第十九章 帰還
目を覚ますと、あの教会に居た。
「目覚めたか、良くやったな…といっても魔王には逃げられたようだが」
悪魔と、妹、そして黒騎士が居た。
「貴様が魔王を倒したおかげで戦争は終了した、礼を言う」
「いてて…いいよ、礼なんて合わない、それより魔王に逃げられたって…?」
「相手も流石に魔王なだけある、あの時死の指輪の幻覚で斬撃をそらした」
そういえば、幻覚に実体があるようなのは何故なのだろう。
気になっていると、悪魔は察したのか話をしだした。
「有幻覚といって、炎を極度に高めてつくりだした幻覚にはほぼ実体といっていい」
…妹もあの時、幻覚を使っていた。
最近気付いたことがある。
人は死の危険に遭遇すると、信じられない程の力を発揮する、と…
「ともかく良くやってくれた、魔王は別世界へ逃げたようだ、完全勝利とは言えないが…」
また、魔王がくるかもしれない、そんなことを気にするより
現世に帰れるかどうかを気にしていた。
「…地図を見て、お兄、きっと次の大陸が記されているはずだよ」
地図は悪魔が持っていた。悪魔は地図を差し出した。
「…そのとおりのようだ、鍵は…この世界の魔王を追いやることだったようだ」
「じゃあ、現世に戻れるのか!?…時間が気になるんだ」
「こっちに来て5日はたったか…現世では5時間ほどたっているはずだ」
ということは、大体現世では今、夜の直前といったところか…
「ともかく、戻るか、地図に手をかざして戻りたいと念じろ」
「少し待つが良い」
オルデスト帝国の魔王だった。
魔王は黒いフードを被り、黒いマントをしていた。
「良くやってくれた、選ばれし者達」
「…どうも」
俺はこの魔王が何者かまったく知らなかった。
…警戒している、といっても過言ではない。
「……これからの旅で、いつ役にたつかはわからんが、これを持っていくが良い」
そういって、魔王はリングのようなものを投げてきた。
「これは何のリングなんだ…?」
紫色の石が埋め込まれたリングだった。
「それは…!魔王様!いくらなんでもこのリングは…!!」
黒騎士が戸惑っていた。それほど危険なリングなのだろうか。
「…これは、幻覚を作り出すリングに似ているが…死の指輪ではないな」
悪魔も知らないようだった。妹はただきょとんとしていた。
「このリングは代々1000年間、前魔王…つまり我の父上から受けついたものだ」
とんでもない、そんなに貴重なリングをいただいていいものなのか。
「そのリングは、地獄の指輪と呼ばれているものだ」
「魔王様…!!このリングははやすぎます!!」
「案ずることはない、選ばれし者へ受け継がせることが我が使命だと思ったまでだ」
地獄の指輪…一体、どんな効果なのだろうか。
「そのリングの力は、死の指輪と似たようなものだ」
…それならこんなリングがある必要が無い、きっと何か他に理由があると考えた。
「相手の五感を狂わせることができる、もちろん幻術や幻聴も」
「なるほどな、リングが強すぎて自分まで狂うことがあるんだな?」
魔王は悪魔のほうを見た。察しが良いとでも言いたいのだろうか。
「…その通りだ、故に自身が傷つくこともある、とても危険だ」
何でそんなリングを渡すんだ!とでも言いたかった。
しかし喋り辛い雰囲気だった。
「己に飲まれるな、飲まれたら飲みかえせ、それを肝にめいじておけ」
「…リングの中には太古の大魔王の精神が宿っているというからな」
「その魔王に飲まれる可能性があるということか」
「まぁ…貴様が居れば大丈夫だろう、カオス、選ばれし者を頼むぞ…」
そうして、数十分の会話がすみ、俺達は現世に帰った。
――――自室だった。
時間は夕刻、五時過ぎ。
「では俺は一旦別世界へ戻る、しっかり身体を休めておけ」
そういって悪魔はすぐに消えた。
「お兄、私疲れたから寝てくるね…また、夜にはなそ?」
そういって、妹もすぐに自室へ戻っていったようだった。
俺は、現世へ帰ってきてもどうにも胸騒ぎが止まらなかった。
「…寝るか、とりあえず」
俺はすぐにベッドに寝ころんだ。
疲れているから、すぐに眠れるだろう。
俺は、すぐに胸騒ぎの答えを知ることになる。
すぐに後悔と絶望が訪れるとは考えてもいなかった。