91.種
「…これはまた、ブサ…奇天烈な商品ですね」
ウィルが何かを包み隠して言葉を発する。
「…なんじゃ、これはクレインでは最高級品なんじゃぞ。何せ手作りじゃからの!」
「……なるほど」
確かに、どれもこれもクレインで手に入れるには〝待たなければ〟いけない。
…そっか、手作りか…。
フェザントに来るまで知ろうとしなかったこと、物を手に入れるために払う対価…。
「あなた、クレインではこれを何と交換してたの?」
白い魔法使いに話しかける。
「…そうじゃなぁ、時と場合によるが、一番人気は火種の魔法じゃな。あれがあると煮炊きも風呂も早いでな」
火種の魔法…。
「ああ、だから種を求めてここに?」
ウィルの質問に、白い魔法使いが明らかに見下した顔をする。
「なんじゃ、イケメンなのは顔だけかい。…お主3日で飽きられるぞい」
「……………。」
「火種が欲しいならクレインで手に入れるわい。儂らが欲しいのは作物の種に決まっておろうが!このままじゃ儂らの村は来年には飢え死にじゃ!」
飢え死に…?
「最近の首都の人間は贅沢なんじゃ!ホイホイ取り寄せしよるから、儂らは種籾までみーんな使うてしもうた。種は大事なんじゃ。…クレインで分けてくれるものなどおらん」
「…(シャロン、この人の言うことよく聞いて。君がフェザントで出来る事のヒントが隠されてる)」
「…(テリー…)」
私が知ろうとしなかった魔法のこと。
取り寄せは…誰かのものを、手に入れること…?
「…お爺さん、厳しい話をするんだけど、多分、この品物じゃ……種は手に入らないと思う。…親父もそう思うだろ?」
ディノが重そうに口を開く。
「…そうだな。よくて手の平分の麦ぐらいか…」
「なっ……!!」
白い魔法使いはあからさまにショックを受けている。
「なんでじゃ…!これらは最高級の…!」
「…この村には、必要がないからです」
ディノが…すごく申し訳なさそうだ。
「なんと、なんと…儂は種を持って帰らんと、村が……うおーんおんおん、おーいおいおいおい………」
「!!」
泣き出した老人に、一同驚愕している。
「…ウィル、ちょっといい…?」
私はコソコソとウィルを呼ぶ。
「…なに?」
「あのね、私…フェザントの決まりとかよくわからないんだけど、あの人…逮捕するの?」
ウィルがちょっと困った顔をする。
「…悩ましいところだね。法律に則るなら逮捕して取調べが済んだら強制送還…だけど……」
「…だけど?」
「取調べは済んだからね。あとはクレインに帰ってもらえれば、別にいいかなって…」
「!! じゃあ、じゃあ、あの人に一晩だけちょうだい!私がちゃんと見張るから、一晩だけ…!」
一晩あれば、彼ならきっと作れる。
「…まさかあの老人と一晩過ごすつもりじゃないよね」
「え?必要なら……」
「却下」
「え゛」
「…遠くから見張るだけなら、考えなくも無い」
「ウィル〜〜!!」
今日は何だか優しいウィルに、ぎゅっと抱きつく。
「…殿下方は本当に仲が良くてらっしゃるな」
「……時と場合を選んで頂きたいけど」
ディノとバートさんの呟きは無視して、おいおい泣き続ける白い魔法使いに話しかける。
「ねぇあなた…あー、えっと、名前なんだっけ?」
「…儂?…ポポロ」
「「!!」」
「ポポロ?いい名前ね。ねぇポポロ、私にいい考えがある。この村の人が今一番欲しいもの、あなたなら用意できるわよ」
「…儂に?儂はこれ以上の呪い人形は作れん」
「あー確かに。これは最高に可愛いもんね」
「「!?」」
「これは私があとでもらう。…風の羽10個と交換っていうのはどう?」
「そんなに…?」
「最高級品でしょ?少ないくらいじゃない?」
「…先輩……!!」
うむうむ。後輩は大事にしないとね!




