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墓参  作者: 守尾八十八
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Ⅱ おれの伯父さん(Mon Oncle)

 母方の叔母から電話がかかってきて、墓参りに誘われました。


 両親が亡くなり、もはやその墓に入る可能性があるのは、おれだけという状況でした。故郷に戻るのは五年ぶり。墓に行くのは、実に四十年ぶりです。

「墓地は分かるんですが、うちの墓のある場所を覚えてないんですよ」

〈大丈夫、大丈夫。わたしたちが知っとる〉


 十八歳で家を飛び出したおれは、長い間、親族との関りを絶っていました。隣の県に嫁いだ妹は、父に続いて母が亡くなってからずっと、墓じまいしようと言っていました。


 叔母婿(むこ)である叔父の運転する車が、宿におれを迎えに来ました。

「あの電信柱のところから入るんやろ。あれが目印たいね」

 助手席の叔母が道案内しました。かすかな記憶がよみがえってきました。


「昭和二十年没か。(みのる)さんって、どういう間柄の人?」

 墓石に刻まれた文字を見て、叔父が尋ねました。団塊の世代である叔父の生まれた少し前のことだから、気になったのでしょう。

「おやじの何番目かの兄で、戦死したって聴いてます。敵に攻撃されて乗ってた船ごと沈められて、遺骨は戻ってないそうです」

 それくらいのことしかおれは知りません。

「一番の孝行息子だったんやってね。自分が母親を養うって始終言うとったんだと」

 叔母は、おれの父方の親戚事情をおれよりずっと正確に把握していました。父方の祖父は、末っ子の父が生まれてすぐに亡くなっています。祖母は、苦労して五男一女を育て上げました。

「戦争で亡くなって、あんたのお婆ちゃんは軍人恩給を受け取れるようになったんやけん、結局、稔さんの決意は全うされたったいね」

 線香に火をともしながら、叔母が言いました。おれは、そんなこと一つも知りませんでした。

「もう最後になるかもしれんやろ。ちゃんと手を合わせんしゃい」

 おれと妹が育った家はすでに売り払いました。おれは、仕事の用事で地元に立ち寄ったのです。

「本来なら、おれが墓守をしなきゃならなかったんですよね」

 親族への不義理をおれは悔やみました。

「あんたにはあんたの人生があるけん、仕方なかよ。婆ちゃんも、父ちゃん母ちゃんも、あの世でゆるしてくれよる」

 叔母が慰めのような言葉をかけてくれました。おれは、稔伯父さんのようにはなれませんでした。


==<了>==


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