第十七章 魔王ゼノン登場
「第三軍、第二軍に続け!」
「あれが、敵の大将、黒騎士だ!あいつを狙え!」
戦いは、止むことを知らない。
俺は少しずつ敵をかわして前へ前へと出ていった。
「ゼノン帝国まで、ずっと前進しろ」
それだけを言い残して、悪魔は空をとんでいった。
「我が援護する、気にせず突っ走るのだ!」
黒騎士はそう言ったが、敵の数が多いが故に
とても身動きがとれないといった様子だった。
俺もほとんど身動きがとれなかった。
相手の攻撃をかわすことと、戦況を見定めることで精一杯だった。
「お兄、空をとぶよ」
「は…?何言ってんだ?んなことできたら苦労しねぇよ…っ!」
会話する暇すらほとんどなかった。
相手軍の攻撃は止まない。黒騎士の軍も頑張ってはいるが
人っ子一人を庇う余裕があるわけではなかった。
「大丈夫、リングの炎を利用すればとべるよ?」
妹は余裕気だった。
「そんな方法教えられる暇もなかったっての!」
妹はなぜ相手の攻撃をくらわないのか。
その疑問は後回しにしようと思った。
俺には今、天叢雲剣がない。
大したコントロールができないのに、炎を使うわけにもいかなかった。
「地面に向かって、思いっきり炎をだすの!やってみて?」
このままじゃキリがない。言われた通りに…
大量の炎をイメージし、リングに炎を灯す。
「翼をつくって、炎で!」
悪魔より説明が下手な妹だと思ったが、イメージしようと心がけた。
その時、とっさに悪魔の翼を思い出した。
大きな漆黒の翼、それをイメージした。
ドッ!と音をたて、自分の身体が宙に浮いたように感じた。
いや、実際に少しずつ浮いていった。
自分の背中をみようと心がけると、肩下から紅色の炎の翼がはえていた。
「お兄、空へとぶイメージをずっと続けて、リングに炎を送り込みながら!」
予想外に難しかった。
移動はままならなかった。しかし少しずつ慣れるのを実感していった。
「もう空へとぶ術を覚えるとはな、幸運を祈る!選ばれし者達よ」
黒騎士の見送り言葉をきいたところで、妹もリングに炎を灯し翼をつくりだした。
妹の翼は、黄緑色より少し黒い色をしていた。口ではあらわせなかった。
「はやく、ゼノン帝国へいこ?」
そういって、妹はさっさととんでいった。
俺もぎこちないながらに少しずつとんでいった。
しばらくして、ゼノン帝国の領土とおもわれるところについた。
とても大きな城が見えていた。漆黒の城だった。気味が悪い。
「遅かったな」
あの悪魔だった。
「…よく言えるぜ、空をとぶ方法まであっただなんて」
つい皮肉がでてしまった。
「教えると時間をくうと思ったからな、お前の妹も知っていたからほうっておいた」
本当に冷酷なやつだ。しかし、なぜか恨めはしなかった。
「あの城が、ゼノン城…?」
そびえたつ漆黒の城をみて妹が言った。
…あの城は相当な大きさだ、東京タワーより大きかった。
「いくぞ、魔王はすぐだ、戦争を終わらせるためにも魔王を討つ」
「ああ、急ごう…」
俺は、現世で今何日で何時なのかが気になっていた。
何日も家を兄妹であけるだなんて、親になんて言い訳をすればいいかわからなかった。
「その必要はない」
「!?誰だ…こいつ?」
目の前に、いきなり黒いマントを被った者があらわれた。
なぜか、空気が重たく感じた。
黒いマントの男から殺気が感じられた。
「ようこそ、選ばれし者達、それに…」
ここで俺は言葉を遮って言った。
「誰だ…お前は!なぜ俺達のことを知ってるんだ…?」
その時、悪魔は確かにこう言った。
――――あれは、魔王ゼノンだ。と…
「さすが、悪魔神カオス、お目が高いようだ、ふふふ」
「あれが…魔王…!?」
俺は恐怖を覚えた、冷たい声。死者のような動き。
「俺の事を知っているのか、ならばお前はここで倒されることを理解しているということだな」
悪魔神カオス、どういう意味なのだろうか、悪魔で…神?
――――死の息吹
黒いマントに覆われた顔の男が、そう言った。
「リングの炎で防御しろ!この息にふれるな…死ぬぞ!」
その瞬間、妹がリングに炎を灯した。
一瞬ににて、俺と妹はほぼ透明なバリアに覆われた。
「フン、何故効果を知っておるのかしらんが、つまらんな」
「バリアを維持しつつ攻撃しろ、やつは強い…心してかかれ」
悪魔は息にふれても大丈夫なようだった。
…いや、悪魔の半径2cmほど周辺には、息がとどいていなかった。
「内側からならバリアを無視して攻撃できるから、お兄お願いね?」
まだ未完成だが、仕方ない。
リングを使っての戦闘をしようと考えた。
「じゃあ、戦おうじゃないか、ふふふ」
――――死の剣
魔王ゼノンは、黒刀のようなものに、ドス黒い炎を宿した。
俺はリングに炎を込めた。
「俺は、お前に勝って現世に帰る!」
魔王ゼノンとの戦いが、始まる。