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クラスメートの恋愛を見守る壁になりたい

作者: 鳥籠ちゃん

 はーっと息を吐くともう白くなっていた。

 親が良く歌ってる「白い季節」、つまり冬が違づいているんだなーなんて考えながら通学路を歩く。

 うちの高校は8時45分に朝のSHRショートホームルームが始まるため、大体の人は8時ちょっと過ぎ、少数の市外からくる電車・バス組が7時半過ぎくらいに到着する、らしい。私はいつも8時ちょっと過ぎに着く。

 そんな中、今私は7時到着を目指して歩いている。

 どうしてか。

 特に深い意味なんてない。なんとなく、目が覚めてしまったからだ。


「朝の空気も美味しいなー」


 なんて独り言。昔から独り言が多い性格だった。というよりもいつも頭の中でぐるぐると考え事している。それを口に出すかどうかの違いしかないのだ。


「ん-、にしてもこの時間ということは、もしかして1番乗りじゃないかなぁ!」


 と心をうきうきさせながら学校に入る。

 そして玄関に入ったところで―――


「ん、あれぇ?」

 

 その予想とは裏腹に、うちのクラスの下駄箱には靴が2人分既に置いてあった。


「この場所は天崎くんと、斎賀さん?」


 天崎くんは委員長をしている男の人で成績が良く、話をまとめたりするのが得意。テストの学年順位1番。

 斎賀さんは所謂才色兼備というもので、美人で成績もいい。でも、人付き合いはあまりなく、いつも1人で本を読んでいる。学年順位2番。

 はっきりと言葉にしていたことはないが、傍から見るとライバル関係。数学の授業で回答を求められたら真っ先に二人が手を上げ、同じ答えを別の方法で解いてることがよくある。

 まともに2人が話をしているところを見たことがない。


「まぁ、成績優秀な二人なら朝早くから勉強でもしてるのかー」


 なんて軽い気持ちで教室の前に来たら、


「だから、ここの方程式はだなー」

「うるさいわね、分かってるわよ。でもこっちの方法を使った方が効率がいいでしょ!」

「む、確かに。授業で習ったものとは違うがこの解き方も悪くないな」

「でしょ!?頭固いんだから、もっと柔軟に対応なさいな」


 仲良く話し合ってる2人の声が聞こえた。

 …あれ?


―――――――――――――――――――


 少しの間様子を見てしまっていたが、2人は仲良く勉強を教え合っていた。

 そして、バス・電車組が校門に辿り着いた音を察知して2人は自分の席に着き、あたかも「僕たち私たちは一人で勉強していただけですよ」という態度になったので一度トイレに逃げ込んで、みんなが教室に入ってくるのを待った。


「うーーーん、あれは」


 つまり、そういうこと、なのかなぁ。

 

「なんだかびっくりだなぁ」


 自分があんまり、恋愛というものに無頓着(というより2次元に生きてる)なので、どういう気持ちなのかなーって思う。

 いや、まだ本当にそういう関係か、なんて分からないけど。

 でも、これまでの知識(小説や漫画)から、あれは付き合っているか、付き合う手前の段階だろうと予想が出来る。

 二人しかいない教室でわざわざ朝早くから、2人きりで勉強。人が来たら離れ、人前では話すことすらせず。

 これはもう、確実だな。


「あーーー、なんかいいなぁーーー青春かーーー」


 私は自分の恋愛には無頓着だが、他人の恋愛を見るのはとても好きなのであった。



―――――――――――――――――――


 それからというものの。


 毎日、と言いたいところだが私は毎日は早起きなんてできないので、毎週月曜日と水曜日だけ7時頃に学校に行くことにした。

 そこで30分程度教室にいる2人の様子を確認。新たに人が来る前に部室―――漫画研究会の部室―――に行き、本を読んで時間を潰す。

 最初は偶然、天崎君と斎賀さんが居合わせた可能性も考えたけど。

 毎週毎週来てみるといつも一緒にいるってことは…そういうことだよね!

