第二十五章 術師
「まずは腕試しといきましょうか…」
術師はそう言って、幻術で槍をつくった。
「くそっ!とりあえず街から離れよう!」
「それは無理だ、相手は相当の術師だからな」
術師は俺のほうに向かって走り出していた。
「術師だから!?関係ねぇって!この街が壊れたら…!」
「幻術で街を構築されてみろ、出るのに何時間かかるかわからん」
そう言って、悪魔は天叢雲剣になった。
「仕方ねぇ…!」
俺は天叢雲剣をとり、術師を迎え撃とうとした。
「面白い能力だ、幻術ではないですね…変化できるとは」
「凪、少し下がってろ!」
天叢雲剣に炎を纏わせた。
紅色の炎が輝かしく光をはなっていた。
相手の槍には、紫色の炎が纏われていた。
「うらっ!!」
術師が槍でついてきたので、少し右にかわして剣を振りかざした。
「なかなかいい動きができるじゃないですか…クク」
術師は槍の先端で剣を横から薙ぎ払い、俺を槍で何度もさそうとしてきた。
「くそっ…幻術使いでここまで戦えるのかよ…!」
かわすのがギリギリ、劣勢だった。
「…このままじゃらちがあきませんね…本来の戦い方をさせてもらいますよ」
術師はそう言って、半歩後ろに下がりリングに炎を込めていた。
(…まずいな、幻術を使われる前にやれ)
わかってるっての、と言いたかったが
一も二もなく斬りかかった。
俺の剣は見事に術師を頭上から斬った。
(…!リングの炎をあたりにまき散らせ!)
「残念…もはや貴方は幻術の中…霧の中で惑うだけ」
俺の周りには霧しかみえなかった。
3m先も見えなかった。
「趣味悪ぃ…!!」
(リングの炎で相手の位置を探りながら動け、焦ると勝機は無い)
「おそらくリングの炎で探知しようとしているのでしょうが…」
「無駄です!私の分身は10体を超えますから…クク」
(…まずいな、今の言葉が本当なら既に勝機は無い)
10体なんてありえるのか、脳でそこまで処理できるのか。
このままでは本当に勝ち目が無い。
「安心して下さい、痛みを与える暇もなく…」
「そろそろまざっていい?」
妹の声がした。
…今思うと、俺と悪魔には確かに幻術がかかった。
しかし後ろに下がっていた妹にはおそらく幻術はかかっていなかった。
「な…女を相手にするのは趣味じゃないのですが…」
「大丈夫だよー、どんな幻術かけてるかわからないけど…」
「幻術を消させてもらうらだけだよ?」
そう言うと、何か音がきこえた。
「!!何だこのツタは…!?くそ…!」
「きっとそのリングを外せば、幻術を使えなくなるでしょ?」
(過去に戦闘についての知識を教えておいてよかったようだ)
カラカラン、そう音がなると、幻術の霧がなくなった。
その時に悪魔は言った。
「…そのリング、やはりお前は……」
「!!…私を知っているのですか…」
「まさかこのような無駄な戦闘で会えるとはな」
話が見えなかった。
戦いは終わりなのだろうか、悪魔が天叢雲剣から戻った。
「あいにく、私には悪魔の知り合い等居ないのですが…クク」
「お前、そのリングは誰から受け継いだ?」
「…なぜ受け継いだことを…!」
「これは…代々我が家に伝わる、死の指輪」
「かつて、地獄から持ち帰った伝説のリングをきいていますが…」
悪魔と術師の会話をきいても何一つ意味がわからなかった。
しかし、妹は何か気付いたようだった。目が笑っている。
「…お前が、選ばれし者だな、名前は何という?」
これはたまげた。
さっきからの会話が繋がったような気がした。
驚きすぎて声が出なかった。
「選ばれし者…?クク、知りませんね、それに名乗るつもりもない!」
そう言って術師はリングをとろうとした。
しかし、悪魔がリングを先に奪い取った。
「名乗れば返す、俺はお前の名が知りたいだけだ」
「…!悪魔は噂通り汚いようだ…クク」
「……ですが、私には名前が無いのです、答えようもない」
「知っている、しかし代々…デーモンという名前を受け継いでるだろう?」
デーモン…?悪魔の名前だと思った。
「よく御存知で…つけられた異名のようなものでしょうが」
「お前、俺達と一緒にこい、お前は選ばれし者だ」
「断ります、まったく意味が解らないですから」
「…俺はずっと術師が嫌いだ、嘘しか吹かんように思えるからな」
「……?」
「何故俺達を襲った?力量をはかるのが目的なんだろう?…これから旅を共にする仲間の」
「選ばれし者だと教えられてきたのだろう、おそらく代々…」
「……何を隠しきろうとも無駄なようですね、その通り…です」
「ちょっと待ってよ」
妹だった。ずっと静かにきいていたのに。
「この人は私達を殺すつもりでいたんでしょ?」
「…死んだら死んだで、その程度の者だったということです」
「てめぇ…人情がないのかよ…」
「選ばれし者の使命はそれほど重たいものなのです」
「決まりだ、旅を共にしてもらう」
嫌だったが、仕方がなかった。
…使命のためなんだと割り切った。
悪魔は術師…デーモンにリングを返した。
「ではこれから宜しくお願いします」
術師はそう言って笑ってみせた。
「っちぇ…とりあえず疲れたから野宿する場所を…」
「…わかった、よろしくね」
「もうすぐ森があります、生物はいないので安全です、そこで野宿しましょう」
「さっさと歩くぞ、もうほとんど暗闇になるころだ」
新たな選ばれし者、デーモンを仲間にし
また冒険が始まる。