第2話 くそったれな夢の始まり
2年前の8月
あれは中学二年の夏休み、サッカー部の練習が終わり、帰っているところだった。
この日は大会間近という事で、レギュラーでもないのにきつい練習に参加させられており、体が悲鳴を上げていた。
「疲れたなぁ」
夜の19時俺は駅の近くのバス停で部活バックを肩にかけた状態で、片手にはスマホを持ち、暇を潰しながらバスを待っていた。外はもう暗く月が出ている。
大会が近いからと部活で、夜遅くまで練習の日々。
「モテるからという理由で入るんじゃなかった」
我ながら単純な理由だと落胆する。
「まぁそれでも一年間は続いたし、このまま卒業まで頑張るか」
グゥ〜
「にしてもお腹と喉が限界だ」
部活でのハードな練習で胃袋と喉が緊急事態と訴えていた。
俺はなにか対策できるものはないかとスマホをスボンのポケットにしまい、バックの中を調べていく。
「水筒は部活で飲み終わってしまったし、財布にはジュース一本分のお金しかない……」
なんでこういう時に限ってお金が少ない。普段から節約するべきだった。
「今日はあんまりついてないなぁ」
部活では怒られるし、財布はほとんど空っぽ。
そして一番運がないと思うのは、バス停からそう遠くないところ
左側にある街灯の下。
茶髪のショートカットでエプロン姿の女性と筋肉質で背の高い外国人の方が取っ組み合っていることだ。
「How can I go there?」
と写真を指で挿している外国人に。
「あーい きゃああああんと どぅぅ」
体を大胆に使って何かを伝えようとしているをしている女性。
幸にして俺は学力は良い方だったのでなんとか聞き取れた。
といっても中学英語レベルだけど。
会話を汲み取ると外国人は道を尋ねているようだ。
女性は外国人が何を言っているのかわかっていないのだろう。
半ばヤケクソ状態で英語じゃなくて日本語になっている。
触らぬ神に祟りなし、お願いだから関わりたくない。
「もう埒が明きません、ちょっと待っていてください、今助けを呼びに行きます。」
と大声で宣言をし、女性は耐えきれず助けを求めるようだ。
辺りを見渡して人を探している。
「すいませんーーそこの人」
一体どこの人なのだろうか。
スタスタと女性はこちらに近づいてきた。
「私を助けてくれませんか?」
お引き取り願いたい。
しかし、女性は目尻に涙を浮かべながら両手を合わせて助けを懇願してくる。近くでみると結構な美人だ……
って違う、ここは素直に断ろう。
「お願いします。ちょっとお話を聞くだけですから」
女性はこちらをチラチラと様子を伺うように見てくる。
さっきから会話を聞いていたのだから絶対違う。
それに悪徳商法の勧誘みたいなことされましても。
「本当にお願いします!!」
女性は首がもげるじゃないかと思うぐらいの速度で頭を上下にふる。
もう断りづらくなってきた。
中学英語でいけるのか?
けど、流石にこれは助ける流れな気がする。
「わかりました。」
負けた。まぁこのまま断っても嫌な気分だし、頑張ってみよう!