 他人事なのにウキウキしちゃうなーーー!


「でもこれってなんだかストーカーみたいなのでは…?」


 と自分を客観視したけど、「いやいや、私はモブキャラ、壁と同じ、だから大丈夫」と自己完結したので何も問題はない。ないのです。

 言わば私は視聴者、もしくは読者。だから大丈夫。


「でもまさか、お弁当も斎賀さんの手作りだったとは―――」


 朝から見ていると、偶に斎賀さんがお弁当を渡している場面に出くわす。毎日作っているのか、たまにしか作ってないのかは分からないけど。

 流石にお昼は一緒に食べてないみたいだけど。(中身が一緒なのか見てみたいなー)


「みんなが知らない秘密を知ってしまっているの、ちょっと楽しいかもしれない!」


 少しだけ趣味が悪いかもしれないが、悦に浸ってしまっていた。



―――――――――――――――――――


 この2人、互いに所謂「ツンデレ」に分類されるんだろうなと思った。


「別に、僕が行きたいわけじゃないんだが、妹から映画のチケットを貰ってだな、勿体ないから一緒に見に行かないか?」

「え、えぇ、妹さんから貰ったなら仕方ないわね、勿体ないから、見に行きましょうか」


 なんていうデートの誘い方してたり、


「この本、とても面白いものだったわよ。貴方も教養を身に着けるためにご覧になっては?」

「ふむ、教養を身に着ける、ね。僕の方が成績は高いはずだが?」

「確かに、総合的にはそうかもしれませんけどね。現代文に関しては私の方が点数が高かったでしょう?」

「そこを突かれると痛いな。分った。読ませてもらおうかな」


 本を貸すのにわざわざ嫌味を含んだり、


「これ、どうぞ」

「ん?あぁ、なんだ?」

「誕生日でしょうに、今日は。自分のお誕生日すらお忘れかしら?」

「い、いや。誕生日は覚えているが。だからとどうしてプレゼントを?」

「―――!べ、別に、深い意味なんてないわよ!」


 誕生日プレゼントを渡すのに照れ混じりだったり。


 イチャコラしてますなー。もっと素直になればいいのに。

 そのくせ時折当然だと思ってやってることが「あなたが好きです」と好意を持ってることを含んでいたり。

 いいもの見せてもらってるなー。

 ちなみに、未だに二人は人前だと会話をしない。あれから何か月この状態なのかなー。

 私が初めて見てからでももう半年経ってるよー。いやいや。仲良しだなぁ。


 そして冬休みに入る前のこと。


「なぁ、斎賀。少しその、話があるんだが」

「わざわざ前置きを置くなんて珍しいわね。どうかしたのかしら?」

「あの、そのだな、斎賀。僕はお前のことが、好き、なんだ」

「なっ!」


 えっ!


「だからその、僕の、彼女になって、くれないだろうか?」


 告白のシーンを見てしまった。

 思わず声に出しそうになるのを我慢した。


 いやいやいや、というより、いや、その。


「まだ、付き合ってなかったんだなぁ」


 流石に半年もいちゃこらしていたので付き合っていると思っていたのだけれども。

 へぇーーー、今なのかーーー。


「あ、えと、天崎、くん?」


 これ以上見るのは無粋なので、逃げるように部室へと向かった。


―――――――――――――――――――


 それから先も、彼らは人前で話すことはなかった。

 私はあの日以来、覗き見るのをやめた。

 結局付き合ってるのかどうか、その答えを知ることはなかった。


 そして冬休みに入り、家族や友人と一緒に時間を過ごした。

 冬休みが終わる前に残っていた宿題をこなして、休み明けテストの勉強をする。


 冬休みが終わり、学校に登校した私はつい微笑んでしまった。


 天崎くんと斎賀さんが同じブレスレットを付けていたからだ。

 人に気付かれないよう、ふふっと笑ってしまった。

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