天音=1
主人公が黒を認識するまでの話です。
姉の癌がわかったのは、私が32歳の時だった。
子宮頸癌。ステージ3b。
すでに骨盤腔内への浸潤があるかなり大きな癌だった。
子宮頸癌は、初期ならば完治することができる。だが、ステージ3となると初期ではない。手術適応で完治する可能性は低い。
癌を小さくするために抗がん剤を使用。小さくなった時点で手術。手術後はまた抗がん剤を使用した治療となる。
手術で子宮を全摘した彼女は結婚を諦めた。
彼氏がいたのは知っている。だが、子供が望めなくなった姉は彼氏と別れた。
二人はとても幸せそうだった。
それなのに、子供が産めないと知って二人は別れた。
正直、私がショックだった。
子供が産めないことで別れる人は多いだろう。それは本能だからきっと仕方ないこと。それでも、二人が本当に仲良く、幸せそうだったから。
子宮をとって、ホルモン療法と抗がん剤治療。がん検診と1年間は姉は元気だった。
「奏空のおかげね」
「私は何も。姉さんが頑張ったからだよ」
姉さんは手術前に死んでしまうのではないかと心配だった。
それは、私が看護師で妙な体験をすることがあったからだ。
昔、小さい頃は勘がよかったくらいだった。大きくなってからはそれもなかったのに。
時折私にはこの人はもうすぐ死ぬなとわかることがあった。
患者の傍に黒い何かがいるのだ。その黒い何かをみつけると、その患者は1週間以内に亡くなる。
そんな黒い何かを私は何度か病院で見かけていた。
1週間の間にその黒いものは大きくなり、患者に近づく。そして黒い何かに覆われるとその人は死ぬのだ。
私はその黒い何かに恐怖心を抱いていた。
姉の手術が1週間後に決まったその日に黒い何かを姉の傍でみた。でも、手術が成功して姉の傍からその黒い何かは消えた。
私はその黒い何かは死神なのではないかと考えるようになっていた。
俗に言うお迎えが来るのだと。
「奏空、楽しいね!」
「うん。よかった」
姉の好きなテーマパークで遊び、ホテルでのんびり過ごす。本当に元気になった。
楽しそうな姉の顔に嬉しくなる。
「天音姉さん、元気になったね」
「うん!」
本当によかった。
心から楽しそうにしている姉に私も自然と笑みが溢れる。
このまま姉さんが元気に楽しく暮らしていける。病気は治ったのだと思っていた。走ったり、アトラクションを楽しむ姉さんは病気をしていたようにみえない。
私自身は結婚を考えていない。姉さんも結婚を諦めているから姉妹2人での老後も悪くないかもしれない。
ただ、姉さんに縁があればそれはそれで嬉しい。
私は職業柄それなりに収入がある。姉さん1人くらいなら養える程度の給料はもらえていると思う。
家事だけでもいいし、パートくらいでも全然構わない。
姉さんが元気に楽しく暮らせるならそれもいい。
そう思っていた。
色々矛盾があるかもしれませんがご容赦ください。
まだしばらく続きます。