バス停には俺一人しか居ないため抜けても問題ないし、
スマホで時間を確認すると、ハズがくるまであと20分もあった。
まぁなんとかなるだろう。
俺は女性と一緒に外国人がいる方向に向かって行った。
「さぁ!連れてきました!!!どうぞお話しください!!!」
何故自信満々なのだろうか。
とりあえず自分の分かる範囲内で会話してみよう。
頭の中で英文を組み立てていく。
「ohh……How can I go there」
明らかにため息が混じっていたな。
外国人の言葉と共に挿し出された写真を見てみる。
見覚えがあるな、この建物ってあそこだな。だからこういう時は
「OK I know there Go straight, turn left on the second corner, you can arrive 」
俺は手話を駆使して、英語で説明した。
「oh!!thank you」
英文が出来上がり、外国人は教えた道をウキウキとスキップしながら進んでいった。
それにしても、まさかアニメショップの道を聞かれるとは。
知っていて良かった。おかげでなんとか案内できた。
「ありがとう!!ございます!!」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
女性は頭をこれでもかと下げてお礼を言う。 なんとかなってよかったと俺も安堵していた。
にしても、さっきから気になってはいたが、あの空気じゃ聞けなかったし、今なら聞けるかもしれないな。
「あの—気になっていたのですが、どうしてエプロン姿なのですか?」
なぜバス停付近でエプロンを身につけているのか疑問に思っていた。
すると、女性は「ああ!」と言わんばかりの顔で答えてくれた。
「それはですね、私はここでとある商品を販売しているのからです!」
販売員だからエプロン姿なのか、でもエプロンは関係ないように思える。まぁ女性は疑問に思ってないみたいなのでそういうことにしよう。
「けど、お客さん全然来なくてですね」
確かにここのバス停は滅多に人は来ない。さっきもいたの自分だけだし、駅が近いからといって人が多いとは限らないのだろう。
「大変そうですね、宜しければ商品を見せてもらえませんか?」
女性が何を売っているのかちょっと興味が湧いてきたので見せてもらおう。
「いいですよ。私が売っているのはこちらの商品です!!」
女性はドヤ顔で商品を見せつけてくる。
「こちら、名前はスペシャルドリンクというものです」
女性は商品の名前をでてーンと効果音がつきそうな感じで言ってくる。
にしてもスペシャルドリンクね、まぁ健康になるとかだろう。
「あの……できれば助けてもらってなんなのですが……買って貰うことって……できますでしょうか?」
女性は恐る恐る俺に尋ねてきた。
そういえば俺、喉が渇いていたな。
外国人との英会話ですっかり忘れていた。
確か、ちょうど一本分は買えるお金はあったはずだ。
まぁ何かの縁だし。
「いいですよ、買います」
そういうと女性はパァッと顔が明るくなり、商品を俺に渡す。その代価にちょっどのお金を財布から出し女性の手に置く。
「ありがとうございます。良かったぁ。売れなかったら怒られるところでした」
女性は安堵の表情で言っている。
俺はわからないが社会というのは苦労しかないのだろう。
「大変そうですね」
俺は労いの言葉を女性にかける。
「はい、でも私より大変な人は他にたくさんいますから」
今までのハイテンションなキャラじゃなく、どこかミステリアスな雰囲気でニコリと笑う。
ちょっとゾクっとした。
人は見掛けによらないのだな。
「ところで、スペシャルドリンクの飲んだ時の効果を知りたいのですが……」
当然の疑問である。大体疲労回復とかだろうが一応知りたい。
「いいですけど、バス来てますよ」
「え?」
自分が待っていたバス停の方を見ると、確かにバスが来ていた。
気づかなかったがもう20分経っていたのだ。
「うわ、マジかごめんなさい。それでは」
俺は慌ててドリンクを肩にかけていたバックに適当に突っ込んで、バス停の方向に走っていく。
「効能はラベルにも書いてありますので、そちらでご確認くださーい」
「はーい、ありがとうございまーす」
「いえいえ、どうぞお楽しみください、またどこかでお会いしましょう」
