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墓参  作者: 守尾八十八
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Ⅰ 父の信仰心

 同居する祖母は、信心深い人でした。朝晩、仏壇に手を合わせ長い念仏を唱えていました。祖父は、父が生まれた直後に亡くなったそうです。

 祖母の信心深さを、その息子である父は小ばかにしているように感じました。おれは、父は仏なんて信じていないんだろうと思っていました。


 おれの地元では、八月十三日を「盆の入り」、十五日を「盆の明け」として、盆の入りには仏様を迎えに、盆の明けには見送りに、お墓に参ります。

「おまえが後を継がんといかんけんな。やり方をちゃんと見とれよ」

 線香など一そろいの道具を持って父と跡取り息子のおれは、足腰の弱った祖母に代わり、それぞれ自転車に乗って自宅近所の墓に向かいました。

 信仰心の乏しい父のことなので、墓石の前での父の所作をおれは、おれに教えるためだけにやっているのだろうと受け止めました。


「これでいい。仏さんを自転車に乗せて帰ろう。仏壇にお参りすれば、それでおしまいだ」

 おれと父は、家路に着きました。

「仏さんが乗ってるからか、いつもより重く感じるね」

 ペダルを踏みながらおれが冗談を言うと、並走する父は笑いました。


 盆の明けの十五日も、おれは父と、やはり自転車で墓に向かいました。ところが、追尾していたはずの父から声が掛かり、振り向くと、父の自転車ははるか後方でした。

「忘れ物をしたけん、取りに帰る。おまえはここで待ってろ」

「おれも行く」

 父に倣っておれは自転車をUターンさせようとしましたが、父は「待っていろ」と言うばかりです。

 おれは、理解しました。父の忘れ物とは、先祖の御霊(みたま)のことに違いありません。父は、あの世に帰してあげなければならない仏様を、連れていなかったのです。出掛ける前の仏壇へのお参りを怠ったのです。

 父は信仰心が薄いという認識を、おれは改めました。祖母のように仏壇にすがることが、威厳を保たなければならない一家の大黒柱として父にははばかられたのでしょう。


 父の自転車は、すぐに戻ってきました。

「忘れ物、取ってきた?」

 尋ねてみました。

「おう。ちゃんと取ってきたぞ」

 仏壇に手を合わせてきたんだろうと、おれは、父に確かめませんでした。詰問すれば父の威厳が損なわれると、幼いながらも、おれは判断しました。


(「Ⅱ おれの伯父さん〔Mon Oncle〕」に続く)

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