プロローグ
導入部分です。
大丈夫。
だから…泣かないで。
どうしてだろう。なんでこの子が泣いているんだろう。
もう、何人も送ってきた。看取ってきた。
二人で。
私の最期は約束通り独り。
いや…彼が看取ってくれている。
「有栖さん!」
看護師さんの声がする。お世話になったな。
ああ、でもこの人がいたら約束は守れない。
ごめんね、黒。
「奏空。頑張ったな」
涙を溜めて、冷たい手で私の手を握る彼。
でも、彼は私にしか視えない。
私と一緒に日々を過ごしてきた死神だ。
大丈夫よ。約束は守れないかもしれないけど。それでも私は貴方との約束は守りたい。
身内は遠方。私には夫も子供もいない。死んだら報せるようにこの病院には話している。ずっと独身のせいか、お金はあった。
死んだあとのことしか心配はない。
この死神…この子が私の家族だった。
黒…、私ね、こんな人生も悪くなかったって思ってるの
。
私は貴方と過ごせて楽しかった。
色々な人の死を見てきて、1度も泣いたことのない彼の涙に新鮮さを感じ、つい笑ってしまう。
看護師の声が遠くなる。
私、死ぬのね。
黒に看取られるなら悪くない。
私は彼が好きだった。
長く一緒にいたからか、様々な表情を見たからか、それとも生きた人ではない彼が人らしさを見せてくれたからだろうか。
いや、私は寂しかったのだ。このまま独りは寂しかった。彼が傍にいてくれたのが嬉しかった。
だから彼を好きになるのは必然だった。
50歳。年をとった。
でも、意外に早かった。
癌で死ぬのはわかっていた。癌家系だしね。
ただ、早かったな。
80とかよぼよぼのおばあちゃんになって死ぬと思っていたし、もしかしたら寿命で死ぬのでは?老衰とか理想的だと思っていたのに。
まあ、幸いといえば幸いか。
最期まで身体は動いたし、身内も若い。死んでからのことは誰かがなんとかしてくれるだろう。
「奏空」
黒の声がした。
私が最期にきいた声は黒の聞き慣れた声だった。
私と黒は15年の付き合いだ。
小さな頃から視えない何かを感じることがあった。大人になるにつれ、それもなくなり、平凡な生活を送っていた。
看護師になったのは生きていくため。
人の死に立ち会うことが増え、死ぬ間際の人の傍に黒い何かがいることに気づいたのはいつだったか。
それが死神であること、はっきり視えるようになったのは姉が死んだあの日からだった。
その日から私と黒の不思議な関係が始まったのだ。
登場人物の詳細は書いたほうがいいのか迷っています。
ごちゃごちゃしてきたら書こうかなっと思っています。
読んでいただきありがとうございます。
まだ続きます。
不定期更新になります