その時見た女性のあの時と同じニコッとした笑顔を俺は忘れられなかった。
バスに乗る事ができ、安心したところで
さっきの出来事は何だったのだろうと思った。
帰ったら夏休みの日記にはあの出来事を書こうと思う。
喉の渇きはまだ残っている。
けど、バスに貼られている飲食禁止の文字を見て、バックから出すのをやめた。
2
「どうしたものだろうか……」
俺は自室で女性販売員から買った、スペシャルドリンクを見て悩んでいた。
「ラベルに書いてあるって言ってたけど、書いてなくね」
360度どこを見渡しても効能が記入されていない。
ただスペシャルドリンクと書かれているだけである。
凄い、怪しさ満点だな……
食事は既に摂り終わっている、喉も潤った。
けどせっかく買ったんだし、このまま放置っていうのも流石に気が引ける。
「まぁ、飲んでみるか」
飲んだ後で何がスペシャルなのか確認してみよう。
ペットボトルのキャップを開けて、恐る恐る口に含んでいく。
不味かったりしたらどうしよう……けど、男は度胸だ。
「いきます」
ごくごくと飲んでいく。
あれ、結構美味しい、美味しいぞ。
俺はもう空になってしまったペットボトルを見つめる。
気づいたら中身がなくなるまで飲んでいた。
「スペシャルだったのは味か」
てっきり疲労回復や長寿になるとかそんなんだと思っていた。
今度友達にもお勧めしよう。
良い物を見つけることができちょっと嬉しい、今日は不幸しかないと思ったが
幸運なこともあった。きっと人を助けたからだな。
「にしても暑いな、エアコン故障でもしたのか?」
エアコンの方を見てみると、普通に稼働していた。
「じゃあどうして、さっきから熱を発している?」
おかしい、おかしすぎるぞ、あとなんか光ってないか。これ
体が輝き、視界が光に呑み込まれていく。
眩しすぎて咄嗟的に目を閉じてしまった。
体内時計で数分が経過した。もうそろそろ目を開けて大丈夫だろう
恐る恐る瞼を開いていく。
俺の体はもう光を発してはいなかった。
さっきのはなんだったのだろう?
頭の中には疑問がたくさんある。
まずは一番大事な体の状態を確認しよう。
「体の変化はな……」
待ってくれ、今の声誰?。聞いた限り俺のではない。
女性の声だ。
「誰かいるのか?」
また、女性の声がする。
けど、今度は俺が今喋ろうした言葉を言っていた。
嫌な予感がする。
俺は慌てて部屋にある鏡で自分の姿を確認する。
そこには、俺じゃない他の誰かが映っていた。
しかも、その人はとんでもない美少女、まるで美しいを擬人化したような人だ。
俺も一度はこんな女性と付き合ってみたい、いやいや、今はそんな事考えている場合じゃない。
鏡には女性しか映っておらず、俺はどこにいってしまったのだろう?
しかも女性は今、俺のしているポーズと同じだ。
試しに右手を上げてみる。すると女性も上げていた。
「まさかな」
俺は足元を見てみる。
そこには見たことのない山があった。
一回首を元に戻して、もう一度見る。やっぱり山。
どうやら間違いではないようだ。
最終確認も兼ねて右手で触ってみる。そこには俺の知らない柔らかい感触が手に伝わってきた。
もう現実逃避はやめにしよう。認めてしまった方が多分楽だ。
俺の脳みそはそう結論づけた。
「なるほど、つまりは女性になってしまったと、はぁこりゃ、困ったね……あった物がなくなって、知らない物が付いている。
よぉし、今年の夏休みの自由研究はこれに決定!」
状況を理解しようとした結果がこれである。
テンションがおかしくなりすぎて、変な感じになってしまった。
段々と冷静になってきたので、軽く頭の中で整理しよう。
俺は元男だったが、今は女性になっている。
原因としては多分あのドリンクが関わっていると見て間違い無いだろう。
落ち着きを取り戻し、物事を理解した。
「ああ、ああ、うぁぁーー!」
俺は気づいたら叫んでいた。この状況を夢だと思いたい。
けど、これは現実なんだと認識した時。
我慢することが出来なかった。
どうしてこんな事に?人を助けた結果がこれか?
「ちょっとどうしたのよ……ってどちら様でしょうか?」
部屋に入ってきたお母さんには俺が誰だかまだわかっていないようだ。当たり前か……
原因はあのドリンク、そしてそれを売っていたあの女。
鏡に映る美少女の顔は、憎しみが溢れ出ていて、どこか悲しそうにしていた。