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運命の相手は自分で探しましょう  作者: ぶくでん
フェザント城大忙し編
93/119

93.むさ苦しい夜

「あれー?殿下何でこっちの部屋にいるんですか?せっかく親父と二人で気を遣ったのに」

「……………。」

「ワッハッハ!殿下もまだまだ青いですなぁ!」

「……………。」

「何言ってんだよ親父。殿下の腹黒さったら想像の上をいくからね」

「ほう?」

「出会って間もないシャロンちゃん…あ、さまを、神業とも言える早さで邸に住まわせてさ。そりゃもう見てるこっちの目が溶けそうなくらいデロデロと……」

「…ディノ、黙れ」


 誰が好き好んで風呂上がりのむさ苦しい男どもと同じ部屋にいたいものか。

 …これは仕方ない。あれ以上は理性が持たない。

 あれ以上は………。

「げ、殿下何頬染めてんですか。気色悪い」

 …コイツは帰ったら減俸にしよう。


「しかし今日は濃い一日でしたな。ディノからあらかたの話は聞いておりましたが、聞くのと見るのでは雲泥の差!姫の美しさも想像を絶するものがありましたが、あの手から繰り出される魔法には、胸を撃ち抜かれる思いでした。これはしっかりお守りせねばと、襟を正した次第です」

 バートならばシャロンを…いや、魔法使いを真っ直ぐな目で見てくれると思っていた。

 バンティングは力のある家なのに、決して権力を欲さない。徹頭徹尾、影の者だ。

 シャロンというよりも、クレインが魔法使いの存在を明らかにしない理由は、結局のところ力の濫用を警戒するからだと思う。

 そう、魔法は本当に素晴らしい。

 夢を……見ることさえ難しい夢を、難なく叶えてくれるから。


「…二人には色々と迷惑をかけたな。今日は助かった」

「何をおっしゃいますか。私は今日が人生で一番楽しい任務でしたぞ!」

「僕もです!それに良かったですね、ライさんが女性で。殿下怒り狂ってましたもんね!」

「嘘をつくな」

「そうでした?まぁ、シャロン様と出会ってからの殿下の護衛は毎日楽しかったですけどね」

「…そうなのか?」

「そうですよ。殿下別人ですもん」

「別人とな?」

「…幸せそうです。主人が幸せそうだと、影としても働き甲斐がありますよ」


 幸せそう…。

 幸せ…か。

「自分には縁遠い言葉だと思っていたけどな」

 そう呟くと、そっくりな顔が目を見合わせている。

「…殿下、不躾なのは重々承知でお尋ねしますが、殿下は国内の貴族の御令嬢と縁付かれるものだとばかり思っておりました。…なぜクレインの姫だったのです?」

 …自分だってそう覚悟はしていた。

 随分逃げ回ったのも事実だが、いつかは国の政治バランス的に丁度良い令嬢を妃に迎えるのだと、そう覚悟して生きてきた。

「…なぜ、と聞かれると、幸運としか言いようがない。偶然と幸運が、あり得ないタイミングで重なった、としか……」

「僕はそうは思いませんね」

 ディノがキッパリと言う。

「…なぜ?」

「殿下が自分で運命を手繰り寄せたんですよ。事実、シャロン様は殿下の前から何度も消えたじゃないですか。殿下が何かを欲しがったことなんて今までなかったでしょ?きっと運命の女神様が、そんな殿下の初めての我儘を聞いてくれたんですよ」

 初めての我儘を聞いてくれた…。


「ディノ、お前言うようになったなぁ!よし、その調子でお前も早く嫁を連れて来い!」

「ええ〜!?もうそればっかり!シャロン様ぐらい可愛い人どこかにいますかねぇ?」

「…は?」

「僕だって結婚するならシャロン様みたいな人が……なんちゃって。僕もう寝ーよおっと。さよなら〜!」

「……………バート、お前、ディノと護衛代われ」

「…頭領の仕事もありますので、専属は無理ですな」

「ったく。アイツは自分が影だってわかってるのか?」

「ははあ。戻りましたら、しかと修行させ直します」


 一体どこで寝るつもりなのか、部屋から消えたディノの背を見送ると、バートが僕の寝具を整え出す。

「…しかし、確かに殿下は変わられた。今日の少年の一件、以前の殿下なら手当てを命じるなどとあり得なかったように思います」

「…その件だが、城に戻ったら陛下に進言したい事がある。お前の意見も聞かせてくれないか」

「…私にわかることであれば。…ささ、こちらの寝台をお使い下さい!」

 ……護衛の仕事じゃないのに申し訳ないな。

 

 

 この村…王都から見れば最果ての、このドレイク村。ここには必要なものが何も無い。

 医師は確かに国中で不足している。どうしても貴族の住む王都に偏ってしまうからだ。

 だが…それだけでは無い。

 学校も、憲兵事務所も、他の町との行き来のための交通路も、何も無い。

 だが…こうやって宿屋がある。

 ライラさんのように、行商の出入りも多少はあるだろう。

 だが…あのポポロ。

 この村はおそらく昔から、クレインの民と共生しているはずだ。

 陛下はこの事を知っているのではないか、その疑問が頭から消えない。

 なぜならここは…こんな未発達であるのに…王家の直轄領なのだから。

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