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運命の相手は自分で探しましょう  作者: ぶくでん
フェザント城大忙し編
92/119

92.宿屋の夜

「ふふふ、やってるやってる」

 私は鏡を覗き込む。

 鏡に映るのは、集会所で魔法薬を一生懸命に作るポポロだ。


 あれから私たちは村々を歩き、足りない薬が無いかを聞いて回った。

 まぁ出るわ出るわ。頭痛、腹痛、関節痛。切り傷、擦り傷、やけどに風邪。

 当然、ショーンくんのための熱冷ましだって無い。

 つまり、ほとんどの薬が足りなかった。


 薬と代えてもらえる作物の種があるかもちゃんと確認した。…これはディノとバートさんがやってくれたんだけど。

 私とウィルは、種の見分けにおいては完全に役立たずだった。……育てたことないから。



カチャ


 部屋の扉が静かに開く。

「あ、ウィルお帰りなさい!お風呂どうだった?」

「あー……いい経験になったよ。他人と一緒に入ったの…初めてで」

「へー!お城のお風呂大きいのに!私この間双子と入ったの。本当はダメなんだって。だから秘密ね!」

「……わかった。シャロンは?」

「お風呂に果物入ってた!でも食べなかったよ!おかみさんが食べちゃダメって」

「…あぁそう」


 本当なら今夜は、魔法使いの野宿体験のはずだった。

 ウィルが魔法で壁の中に作った部屋に入ってみたいって言ったから。

「ウィル、ごめんね。宿屋に泊まることになっちゃって。壁の部屋は今度作るから」

「あー…いや、それはもうどうでもいいんだけど……」

「そう?」


 もう一度鏡を覗き込む。

「…テリーは何してるの?」

 ベッドに寝転がって肘をつく私の隣にウィルが座る。

「テリーね、ポポロに聞きたいことがあるんだって。何でもライフワークっていうのを見つけたって。見てみて、ポポロの肩の上に乗ってるでしょ。絶対質問責めにしてるよ」

「あ、本当だ。…真面目な猿だよね」

「ねー?私の魔力で育ったはずなのに、何でこうも違うんだろ」

 ほんと、こればっかりは謎。


「フフ、シャロンそっくりだよ」

 ウィルが微笑む。

「…君は自分で気づいていないだけで、真面目だよ。…不器用とも言えるけど」

 ウィルがタオルで頭をワシャワシャする。

「あ、手伝うよ!後ろ向いて座って?」

 ベッドの端に座ったウィルの髪に風魔法をあてる。

「私が真面目っていうのは違うでしょ。…勉強嫌いだし」

「そういう事とはちょっと違うかな。…手を抜いたって誰にも咎められないのに、何でも限界まで一生懸命にやってるよ。…だから嫌いになるんだ」

「…そうかなぁ」

「そうだよ。いくらグレゴリー殿が厳しくったって、一日に本を100冊?取り組もうとさえ思わないよ、普通」

「ん〜……でもマナーの先生の方が厳しい……」

 

 そう言うと、ウィルは綺麗な顔を崩して笑った。

 すっかり乾いた髪の毛は、いつもは見えてるおでこを隠して、何だか彼を幼く見せた。

「…かわいい」

 口に出してからしまったと思った。

 ウィルに対して『かわいい』と『子どもみたい』は禁句だ!

「…まあ、実際そうなんだろうね。君にとってはポポロさんも可愛い後輩みたいだし。あと、あの呪い人形も可愛いし、以前の操りテリー人形も可愛いかったよね」

 …これは……拗ねた?

「他には?他に可愛いものは?」

「…え?」

「今日は今まで知らなかったシャロンをたくさん見られた。ヴィラの偽装工作も転移魔法陣も凄かったし、君が会いたがってたライラさんも素敵な人物だった。…息子さんの件は大変だけど、君が薬を作れることも、後輩のために人に頭を下げて回る姿も、きっと今日じゃなきゃ見られなかった」

「ウィル……」

「不謹慎かもしれないけれど、今までの人生で一番楽しい休暇だった。…これが夢じゃないことが、すごく嬉しい」

 こ、これは…反則でしょう!

 こんなに…こんなに可愛いウィルは今までどこに隠れてたの!?

 

 ダメ…何か頭から湯気出そう…。

 ダメダメ、シャロン!ウィルはテリーじゃないんだから、モフモフしたいなんておかしいでしょ!!

 でも、ちょっとだけなら…。

 ちょっとだけ……


 私は初めて、自分からウィルにキスをした。

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