第三十二章 地獄の指輪…覚醒
「安心しろ、苦しむ暇もなく殺してやる」
「…お前がこの世界のキーか?」
「知らないな、無駄話をするつもりはない」
俺と術師はダウン、妹は行方不明。
戦えるのは悪魔だけ、もどかしい気持ちだった。
「…俺しか戦えるやつはいないが、まさかお前は負傷している者にまで手をかけようとするのか?」
「戦いで、相手が怪我をしているから手を抜く、そんなくだらない真似はしない」
「俺は俺の使命を果たす、お前達が自身の使命を果たそうとするように」
仮に兄貴が…この世界のキーだったとしよう。
悪魔に任せるなんて悔しい。
でも体はほぼ動かない…絶望しかない。
「…少しは楽しませろよ」
悪魔と兄貴が戦っている音だけがきこえてくる。
「…お前は大丈夫かよ?」
「問題ありません…もう戦えないですが……」
「それより妹君は…?」
「俺にもわかんねぇ…体が…動かねぇんだ、探しにすらいけねぇ…」
参ったな。
例えるとすれば…そうだな。
体操のオリンピックの前日に負傷して出られない選手…みたいな感じだ。
こんなにも悔しいなんて、知らなかった。
「…一つ、体を動かす方法があります……」
「今の貴方に体力があるかどうか…ですが…炎で無理やり体を動かすことが……」
そんなことができるならやってやるよ。
腕がもげようと、足がもげようと。
しかし、もう体力も限界だ。
「…もし…限界以上に炎を使ったらどうなる……?」
「……死にます」
やっぱりそうか。
でも、俺は戦わなければいけない。
何でだろうか…そんな気になる。
その時だった。
「く…この身体も限界か…!」
悪魔の声がきこえた。
「…もう諦めろ、お前は確かに強い」
「しかし、俺の能力は完全無欠だ…お前に勝ち目はない」
悪魔が負けてるのか?
悪魔が負けたらどうなる…
悪魔も、俺も、術師も死ぬ。
妹も…?
なら、俺一人が犠牲になってでも…
そんな力があるかどうかじゃない。
…やらなければならない。
「…俺、今まで逃げてたんだ…」
「……?どうしました…?」
「いつだってそうだった…」
面倒なことからは身を引く。
少しでも嫌なことは絶対にしない。
友達が不良に絡まれてる時だって、俺は逃げた。
…だって、そうだろ?
生き残ってナンボなのが人生。
辛い事も悲しい事も、すぐ過去になる。
……後悔するのは間違ってる。
「立ち上がるのに…遅いとか、そんなんねぇよな…?」
「動け…動けよ…!!」
俺は立ち上がれたことに気付いた。
そして、気付いた。
…地獄の指輪が俺を動かしていたようだった。
いつ指にはめたのか、さっきまではめてなかった。
…あれ?
体が思い通り動かない。
声が出ない。
「…雄地…お前動けたのか、死んだフリに近い真似をするとはな」
俺はただ無言で兄貴に近づいていた。
止まれ、止まれ、そう念じても俺は止まらなかった。
「…!!地獄の指輪を外せ!!」
悪魔の声がきこえた。
無理だよ、体が言うこと聞かない。
「地獄の指輪…なぜお前が…!」
「…最悪だ、ここで目覚めるとはな……」
「かつての…大魔王が……!」
「もう飲まれたか、愚かな…俺の弟は本当の莫迦だったようだ」
「今すぐ楽にしてやる」
地獄の指輪が目覚めの時を告げた――――