第5話 入学式
「私が、入学式で代表の挨拶ですか……」
現在私は星河高校が所有している大講堂にいる。既に入学式の会場は整っており、綺麗だ。
そして、私の目の前には眼鏡をかけた40代ぐらいの先生がいた。
怒られるわけでもなく、まさか挨拶をされてほしいと言われるとは、思ってもみなかったなぁ。
けど、新入生代表の挨拶は事前には言われていない、今初めて知った。
「あのーー私、聞いていないのですが?」
「実はね、本当は首席の子にやってもらう予定だったんだが、その子が腹痛を起こして欠席してしまったんだ」
まじかよ。当日に休みとは、お大事にしてください。
しかし、そしたらなぜ私がという疑問が出てくる。
「えっと……事情は分かりました。でも、どうして私なんですか?」
「それはだね……元々首席はその子と長嶺さん君達2人だったんだ。だから急遽長嶺さんを代役としてするのはどうだろうかという案がさっきでてね」
ええ……いや、ええ……
まぁ経緯はわかって良かった。なるほどなるほど。
それは仕方ないなぁ。
でもね……。
超断りたい。
だってね、全校生徒約1000人が見る中でステージに上がって、挨拶をする。絶対目立つ。
全校生徒に名前と顔が知られてしまう。それはなんとか避けたい。
入学式の時に名前を呼ばれて返事をするだけならたったの一瞬だ。けど挨拶は無理。それと、私って首席だったんだ、それも今初めて知ったよ。
「急で申し訳ないと思っている。でも、安心してくれ、上がってただ文を読むだけだから」
その上がる行為が嫌なんです。申し訳ないけど、力不足だと言って断らせてもらおう。
「ごめんなさい、私では力不足だと思いますので」
時間も少ないし、重要な挨拶だと思うが、目立ってしまうのは、嫌なので。勘弁してください。
「いや、そんな事はない。長嶺さんの立ち振る舞いは完璧だと思う。謙遜はよしてくれたまえ」
いやぁこの状況においては謙遜しますよ。あとそれ全部演技ですからね。
「本当に頼む」
先生は頭を下げてまでお願いしてくる。
どうする?どうしたら良い?
こんなに真剣にお願いされて。
ああ、親がもう入場して席に着き始めている。みんな我が子はまだかと待ち侘びているのかソワソワしている。そうだよな大切な子供の入学式だよな、それを私の我が儘で台無しにしてしまって良いのだろうか?
罪悪感がどんどん降り積もっていく。
「や……」
「や?」
「やらせていただきます」
やっぱり負けました。こういう場面本当に嫌い。
「そうか、本当にありがとう。時間がないから簡単に説明させてもらうね」
「はい」
まぁもしかしたら校長先生の話とかで寝ちゃっている生徒もいるかもしれないし、そこまで大事にならず目立つこともないだろう。
――やっぱりこういうのってフラグっぽいな。
その後私は新入生代表として、ステージに上がり挨拶をした。
生徒達は全員明後日の方向を見て、誰も私に注目などしていなぁ。まぁそんなこと無く。
全員私の方向を見て、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。
その中には母さんも混じっている。帰ったら説明しよう。
特に問題なく入学式が終わり、私は先生達に感謝され、生徒達より遅く教室に戻る。
ドアを開けて、中に入ろうとする。すると、一気に視線は私に集まった。
「あの子って代表の子だよね、生で見たらとっても綺麗」
「あんな子今日の朝いた?俺、気づかなかったわ」
「あんな美人なのに、勉強できるとか凄すぎでしょ」
会話は全部、私の話題で持ちきりだった。
心を癒す為、西園さんと顔を合わせると、西園さんは親指を立てて笑顔で返してくる。
ちょっと癒された、ありがとう西園さん。
最初この教室に入る前は目立たないように生きると誓ったのに、今教室に入ると視線は私に集まっている。
「やっちまったなぁ」
今の言葉は女じゃなくて、男だったな。気をつけないと。気を抜くと戻ってしまう。やっぱり偽物だな。
お願いだから誰にも聞かれてない事を祈る。
にしても、これからどうしょう。