第三十章 本体を探せ
「うおおおおおおおおお」
ずっと爆風により吹き飛んでいた俺は
本能的に炎で身体を護っていた。
「…セーフ?」
勝負はどうなったのかわからないが
微かに大きい影が見えた。
あれが魔王だと確信して近づいていった。
「痛いですね…まったく」
術師だった。
「何だ…お前無事だったのかよ」
「何ですか、そのけげんな顔は…」
妹はきっと、防御能力に優れているが故にバリアを張れただろう。
気遣いは無用と感じ、そのことについては触れなかった。
俺と術師のほうに悪魔がきた。
「…おい!何であんな大きな技使ってんだよ!」
「手荒だが、アレを止めるには仕方がなかった」
「…それで、魔王はどうなりました?大きな影は動いていませんが…」
「……俺にもわからん、こういうときはこっちから仕掛けるに限る」
そう言うと、悪魔は左手に黒い塊の炎をつくりだしていた。
N人間を倒す時に使った技だろう。
これは御愁傷様…
「やつは強い、この程度で終わるかわからない、気を抜くなよ」
悪魔は黒い塊をレーザーのようにとばした。
その風圧でまた吹き飛びそうになったが、何とかこらえた。
ドーーーン!!
高い爆音が鳴り響く。
「完全命中だ…さて、どうなる」
ゴクリと生唾を飲んでしまう。
あれをくらって生きているなんて尋常じゃない。
「おほほほほほほほほほおおおお!!痛いじゃないか!!!出て来い!!!」
魔王がとても高い声で叫び出した。
「…大した生命力だ、参るな…」
「尋常じゃないですね、あれをどう倒せば…」
「少し全力でいくしかないが、この身体ではどうにも力がでん」
あれで力が出ない?冗談じゃない。
というか魔王の生命力は底なしか…未だに叫び続けていた。
妹がそろそろ心配になってきた。
「…その身体が本体ではないのですか?」
「俺の本体は自身でもどこにあるかわからない、これは分身のようなものだ」
「…1000年前、残った微かな魔力でつくりだした分身だ」
その言葉で、1000年前の戦いがいかに壮絶だったかを感じた。
…悪魔が魔力をほとんど無くすほどとは、今では考えられなかった。
「……あれをくらって生きているとは考えられないんだがな」
「もしかすると、あれが本体ではないのでは?」
「どういうことだよ?確実に実体があるし、ダメージもおってるんじゃ…」
「十分考えられるな、幻術ではないが…あやつり人形にしか見えん」
煙がはれてきて、魔王の姿が完全に見えた。
「…見ろ、肩の負傷具合、腹のえぐれ…あれで動けるとは思えん」
すさまじい程の傷が魔王にはついていた。
「…わかりました!あれは何者かが裏からあやつっているのではありません!」
「何かの術ということは確かですが、どこかに本体があるのは確かです」
「おそらく本体から魔力を持続的に送りこんで扱っているのでしょう」
「…それなら合点がいくな」
「ほぼ不死の肉体、それに姿が変わりすぎている…」
なら、本体を探せばいいのか。
そう思って辺りを見回すが、当然いなかった。
「よくもこの…!魔王をなめるな!!」
魔王はまた口に炎を溜めこんでいた。
「……まずいですね、本体を探しつづ逃げますか」
「…そうだな、極力相殺するのは避けたいことだ」
「相手の魔力が尽きるのを待つのも一興だが、本体を叩くほうが楽だ」
「よし、じゃ本体探しってことで…!俺は怖いから逃げる!」
レーザーにあたってたまるか。
そう思って必死に走りだした。
しかし俺は本体探しよりも、妹探しがメインだった。
「死ねよ!!」
レーザーが放たれたようだ。
音でわかる、風を切って進んでいる。
少し振り向くと、確実に俺に命中するコースだった。
「…あれ?ひょっとしてやばい?…」
「自分で相殺しろ、お前は力の温存を考えなくていい!…とのことです!」
術師が大声で叫んできた、冗談じゃない!
「だから戦いって嫌いなんだよ…どこまで弾けるか」
俺は8割ほどの力をリングに送り込んだ。
それぐらいはしないと確実に死ぬからだ。
レーザーが高速で向かってくる。
もう後1秒でつくだろう。
「なるようになれって!!」
全力で炎の壁をつくった。
ドオオオオオオオオ!!
と音がしていたが、炎の壁は持ちこたえていた。
しかし、後何秒持つかというところだった。
残った力で炎の翼をつくり、上空へ飛んだ。
「ここなら…さて、本体はどこだろ」
本体探しゲーム、といえば聞こえはいいだろう。
これから、本体探しが始まる。