第3話 初めの一歩
私はあの日に起こった事を思い出しながら、自分の集合場所である、1年C組に向かっていた。
私は今校門を潜り抜け真っ直ぐに進んでいる。この先に下駄箱があり、そこで上履きに履き替えて、近くに階段で4階へと上がれば教室に着くはずである。
結構な労働だと思う。
「ねぇねぇ、美月入学式の看板前で写真撮りましょうよ!」
「お母さん、恥ずかしいってばもうちょい抑えて」
下駄箱前に来たあたりで娘さんとお母さんだろうか、こっちまで聞こえるぐらいの声で揉めていた。制服からして私と同じ新入生だろう。
星河高校はネクタイの色で学年が分かるようになっている。
1年が赤、2年が青、3年が緑である。さっきの子は赤色のネクタイをしていた。
にしてもさっきの子、こっからでも分かるぐらいに美人だったな。
私が美しい系なら、あっちは多分可愛い系だと思う。
私はそんな事を考えながら、下駄箱で上履きに履き替えた。
「お母さんかぁ」
私にもお母さんとは色々あったと思う。頭の中で昔の映像がフラッシュバックしてきた。
『だから、俺は長嶺心だってば、こんな姿になってしまったけど……』
『本当に心なの、けど、もしかしたらオレオレ詐欺の可能性だって』
『母さん、どこに直接くるオレオレ詐欺があるのさ。俺は2年A組長嶺心趣味はラノベとアニメ部活はサッカー部、これでどう?』
『本当に心なのね』
『わかってもらえて、何よりです』
――今思えば私のお母さんは結構あっさりと納得してくれたと思う。。逆にお父さんはこの姿になっ事情を説明すると。目玉が飛び出るんじゃないかと思いぐらいに驚いていた。
『とりあえずだ、状況は理解したよ、心が女性になったなんて……』
『父さん、凄い顔してるね』
『ほんと、汗がだらだら流れてきているわね』
『流石になぁ、これを飲み込むには相当な体力が必要だよ』
『とりあえず……病院とかには行きたくないかな……中学校には話をつけてなんとか行きたい……色々と迷惑をかけてしまうけど……』
『心、大丈夫よ、貴方がどんな風になろうとも大事な子供です。いつでも味方だからね』
『父さんもだ、心がどうなろうとも支えてやる』
『……母さん、父さん、本当にありがとう』
階段を上っている暇な間に両親の思い出が沸々と湧き出てくる。
あの日から約2年、私は初めての経験に驚き、戸惑いながらも、完璧なる女をできている思う。 口調もちゃんと女子高生っぽくなっているはずだ。けど、体は女いくらでも心は男であろうと決めている。
4階まで上るいう結構な運動をし、ついに教室まで辿り着いた。
中から聞こえるのは男子と女子の混じり合った笑い声や会話。入学式にも関わらず大賑わいである。
はっきり言って、結構怖い。新しい世界に入り込むことは勇気のいることだ。足が小鹿のように震え、心臓はバクバクと破裂しそうな勢いだ。
私は精神を落ち着かせるため、過去に誓った事を思い出していた。
私の顔と体は人を惹きつけ、魅了する。今ドアの前に立っている状況でも視線を感じる。この約2年間、この見た目のせいで下劣な事に巻き込まれ始めた。
だからこそ、私は高校では普通に目立たず生きてやる。
中学2年の終わりにそう誓った。
「初めの一歩はここから始まる。絶対に普通の高校生活を謳歌する」
私は誰にも聞かれないように小声で宣言した。
「よし」
覚悟は決まった、足も震えていない。
私はドアに手をかけ、扉を開けた。