでしょ、女の子なんだし!」

「は?」

 思わぬ理由に私は啞然とした。

「明羅も同じ理由?」

「ええ、けどあかりはあんまりそういうの興味ないかなって思ったから、理由は言わなかったの」

「あ、言っちゃまずかった?」

 明羅の言葉に葉菜が遅れて気づいて言った。

「じゃあ、なんでおすすめしたの?」

「わたしが見たいから」

「……は?」

 数秒の沈黙の後、私は先程と同じ素っ頓狂な声を上げた。

「ぷっあははははっ!」

 あまりに阿保らしい理由で笑ってしまった。

「あ、あかり?」

 突然笑い出した私に明羅が困惑しながら、問いかける。

 ファッションなんて興味無いから、やっぱりミサンガにしようかとも思ったけど、明羅のおすすめ理由があまりに個人的過ぎて気が変わった。なんで気が変わったのか私自身もよくわからない。でもまあ土御門学院に入ってからここ何日か、私の分の食事を作ってもらったりもしてるので、なにも恩を返さないのは人として駄目だし、これくらいの個人的理由くらい答えたって何も問題はないでしょ。

「わかった。髪留めにするよ」

「いいの?」

「うん」

 明羅の問いに私は頷いた。

「なんか早くも随分仲良くなってるじゃん。まだ出会って何日かしてないんでしょ」

 葉菜が微笑まし気に私と明羅に視線を向けた。

「別にいいでしょ」

 明羅が照れくさそうに言い放った。

「あかり、髪結んであげるから、座って」

「わかった」

「どんな髪型がいい?」

「任せる」

 私はファッションには詳しくない。ポニーテールみたいなシンプルなやつもほとんど結んだことない。母親に結んで貰ったことはあるがそれも小さい頃ばかりで最近はまったくだった。

「そんなこと言っていいの? 遊んじゃうよ」

「お手柔らかに」

 愉し気に言う明羅に私は苦笑しつつも、許可した。

「いいんだ」

「ほどほどならね。変な髪形にはしないでよ」

「りょっ!」

 明羅は答えると、愉し気に私の髪をいじり始めた。心なしか鼻歌まで聞える。


「葉菜、手鏡ある?」

「あいよ」

 私の髪を一回結び終わると明羅は葉菜に言い、葉菜はバックから手鏡を出した。葉菜は手鏡を私の正面に置いた。手鏡に私の顔が映し出される。結ばれてる髪形はツインテールだった。

「いかが?」

「さすがにツインテールはちょっと……」

「だと思った」

「なんでやったのよ」

「可愛かなって思って」

「可愛いくして欲しいわけじゃないのだけど……」

 少しだけ不満気に私は言う。けど楽しそうにしてる明羅の顔が私の正面にある鏡ごしに見えて、文句を言う気にもなれなかった。

 それから明羅はサイドテール、三つ編み、お下げツイン、お下げサイド、ポニーテールなど色々試したが、私が気に入る髪形はあまりなかった。

「ヘアゴムタイプだけじゃなくて、リボンやヘアピンとかもあるよ」

 葉菜が言った。

「それも霊力制御、隠蔽の術式あるの?」

「もちろん」

 私が聞くと葉菜は答えた。

 試しにヘアピン型の呪具を手に取ってみる。ヘアピン型の呪具は本当に前髪を分けて止めるだけの一般的なシンプルな物だった。前髪を分けて両サイドに止めてみる。

「なんか凄くしっくりくる」

「本当にファッションに控えめだなー」

 明羅が苦笑交じりに言った。

「なんか、ごめん、変わり映えしなくて……」

「いいよ、あかりがその髪形がいいなら」

「ヘアピンで二箇所止めただけだけどね」

「イメチェンしたくなったら言って。私が結んであげる」

「その時はお願いする」

「うん」

 私がそんなことを彼女にお願いするようなことが今後あるかわ極めて低いと思うけど。


 文化部棟を一通り見て、私と明羅は次は運動部を見学しに来た。

 陸上部、水泳部、バスケ部、サッカー部、バレー部、バドミントン部、卓球部、弓道部、柔道部、剣道部、空手部、ボクシング部などを見た。

 バスケ部、サッカー部は1チームほどしか部員がいないし、バレー部やバドミントン部も同じかそれよりもちょっと多いくらいで、野球部やテニス部はそもそも無かった。

「運動部少ないね」

 文化部が結構自由だった分、運動部があまり人気ないのは意外だった。

「みんなわざわざ本業意外で運動したがらないからね」

 明羅が苦笑交じりに言った。

「武道系の部活は部員多いよ。いつもじゃないけど大会とかに進出するときもあるし」

「へえ、なんで?」

「霊災や呪術犯罪者対処のための能力向上にもなるからね」

「なるほど」

 実際に弓道部を見てみると結構な部員数だった。少なくとも20人以上はいた。ボクシング部もだいたい同じくらいの部員がいた。

 剣道部はさらに多く、50人はいる。

 しかし、柔道部はそんな多くなかった。5人程度しかいない。

「柔道部少ないね」

「まあね。陰陽師的に人気薄いからね」

「陰陽師的人気?」

呪術師わたし)たちって霊災や呪術犯罪者を対処する際に得物を持つ人が多いの」

「獲物?」

「刀とか槍とか」

「あっ、そっちか」

「獲物じゃないよ」

「うん」

「だから柔道みたいな身体を使う系の格闘技はあんまり人気ないのよね」

「でもボクシング部は多かったけど」

「身体を使って戦うタイプの人もいるし、人間相手には呪術よりも体術の方が効果的な時もあるからね。でも柔道やレスリング、相撲みたいな決まったフォームがあるのはあんまり人気無いんだ。多分フォーム覚えるのがめんどいんだと思う」

「な、なるほど……」

 それにしても五人は本当に少ないな。

 運動部を見学する過程で体育館、弓道場、武道場、校庭などを回り、次は図書館へ向かった。

 図書館は三階建てで別棟になっていて、小説、漫画、図鑑、参考資料、呪術本や魔導書、宗教書などとにかくたくさんの本があった。本好きにはたまらない空間だった。

 思わず私は目を輝かせていたらしい。

 明羅が少し驚いた顔でこちらに視線を向けてきた。

「本好きなんだ」

「あ、うん……」

 少し恥ずかしくなって、声がすぼむ。


 最後は呪術訓練場。

 ここで呪術の練習をするらしい。今も陰陽生が模擬戦をしていた。

「土御門学院は呪術の実技演習の授業もあるから、それでもここを使うことになるわ。多分、春休み開けたら直ぐ使うことになると思う」

「転入して早々に授業あるの?」

「さすがに初日はないと思うよ。まあ、仮にあっても最初は見学だね」

 私はほっと胸を撫でおろした。


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